第13話
コイツは馬鹿だ。
自分の力で手に入れた訳ではないにれにすがり、あまつさえ周りにも強要する。
何故見下す?
見下すだけの自分なぞ、何一つも持っていないくせに。
何故、侮蔑する?
産まれた時から当然のように与えられていたとしても、それは己に価値があるからでは決してないのに。
何故、奪い取れると思うのか…………。
特別だと思い込み、道理も摂理も弁えない者などに誰も本当の意味でついて行きはしないのに。
愚か過ぎる。
いっそ滑稽だと思うほど。
憐れみすら感じる。
他人のモノを幾ら纏っていたとしても、いや、だからこそその重さに気付かない。
選ばれた人間ではない事に気付かない。
「だからこそ、お前を叩き潰してやるよ。…………
足を引っ張っるなよ」
最後の呟きは後ろにいる2人に言ったものだ。
「はっ、ガキが偉そうに言ってくれるじゃねぇか」
「ご心配なく、足を引っ張っるどころか貴女の予想を上回る活躍をお見せ致しましょう」
実彩の後ろにいたアレンとクリストファーは軽く応える。
アレンは自身の獲物を肩に担ぎながら。
クリストファーは右腕にある腕輪に触れながら。
実彩もニトを構えた。
目の前には大量の魔獣の群れ。
魔石の魔力に惹かれて集まった魔獣達は破壊衝動のまま、街に向かって走ってくる。
さぁ、狩りの時間だ。始めよう。
3人は実彩の合図の下、走り出した。
実彩とアレン、そしてクリストファーが魔獣の群れに向かうほんの3時間前。
フィンと入れ違いに出てきたアレンと実彩は冒険者ギルトの前にたどり着いていた。
ギルト内から人の怒鳴り声が聞こえる。
『あの冒険者の情報を出せと言っているのが分からないのか!? たかだか受付嬢ぶぜいがバズーラ家の騎士である俺達に楯突くな!』
『貴方達が貴族に仕えてる騎士だろうがやっていることはそこら辺のゴロツキと大差ないじゃない!! 私達ギルトの職員は正当な理由が無い限り、決して冒険者の情報を第3者に渡すことなんてしないわよ!?』
女性の言葉が聞こえなくなった瞬間、何かが派手にぶつかる音が響き渡った。
『高貴な方に仕えし俺達に対してゴロツキとは何だ! 女は黙って男に従えばいいんだよ!!』
その台詞だけで何があったのか、アレンと実彩は容易に想像がついた。
バズーラ家の騎士の1人が受付嬢を殴り飛ばしたのだろう。
「…………」
「…………アレン団長とやら」
「なんだ? ガキ」
「中に居る私兵騎士共を残らずしょっぴくんだよな? 無駄な抵抗をさせないために少々手荒にしても問題ないよな?」
「あぁ、まっったく問題ねぇぜ?」
2人の目は完全に据わっていた。
アレンは鞘をつけたまま剣をとり、実彩はマジックアイテムのリュックから木刀を取り出した。
その際、ニトを武器化したままの状態で懐に入れた。
念の為だ。
ギルトの外はバズーラ家の私兵騎士対王国派遣騎士と冒険者達が抗争を始めていた。
ギルトの中に残っているのは受付嬢達だけのようだった。
「他のギルトの職員共はどうした。なんで受付嬢しかギルトに残ってねぇんだ?」
アレンが私兵騎士の1人を鞘付きのまま殴りながら呟く。
確かにおかしい。
ギルトの職員には戦闘が得意な職員もいる。
しかし、その職員の姿が見えない。
ギルトマスターすら姿を見せていないのは異常だ。
そんな実彩達の疑問にアレンの部下の1人が私兵騎士を牽制しつつ説明してくれた。
「どうやらバズーラ家の騎士共は戦闘要員のギルト職員やギルトマスターを転送型のマジックアイテムで全員地方に飛ばしたようなのです! 現在彼等がどこに飛ばされたのか俺達にも分かりません!!」
「なんだと!?」
「うわぁ」
アレンは驚愕し、実彩は呻いてしまった。
「受付嬢は“少年”の情報を得るためか、あえて残されたようですが………」
言いにくそうに言葉を濁す部下にアレンは歯を食いしばった。
「これ、バイエル国終わったんじゃね? 冒険者ギルトと冒険者達もそうだけど、各国だってきっと黙ってないぞ」
隠蔽もここまで人目に付いているのだ、無理だろう。それにしても…………。
「ここまで国に泥を塗ったバズーラ家とやらもマズいことになるんじゃないのか?」
下手したら一族朗等処刑もんじゃね?
