21.ネルと殺人鬼
「ここが貴様の隠れ家か……なんともまあ、陰湿な場所だな」
ネルが連れてこられたのは、ジメジメとした地下室。蝋燭の橙色の火に灯された床には、今までの被害者たちのものと思われる骨や皮が散らばっている。
「少しは怖がれよ……まあいい、気の強いやつの方が泣かせ甲斐がある」
ローブの影から覗くキラードの口元が歪む。ネルは特に拘束されることもなく、床に降ろされた。するとネルは胡座を組んで座ると、平然とキラードを見る。
「貴様は、今まで何人殺したか覚えているのか?」
「覚えてねぇけど……殺し方なら覚えてる」
キラードは床に転がった頭蓋骨を鷲掴みにして持ち上げると、ネルの眼前に頭蓋骨をぶら下げた。
「こいつは女のガキだった。おれはまず顔の形が変わるくらい殴った後、三日間水しか与えず放置した。一日目は痛い痛いと泣いていたなぁ。でも二日目からは、空腹でそんな気力もなくなってたぜ」
キラードはそう言って至福の時間を思い出すかのように怪しく笑う。そんな彼を見て、ネルもまた鼻を鳴らす。
「ふっ……外道だな」
ヒュン!
「調子に乗るなよガキが!」
キラードはいつの間にか手に持っていたナイフの刃でネルの首を撫でる。ネルは依然ゴミでも見るような目をキラードに向け続けた。
「まずはその反抗的な目をくり抜こう……」
バンッ!
キラードがネルの右目にナイフを近づけたその時、不意に地下室の扉が開く。そこには、ルーカスとマゾエスの姿があった。
***
「なっ……おまえらどうやって」
「どうやって? 簡単なことだ」
俺は指に巻きつけた極細の蔦を持ち上げ、蝋燭の明かりを反射させる。その先は、ネルの左手に巻き付いていた。
「チッ……」
「さあもう観念しなさい! あなたに逃げ場なんてないわよ」
部屋に踏み入り、鞭を取り出すマゾエス。俺は唯一の出入り口である扉の前に陣取り剣を抜いた。俺たちの殺意にキラードはのけぞり、一歩後ずさる。だが次の瞬間、キラードはたから笑いを始めた。
「テメェら、状況が分かってねえだろ」
ネルの首に腕を回し、喉元にナイフを押し当てた。
「イヤー、タスケテ、ルーカスー」
「テメェはまた性懲りも無く……」
ネルの棒読み演技に歯軋りするキラード。彼を見据えて、俺は蔦に魔力を流す。
「なあおまえ、どうして蔦を切らなかったんだ?」
次の瞬間、肉眼ではほぼ見えなかった極細の蔦は人の首よりも太くなり、キラードのナイフを弾き、体を吹き飛ばす。
「ぐっ……」
壁に激突したキラードは腹を押さえながら立ち上がる。そしてネルはその間に俺の横に駆け寄り、俺の腕に手を当てた。
「鎌鼬」
ヒュオッ!
俺の放った風の刃が風切り音を上げて、変則的な軌道でキラードに迫る。そして風の刃がキラードを捉える……その刹那、
「光盾」
カアァァァン……
キラードの眼前、光の盾が地下室を分断するように展開される。そして光の盾に防がれた鎌鼬は、周囲の壁を抉った。
「光属性スキル……女神か!」
光属性スキルは神や天使のみが有し、譲渡できるスキル。あのクソ女神──ヘスラは逃走系スキルだけでなく、万能の光属性スキルまでキラードに与えていたようだ。
あの女神、どこまでも……。
「光剣」
キラードは光の剣を握り、天井を切り崩した。そして空が見えると、
「天翼」
背中から天使の翼を生やし、逃げようと羽ばたいた。それを見て、俺は堪えきれずに笑った。
そこはマゾエスの……。
「岩石生成」
天井の穴からキラードの上半身が出た瞬間、マゾエスは大岩を二つ生成し、天井の穴を塞ぐ。
「ガッ……グァ……」
キラードの両足は大岩に潰され、地下室には蛇口から流れる水のように血が流れ落ちる。そして、マゾエスは千切れかけているキラードの足先を鞭で叩いた。
「技縛錠」
マゾエスは相手に触れた時しか発動できない、相手のスキルを使用できなくする『技縛錠』をキラードにかけた。
「これでキラードの無力化は成功よ」
「よし、では地上に行こう」
***
路地裏の一角で、上半身だけが地面から生えているキラードを踏みつけ、ネルが告げる。
「妾たちは地獄の者だ。貴様が犯した悪行の数々、せいぜい地獄で懺悔することだな。貴様には被害者たちの苦しみを十倍にして、全て受けてもらうぞ」
「はっ……罪だと? おれがいつ罪を犯した。弱い者から奪うのは、弱い者をいたぶるのは強者の当然の権利だろうが!」
「おまえ!」
俺は怒りのままにキラードの鳩尾を蹴る。だがキラードは痛がる素ぶりを見せず、ただ狂ったような笑みを浮かべた。
「落ち着いてルーカスちゃん。こういう下衆はいくらでもいるのよ。……安心しなさいルーカスちゃん。こいつは必ずアタシが性根を叩き直してやるわ!」
「あ……ああ。すまない取り乱した」
そんな俺たちのやり取りを見届けて、ネルはキラードに向き直った。
「一つ貴様に聞いておくことがある……神の力はどうやって授かった?」
「それは……女神祭で盛り上がってる隙にガキを攫おうとしたら、女神に容姿を認められ……」
「女神とはヘスラのことか?! あいつは人間界に降りてくるのか?! 教えろキラード! 奴は次いつ人間界に降りてくる?」
唐突にもたらされた女神の情報に、目の色を変えて食いつくと、キラードは呆気に取られたように間抜けな声を上げた。
「……今年の女神祭は、明日からのはずだ……」
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