1. 都会から田舎へ
「え… 今日が最終出勤、ですか。」
直属の上司から呼び出されて告げられたのは、突然のリストラ宣告だった。
大学進学を機に地元を離れて10年、新卒で入社した会社で6年。
目立たず地味に、だけどコツコツ堅実に働いてきたつもりの俺にとって、まさに青天の霹靂だ。
なのにここ最近、残業と早朝出勤続きで寝不足が限界突破しているせいか、表情も感情も追いついてこない。
多少戸惑ってはいるけど怒りも湧いてこないというか、むしろやっとこの寝不足地獄から抜け出せるのか、などと脳が勝手に考え始めている。
「業績とか、諸々熟考しての上層部の判断だそうだ。再考してもらえるようにかなり粘ったんだが…力不足ですまない。」
「いえ。課長のせいではないですから。…今までお世話になりました。」
企業としての体質は正直かなりブラックだけど、なんだかんだ課長が配属されてからチームの風通しは良くなった。
今まで良くしてくれた課長は何も悪くないし、責める気もない。
ヨロヨロと自席に戻った俺は、しばらく放心状態でデスク周りを見回す。
同僚も気まずそうに様子を伺ってはいるけど、なんて声を掛けたらいいのか分からないって状態だ。
そりゃそうか。
ここで俺に同情して会社を貶すような事を言おうものなら、明日は我が身かもしれないんだから。
いつまでも呆けてる訳にいかないので、急ぎの案件など、優先度の高いものから引き継ぎ作業を進める事にして、俺は最終出勤日をやり過ごした。
◇◇ ◇◇
「ッフーー。思ったより荷物多かったな」
結局、引き継ぎ作業に追われて慌ただしいまま1日が終わった。
業務後にデスク整理をしていたら、6年働いていた割に私物が少なくて、自分でも驚いた。
会社との繋がりが薄い というのか、こういう所も含めて俺が選ばれたんだろうな、と少なからず納得できてしまう自分が情けない。
俺のリストラの話はあっという間に社内に広まったようで、部署内外で関わりのあった人たちからお菓子や花束など受け取った。
最終的に私物よりも餞別の量が多くなって、帰りはタクシーで帰宅する事になった。
静まり返った部屋で、ソファーにもたれて脱力して、やっと実感が湧いてくる。
明日から、朝早く満員電車に乗って出勤しなくてもいい。それは嬉しい。
嫌味な他部署の同期から、仕事を押し付けられて残業もしなくていい。これも嬉しい。
明日から無職のプー太郎。働き盛りのアラサーにとって、これはいささか問題か。
だけどブラック企業で6年、毎日、馬車馬のように働き続けてきたその結果がリストラだ。
明日から精力的に就活できるかと言われると、これっぽっちも気力は湧いてこない。
とりあえずお風呂に入って、布団に潜ってみても、考えはまとまらない。
よし。
こういう時は、一旦寝よう。
まぁ、今日は好きなだけ寝て、気力体力が回復するまでしばらくゆっくりしてもいいか。
そんな事を考えているうちに、いつの間にか眠りについていた。
◇◇ ◇◇
翌日、寝て起きたらすでに日が傾いていた。
半日以上寝過ごしていたみたいだけど、洗面所の鏡に映る目の下に住みついたクマは、まだくっきり色濃い。
元々そこそこ顔は良いと自覚はあるが、何せ顔色が悪くすぎて、改めてまじまじ見ると年齢より老けて見える気がする。
文字通り、命を削るような無茶をしていたのだろう。
恐らく気のせいではない。
何をするにしても、まずは心身ともに健康的な生活を取り戻す必要がありそうだ。
軽食を腹に入れたら、スッキリした頭で電話を掛けてみる。
「おじさん、久しぶり。うん、俺は元気だよ。去年じいちゃんが俺に残してくれた家、そう。あれ、今どうなってるのか、気になって。…ハハハッ、色々あってさ、しばらくはそっちに住もうかなって考えてて…」
仕事が無くなった今、この街に居続ける理由も特段ない。
実は、去年の秋に亡くなった爺ちゃんが、持ち山と家をなぜか俺に残してくれていた。
その事を思い出した俺は、田舎でデジタルデトックスも悪くないと思いついて、管理を任せている親戚へ数年ぶりに連絡してみたのだった。