各国に散らばる冒険者ギルトと冒険者達との全面戦争になるかもしれないし、回避するためにはもう、元凶を差し出すしかないよねこの状況だと。
と考えをアレンに述べたところ、アレンもそれを聞いていた彼の部下も苦虫を噛み締めた顔をした。
おや?
「……一族朗等処刑にはならないと思うぜ、魔術師ていうのは血筋によるのが大きいからな。しかもバズーラ家の当主が指示を直接出しているわけじゃねぇし、どちらかというと私兵騎士共が勝手に暴走している感じた」
「だからといって流石にお咎め無しにはならないだろう。ギルトだって面子があるし、今回のことは明らかに向こうに非があるのは明白だ」
「…………まぁ、そうなんだが」
アレンの歯切れがすこぶる悪い。
一体何なんだ?
「バズーラ家の嫡子は確かに屑で典型的なお貴族様なんだか、当主自体はマトモな人なんだよ。むしろ人格者で冒険者ギルトにもかなりの恩を売ってるし、援助や人材派遣にも力を入れていて……………周辺国にも顔が利く人なんだよ」
「…………」
「国としても外交に強い人材として重宝しているみてぇだし、本人も優秀な人だし………」
「…………で?」
「俺達派遣騎士にとっても居なくなったら困る人でもあるんだよ。なのにあのクソったれ共が……」
そうか、当主自体はマトモなのか。
なのに跡継きである息子は典型的なお馬鹿さん。
その下の私兵騎士共は屑。
「………………………」
(いたたまれねー! イヤね、別に私は自分が悪いだなんてこれぽっっっっっっっっっっちも思ってないけど。なんつうの? ここまでの騒ぎの火種である事実は変わらないよね? 私が火種なんだよね?? あのクソったれのバカ貴族とその手下共をあそこまで煽っているのは私なんだよね!!?)
冷や汗がダラダラ流れる。
私兵騎士に木刀を振りかざし、拳を叩き込む。
「アレン団長、一つ言っときたいことがあるんだか………」
「………ん? なんだ、ガキ」
訝しむアレン。
何だよ、この忙しい時に。
実彩は意を決してアレンを見上げた───────────そして。
「実はさ、バズーラ家の馬鹿子息をぶっ飛ばした噂の冒険者て私なんだよね」
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「…………………………お前?」
「……あは?」
気まずい沈黙が2人を包む。
幸い、周りは実彩の言った言葉が聞こえてない様子。
ムズンとアレンが実彩の首根っこを掴んだ。
「────それを早く言えーーーーーー!! こんのバカガキがーーーー!!!」
アレンは実彩を担ぎ上げて冒険者ギルトから立ち去ろうとした。
「ちょ、ちょっと待て!? このまま立ち去る気か!!」
「うるせぇ、クソガキ! 知ってたらそもそも連れて来なかったんだよバカ!!」
アレンの部下達は突然実彩を担ぎ上げて走り出した団長を見てギョとしている。
しかしアレンはそれどころではない。
「今はテメェの保護が最優先なんだよ! 誰の為に、ギルドの受付嬢が身体張っていると思ってんだ! ギルトと受付嬢は部下に任せる!! テメェはさっさと非難────」
ボッガアアアアンッッッッ!!!!!
突如として響き渡った爆発音。
アレンと実彩、そして派遣騎士達が見たのは赤い火柱を昇らせる冒険者ギルト。
そして空から降ってくる紅い雫と朱く染まった布の切れ端、嫌な臭いのする黒い煙。
良く見たら布の切れ端は女性のもだったのか、花柄の可愛らしい刺繍が施されていた。
その、布が、空から無数に降ってくる。
紅い雫と共に、実彩達の身体をまんべんなく濡らしていく…………。
「なんだよ、コレ………」
実彩の呟きは、応えられることは無かった。
「………」
実彩を抱える腕に力を入れたアレンは無言のまま、その場を立ち去るのだった。
実彩はだだ呆然と小さくなっていく冒険者ギルトを見つめるしか出来なかった。
いつ、王国派遣騎士団本部についたのか、実彩には分からなかった。
アレンは実彩を団長室に備わっているソファーに座らせて頭から毛布のような物を被せて、ここを動くなと言い言葉少なく出て行った。
「………」
実彩はひたすらに混乱していた。
冒険者ギルトが爆発して、空から降ってきたモノがなんなのか、実彩にはもう分かっていた。
分かっていたが、理解したくなかった。
何故?
何故こうなった??
どうしてこんな事になったんだ!
