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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第28話】 『契約違反で時空がバグった!? “未来日記”を巡る裁判劇』

 朝の法務所に差し込む陽光は、いつになく穏やかだった。

 ……少なくとも、彼女が現れるまでは。


「失礼します! 法律相談、お願いします!」


 勢いよく扉が開かれ、銀髪の美しい女性が、手に何かを握って駆け込んできた。

 年の頃は二十代前半。見た目だけなら貴族の令嬢かと思ったが、持っていたものがすごかった。


「……これは?」


「“未来日記”です!」


 俺の目の前に差し出されたのは、一冊の真っ黒な手帳。金箔で《未来記録帳》と刻まれている。

 ぱらぱらとめくると──


《2月14日:弁護士・高野誠一、チョコレートを5個もらう(1個はスライム)》


《4月3日:未来日記裁判で弁護士、大いに困惑》


 いや、未来の俺が困ってる!?


「……これ、どこで手に入れたんですか」


「市場で。“未来が書かれる”って評判だったんです!」


 ──また、とんでもないモノ持ち込んできたな。


 依頼内容はこうだった。


「日記に“彼と結婚する”って書いてあったから告白したんです。でも彼には婚約者がいて、“ストーカー”扱いされたんです!」


 婚約者の名前はクレイグ。騎士団の若手エース、貴族家の次男坊。

 本人は困惑気味にこう答えた。


「正直……彼女と会話した記憶がないんです」


 依頼人は目を潤ませ、未来日記をぎゅっと抱きしめた。


「……でも、未来がこう言ってたんです。“4月3日、結婚承諾”って!」


 ──それ、日付今日なんですけど!?


 法廷。

 スラーディア裁判官(スライム・法曹資格所持・粘液歴117年)が、ぬめぬめと証言台を眺めながら言った。


「未来が“書かれていた”ことと、それが“現実になった”ことは別です」


「でも書いてあるんですぅ!」


 依頼人は日記を振りかざし、ぴらぴらと開いてみせる。


「ほら、“今後、ふたりは一緒に暮らすことに”って!」


「それ、あなたが強引に同居始めた記録では……?」


 クレイグがぽつりとつぶやいた。


「では、未来日記が“現実の証拠”になるかどうか、確認を行います」


 召喚されたのは、時間魔法士ゼイム。

 くしゃくしゃ頭の魔術師が言った。


「記録魔法“タイムリーヴ”発動」


 宙に記録映像が浮かび上がる。


 ──そこには、依頼人が日記を確認した直後、

 クレイグを“未来の旦那様!”と叫んで追いかけ、勝手に家に入り込む様子がばっちり映っていた。


「……これは予言の成就というより、“願望の押しつけ”ですね」


 ゼイムの冷静な一言に、依頼人は顔を真っ赤にした。


「だ、だって! 未来日記が言ってたんですぅううう!!」


 俺はゆっくり立ち上がり、言った。


「本件の焦点は、“未来に記された内容”が契約として法的効力を持つかどうか、です」


「つまり、どういうことですか?」


「その日記が真実かどうか以前に──“未来を信じた結果、他人の自由を侵害した”ら、それはあなたの責任です」


 法廷が静まり返る。


 スラーディア裁判官が、ゆっくりと粘液の槌を打った。


「判決を言い渡します。未来日記は法的証拠とは認められません。原告の請求は棄却。被告の婚約者との関係も無関係であるため、すべての主張は却下とします」


 依頼人は、がっくりと膝をついた。

 そしてその瞬間、未来日記の文字が光りだし、自動的にページがめくられた。


《4月4日:反省中。とりあえず焼肉に行く。味噌ダレ最高》


「……元気でやってほしいですね」


 俺はそっと言いながら、未来日記の記録に自分の名前が増えてないかだけを確認した。


──《4月5日:弁護士・高野、また未来系裁判で胃を痛める》


 ……ああ、もう嫌な予感しかしない。



(リーネ=アルデス 書記官の記録より)


 王都の外れに“未来を売る屋台”が出たという噂を耳にしたのは、ランチのミートパイを三口で平らげた直後だった。


「リーネさん、なんか変な屋台出てるって……未来が買えるらしいです」


 そんな情報を、裁判所の地下食堂でサスケが口にしたときは、正直、鼻で笑った。


「未来が買えるなら、私もうちょっと仕事量減らせてると思うんだけど」


 それでも念のため──いや、ほんの少しだけ気になって、仕事帰りに王都の郊外に足を伸ばしてみた。

 すると、そこには──


 未来、売ってます!という信じられない手書きの看板を掲げた屋台が、夕暮れの空の下で怪しく光っていた。


 木のカウンターには、「来週の運勢:1ガロン」「恋の結末:3ガロン」「王族のスキャンダル予報:5ガロン」など、突っ込みどころ満載の値札がズラリ。


 屋台の奥からは、赤い羽織に金色のフチをあしらった怪しい中年男が現れた。


「へっへっへ……未来の断片、おひとついかがかな、お嬢さん。人生、先読みしてナンボですぜ」


「……誰が“お嬢さん”よ。王国司法庁の書記官です」


 名乗ると、男の笑みがピタッと止まった。


「おっとぉ……これはこれは、“お堅いお役所”の方がまさかお越しとは。未来が気になりますか? それとも、“未来がバグってる”件についてのご相談?」


「あなたが“未来日記”を売っていた張本人、ジェスタですね? 本当に未来がわかるなら、今から私が言うセリフも予知できますか?」


「『私、今夜カレーにします』でしょう」


「ブブー、残念。今夜はピザ。残念でしたね。さて、許可証を見せてもらっていいですか」


「……ええい、やはりカレーで迷っていたのが敗因か」


 言いながらジェスタは、奥から一冊のノートを取り出した。そこには“未来日記”と書かれ、装飾がキラキラしている。


「これは、来週の貴女の未来を記した特別編です。特別割引でお譲りしましょうか?」


 ――ページを開くと、書かれていた。


《〇月×日、モフ(スライム)との口論、原因:お弁当のツナを勝手に食べられる》


《〇月×日、上司に書類投げつけられ、うっかり書記官バッジで反撃》


《〇月×日、“高野弁護士にチョコを渡すか否かで三時間悩む”が日記にバレて大赤面》


「……い、いつの間に……!」


「未来はね、お嬢さん。読まれるから怖いんじゃない。“読んでしまったあとにどうするか”が試されるんですよ」


 キザか!

 いや、この男、明らかにキザな詐欺師だ!


 しかし一番腹が立つのは――この未来、当たりそうな気がしてならないことだ。


 結局私は、ジェスタに詰め寄って、“未来を勝手に記す行為”が個人情報法と魔導記録法に抵触すると警告し、即座に屋台の営業停止命令を言い渡した。


 ジェスタは笑いながら、ぽんっと私に“未来日記”を渡してきた。


「じゃあ、お嬢さん。これをあげましょう。無料で。もし未来が書かれていないページがあったら、それは“あなたがまだ選んでない道”です。どんな未来にするかは、貴女次第──ってね」


 その後、屋台は跡形もなく消えていた。


 残ったのは、キラキラとした“未記入の未来日記”一冊と、

 ……今夜のピザが、ほんのり冷めた自室だった。


 後日、未来日記の最後のページに書かれていた一文。


《なお、ジェスタは現在、“次の商売”として“過去日記”を売る準備をしている模様》


「……過去、売ってどうするのよ……!」



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