エピローグ 女神の祝福
魔王カイトの『勇者撃退』の報は瞬く間に王都中に広まり、王都は祝勝ムードで満たされた。
あと、どうやら聖剣を失った元勇者ライゼル様御一行も護衛の報告により無事、王国領へ到着できたとのこと。
「魔王カイト様ー!!」
「カイト様ばんざーい!!」
二頭のバイコーンが引くパレード用馬車に乗り、領民に笑顔と手を振りまく魔王カイトとその妻アイリス。
魔王カイトの強さと善政は、魔族領史に残る偉大なものであったと、後の歴史書に語られることとなる。
しかし、喜びに満ちたパレードの中、王都より遠く離れた辺境の地では……
魔王カイトに婚約者であったアイリスを奪われてしまった淫魔族・ノクトの姿があった。
会ったこともない、親同士が決めた婚約者であっても、いくら前魔王を倒した魔王相手であっても婚約者に逃げられたとあっては淫魔族の名折れとばかりに、ノクトは爵位継承権を失ってしまい、自室に幽閉される日々を送っていた。
彼は荒れ狂い、美しかった銀色の長い髪は乱れ、目の下にはクマも酷く、ベッドシーツは破れ、枕からは綿が飛び出し……彼も、彼の部屋中も全てが荒れ果てていた。
最初の頃は屋敷のメイド達が都度、部屋を片付け直していたが、今ではもう直されることもなく、入り口の扉には外から鍵がかけられてしまっていた。
「クソッ!なんでだよ!チクショウ!!」
彼は今日もまた、ベッドに、枕に、カーテンに……そして本棚に対し当たり散らしている。
すると、本棚を拳で叩いた際、何かを押し込むような感触と共に本棚が横に移動し、地下への階段が彼の目の前に現れた。
「……なんだここは?俺の屋敷にこんな階段が?」
屋敷の隠し階段の先は暗闇であったが、まっすぐ伸びた廊下の先は空へ通じているのか、月光が差し込んでいた。
彼は手に伝わる石壁の感触と、先に見える月光を頼りに進むと、どうやら屋敷の外、井戸の底であったようだ。
そして、井戸の底には月光に照らされた、井戸の壁に彫られた一体の女神像。
神々しく照らされる女神像に、彼は無意識に、自然と惹かれ手をかざす。
「うおっ!」
彼が手をかざした瞬間、女神像がまばゆい光を発し、彼に語りかけた。
「悲しみを胸に秘めたる者よ……誰も責められず、誰にも問うことのできない、悲しみを胸に秘めたる者よ……」
いちいちその通りであるが、その言葉、今の彼に効くであろう。
「おゆきなさい……心のままに……そなたも、数多の勇者の一人と……」
世界の遥か上空にあると言われている、天上界と呼ばれる世界……下界の様子を映し出す鏡の前で、純白のドレスを着て翼の生えた一人の女性が続きを呟く。
「……なるのです。そなたに、女神の祝福を与えん……」
鏡の中では、ノクトが驚いたような表情で佇んでいる。
「おっ、おいっ!!」
鏡には、手を伸ばすノクトに構わず一方的に語りかけ、そして崩れ落ちる女神像が映し出され、女神像の跡には、輝く一本の剣が残されている。
「女神の祝福……俺が?あの魔王カイトと同じ女神の祝福を?」
ノクトは迷いながらも輝く剣を手に取り、誰に誓うわけでもなく言葉を発した。
「この剣で俺は……魔王カイトを倒し、新たなる魔王となる!!」
クスクスクス
翼の生えた女性は面白おかしく笑う。
「さて、この方はどんな『ざまぁ』を見せて楽しませてくれるのかしら?」
クスクスクス
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