私のせいなのか、私があのクソ貴族のケンカを買ったからこんな事になったのか。いいや、私は悪くない。あれは向こうが不当な言いがかりをつけてきたんだ。
思い出すのは実彩が冒険者登録をする為に受付嬢に話しかけたこと。
受付嬢は実彩が森の中で狩ったヒワトリもどき(*もう一匹狩っていた)を鑑定したときの事だ。
『こ、これは!!?』
緑色の髪をした受付嬢は実彩から受け取ったニワトリもどきを見た瞬間固まり、ニワトリもどきを掴んだと思ったら奥に引っ込んでしまった。
『なんだぁ?』
実彩は訳が分からず、キョトンとした。
すぐに受付嬢は戻ってきた。
『……失礼致しました。鑑定が終わるまでの間に冒険者登録を致しますがよろしいでしょうか?』
『別に構わないけど……』
ホント、何なんだろう。
『畏まりました。わたくしは受付嬢のシーラと申します。それではこちらの水晶に手を翳して下さい』
と実彩の目の前に拳大の丸い水晶が置かれた。
実彩は受付嬢のシーラに言われた通りに手を翳した。
『水晶に向かってご自身のお名前、ご年齢を述べて下さい』
『名前と年齢だけでいいのか?』
『はい』
シーラが頷くのを確認して実彩は水晶に向かった。
『名前は手塚実彩いや、実彩・手塚。16歳だ』
『16歳!?』
シーラが目をまん丸くして驚いた。失礼な。
『何か問題でも?』
『い、いえ……』
嫌みなぐらい笑顔で言ったら速攻で顔をそらされた。………いいのか、受付嬢。愛想はどうした。
そうこうしている内に水晶が2、3点滅したと思ったら突如強い光を発した。
実彩は驚いて手を離したが水晶の光は収まらなかった。
『うそ………貴方、魔力持ちなの!?』
シーラは、はっと自分の口を抑えた。
しかしすぐに実彩の手首を掴んでニッコリ笑った。
『えっ、と…………なにかな、この手は?』
『確保です』
『………』
どうやら実彩は受付嬢シーラに確保されたらしい。
いや、何でだよ!
『コカトリスの雛を持ってきた時はまさかとは思ったけど………しかも魔力持ち……………十年、いえ、百年に1人の逸材だわ! ここで万一逃がしたら冒険者ギルトにとって大きな損失になるわ、貴方には是が非でも冒険者になって貰うわ!!』
『いやあの…………冒険者になりに来たんだけど』
(つか今この人私が持ってきたニワトリもどき、コカトリスの雛とか言わなかったか?)
コカトリス
アニメ・ゲーム関連の敵役によく登場する鳥型のモンスターだ。
コカトリスと目を合わせた者はすべからく石化されてしまう。RPGの中ではコカトリスの血には毒がある設定のものもあるが………。
(大丈夫だよね。私、あのニワトリもどき………コカトリスの雛?食べたけど身体に変調はないし、大丈夫だよね? アレ??)
『とりあえず、ミィサ? 様。魔力の判定を致しましょう!』
『ミィサではなく実彩です』
『ミーシャ?』
『……もうそれでいいです』
実彩は諦めた。
こちらは明らかにヨーロッパ風だから仕方ないかもしれない。西洋と東洋の言葉の壁は厚かった。
『それにしても…………その、女の子みたいなお名前ですね』
『女ですからね』
『えぇえええええええええええええ!!!』
シーラは実彩の上から下までマジマジ見た。
だから受付嬢がそんな態度とっていいのか。
『それは失礼致しました! ミーシャ様。それでは魔力の判定をしましょう!!』
シーラはガサゴソと下から更に複数の水晶を取り出した。全部で7つ。
『こちらの水晶も先ほどと同じように手を翳して下さい』
有無を言わさない強力さがあるが、気にしては負けだと実彩は水晶に手を翳す。
すると、先ほどの水晶と同じく。水晶が点滅し始めた。
『素晴らしいです! ミーシャ様には全ての属性に適正が見られます!!』
ちなみにこの世界の属性はゲームおなじみ六大元素である。
『えっ!?』
『?』
7つめの水晶が点滅している。
それを見たシーラのテンションは更に上がった。
『治癒属性に反応!?』
そういえば、この世界には魔力があるがその中でも治癒属性の魔力持ちは国に1人いればいい方だってセフィロトからもらった本に載ってたな~。
『ミーシャ様? 治癒師になるつもり、ございませんか?』
……………………………………………………………………受付嬢、お前はハンターか何かか?
物騒な目ぇしてんぞおい。ギルドの受付嬢は花形だろう。猫を被れ、猫を。
この時はまだ、冒険者ギルトにも実彩にも平和な時間が流れていた。




