20.おとり作戦
「ネルちゃん、ホントに大丈夫かしら?」
屋根の上に潜む俺とマゾエスの目線の先には、庶民服に身を包み、通りをトテトテ走るネルの姿があった。
「キラードが女神から受けた加護の多くは潜伏と逃走に特化したものばかりよ。アタシが任務に失敗したのもそのせいなの。彼が本気で逃げに徹したら、アタシだって追えないのよ」
心配そうに腕をさする大柄のマゾエスを横目に、俺は紫色の髪を上下に揺らして走るネルを見つめ続ける。
「大丈夫だ。俺の持つ『超音波』のスキルは視覚に頼らない。たとえ『隠密』や『隠蔽』、『透明化』使われたって相手の位置を捕捉できる」
「あなたが言うのならそうなんでしょうけど、それでも不安だわ……」
「少しは落ち着けマゾエス。俺たちがしくじらない限り、ネルに害は及ばないんだ。……そろそろネルが犯行予測地点の路地裏に入るぞ!」
作戦通り、ネルが路地裏に入った。すると突然、ネルの真横にフードを目深に被った男が現れた。
「……キャー」
ネルが棒読みの悲鳴を上げた途端、また男の──抱えられたネルの姿さえも消え失せた。
「『超音波』。よし、捕捉した。このまま手筈通り、拠点まで案内してもらおうか」
***
「なんなんだあいつら。おれの姿は完全に見えないはずだってのに……」
キラードは、建物の屋根を伝ってくる追手に気付き、撒こうとしていた。だが、『透明化』と『隠密』を重ねがけした自分を当然のように追ってくる二人の気配は一向に消えなかった。
「キャー。離せこのフシンシャ」
「うぜぇ……」
さっきから何度も、肩に背負った紫髪の子供が手足をバタつかせて棒読みの悲鳴を上げるのだ。当然、キラードの感情は荒れていた。
「おまえは白々しすぎんだよ黙ってろ!」
「キャー。怖い怖ーい」
「テメェには後で、誰よりも苦しい死を与えてやるから覚悟しておけ!」
半笑いで下手な演技を続ける子供は一旦無視し、キラードは『瞬歩』を使い速度を上げた。
「これで撒ける相手ならいいんだかな……」
***
「ねえルーカスちゃん。あいつ、速くなってない? もしかしてアタシたちに気づいたんじゃない?」
「おそらくそうだろうな。マゾエス、こちらも飛ばすぞ。『突風』」
俺とマゾエスの後ろから、強風が吹き荒れ、俺たちの背を押し速度を上げる。そうして俺たちは、ネルを背負って路地裏を駆けるキラードを、建物の屋根屋根を飛び移り追いかける。
「気づかれた以上、拠点まで泳がせるのは諦めて捕まえるしかない!」
「光弾」
不意に、キラードから不規則に軌道を変える光の球がいくつも飛んできた。無回転ボールのようにフラフラと変化する光弾を、俺とマゾエスは難なくかわす。
その瞬間、全ての光弾が輝きを増した。
「氷鎧」
「岩肌」
俺とマゾエスはスキルを発動させ、己の体を氷で、岩で覆ったその時、
ドゴオォォン!
光弾は爆ぜ、足場にしていた二階建ての建物が倒壊した。その光景を見たキラードは笑い声を上げ、ネルは退屈そうな目をした。
「やったか? ザマァねぇなぁ」
「誰を……やったって?」
略奪剣をキラードの首筋に当てると、キラードは驚いて後ろに大きく跳んだ。
「なっ……おまえら、あれを喰らってなんで生きてやがる!」
「なんでって……あの程度でアタシたちをどうこうできるわけがないでしょうに」
「まったくだ」
俺とマゾエスは呆れ顔でキラードと向かい合うと、俺は略奪剣を、マゾエスは黒鞭を構え、殺気を武器に浸透させる。
「キャー。ルーカス様、マゾエス。はやく妾を助けろー」
相変わらずの棒読みでキラードを苛立たせるネルの言葉を合図に、俺は右、マゾエスは左側からキラードにゆっくりとにじり寄る。
「なんだなんだよテメェら! なんでおれの邪魔をするんだよ……おれは、女神の加護の保持者だぞ」
「なんで……だと? おまえ、自分がしでかした罪をなんとも思っていないのか……?」
「さてね。なんのことかさっぱりだ。……二度とテメェらに会うことはないと思うが、テメェらの顔は忘れねえ……次見かけたら殺す。『閃光』」
キイィィイィ……。
「目眩しか……」
まばゆい発光と、金切り音が周囲を包み込む。それを前にしては、目視での追跡も『超音波』による音を使った追跡もできなかった。
「そんなっ……ネルちゃんが、ネルちゃんが!」
閃光が止み目を開けると、周囲にはキラードもネルも見当たらなかった。
「落ち着けマゾエス、問題ないよ。これがある」
顔が青ざめたマゾエスの肩を叩き、俺は小指に結びつけた極細の蔦を示して微笑んだ。
「この蔦の先は、ネルの左手に繋がっている。……マゾエス、ネルを取り戻してキラードを地獄に落とすため、奴の拠点に乗り込むぞ!」
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