戦闘員『改造……』
すいません、投稿忘れてました。
聖国イルビランテにある王城、その一室で秘密裏に部隊が編成され、この国の国王ランテ11世とリーン教会の教皇が任命の議を行っていた。
片膝を突き頭を垂れているのは、この国でも有数の実力者達。その中には聖女ヒーリスの姿もあり、若干眠そうにしていた。
そんなヒーリスの眼が、カッと見開き教皇を見る。
「何だいヒーリス、質問でもあるのかい?」
「魔王候補が倒れました」
「……はっ?」
ヒーリスの言葉に理解が追いつかず唖然としていると、その反応が聞こえなかったと判断したヒーリスが同じ言葉を繰り返す。
「魔王候補が倒れました」
「……調査に行きたくないからと、嘘言ってるんじゃないだろうね?」
ヒーリスの性格をよく知る教皇は、サボリ癖はあっても職務に関しての嘘は付かないと理解している。それでも、その口から出た言葉は、容易に信じられるものではなかった。
「幾ら私でも、そのような嘘は申しません。 事実、魔王候補の反応がそう示しているのです」
「他に何か分からないか? 誰が倒したのか、どうやって魔王候補が討伐されたのか、何が起こっているのか、何でも良い、何か情報は無いのか?」
「え〜とぉ、どーかな〜」
「あるんだね、正直に話しなさい。ヒーリス、貴女は分かり易い」
必死にそっぽ向くヒーリスだったが、教皇はそのあからさますぎる態度にイラッとした。
そこまでの教皇と聖女のやり取りを聞いて、ようやく理解出来た国王が口を開く。
「待て、魔王候補が倒れたのならば、脅威は去ったのではないのか? 魔王候補を倒した何者かが、新たな脅威になるとでも言うのか?」
「その可能性はありましょう。 それ以上に魔王然り、魔王候補の肉体には強力な魔力が宿っております。それは如何様にも転用でき、中には超等級魔法の触媒になる物もあります。下手をすれば、また戦争が起きてもおかしくはありません」
「なんと……」
絶句した様子の国王だが、それは逆を言えば自国が手に入れてしまえば、強力な力を手に入れる事と同義である。
前回の魔王候補の肉体がどうなったのか気になるが、今回の魔王候補の肉体の行き先も把握しておかなければならない。
「聖女よ、魔王候補は、魔王候補の肉体はどうなったのだ?」
聖女は口篭る。
それは、言えば厄介な仕事を回されると理解しているからだ。魔王候補ならばその姿を追えたのだが、今はもう何処にあるのかも分からない。
そんな物を探せと命令されるのは分かっている。
「どうした、はよ言わんか」
「えーっとぉ……」
どうやって誤魔化そうかと悩んでいると、教皇からため息が漏れる。
「はあ、ヒーリス」
「はい」
「諦めなさい」
「嫌です」
諦めたらそこで試合終了。
それ即ち、終わりなき旅の始まりである。
「役目を果たさないのならば、粛清の対象になるが」
「く〜!? 横暴です!役目は果たしてます! ただちょっと行きたくないだけです!」
「それが役目の放棄になるんだ。 いい加減話しなさい」
悔しくて涙が出そうになるが、どうやらここで試合終了のようだ。これ以上ゴネたら物理的に首が飛びかねない。
周囲は涙を流す聖女にドン引きしており、どんだけ嫌なんだと呆れていた。
涙を流しながら出た内容は、
「うっ…………何かに、何かに取り込まれて消えました」
何とも要領を得ないものだった。
◯
ハシノ村は変わらずに存在している。
一月前にモンスターピートを経験し、多くの村人が命を落としたが、それでも生き残った者達で村の再建は進んでいた。
「あんた達! 私より先に食べてるんじゃないわよ!」
村の一角で子供達が集まり、沢山のお菓子に手を伸ばして口に運んでいる。
アンリエッタは誰よりも、我先にとお菓子を手に取り口に頬張っていく。何種類もお菓子を詰め込んだせいか、味は甘い以外の味覚を教えてはくれなかった。
子供達はやべーのが居ると、身を縮こまらせる……訳もなく、アンリエッタに負けじとお菓子食べていた。
子供達の周りには戦闘員の姿があり、体には《3》の文字が表示されている。勿論、これをやったのはアンリエッタだ。
増え過ぎた戦闘員を識別する為に数字が振られたのだが、その戦闘員の主人であるジントの姿はここにはない。
「待ちなさい! この子がまだ食べれてないわよ!」
アンリエッタは近くににいる女の子が、まだ何のお菓子も食べてない事に気付いた。お前らがバクバク食ってるから食べれないだろうがと、自分のペースは落とさずに周囲を非難する。
「……いらない」
ポツリと呟いた女の子は、下を向いて沈んだ表情をしている。
その言葉を聞いたアンリエッタは、初めて食べる手と口を止めて女の子の背後に移動する。アンリエッタは女の子よりも歳上だが、身長は残念ながら負けており、椅子に座った状態で同じくらいの高さになる。
「とうこん注入!!」
アンリエッタは大声で叫ぶと、女の子の背中に手を当てて回復魔法を注入する。
本家本元の闘魂注入は知らなくても、戦闘員が張り手をやりながらトウコンチュウニュウの看板を持っていたのを見た事がある。
きっと気合いの入る言葉なのだろうと、勝手に解釈したアンリエッタは、勝手にアレンジして自分なりに元気を注入していた。
しかし、これで女の子が元気になる訳ではない。それでも少しだけ前向きになれたのか、お菓子を一つ手に取って口に運んだ。
ヨシ!と口にしてアンリエッタは自分の席に戻る。
このお菓子会はアンリエッタが企画したものだ。
今回のモンスターピートで被害を受けた子供達に何かしてやれないかと思い、両親を飛び越えて何故か戦闘員に相談すると、お腹が空いてたら元気が出ない、ならお腹いっぱいお菓子を食べさせようとなったのだ。
因みに準備、片付け、司会進行、全て戦闘員だったりする。
それでも、アンリエッタからの相談で、戦闘員3号が積極的に協力してくれた。
お菓子会でお腹が膨れると、休憩の紅茶やオレンジジュースが出される。
アンリエッタはふうとお腹を休めていると、あの日の出来事を思い出していた。
あの日、隣村に避難する事になり、列を作って移動していた。
皆が少しばかりの緊張感は持っていても、きっと大丈夫だと楽観視していた。それだけ村長のモロクが信用されているのもあるが、戦いに赴いた村の戦士達を信頼していたのも大きい。
また元の生活に戻れるのだと、誰も疑わずに歩いていた。
アンリエッタも弟のアルスロットとジントの妹のリーナ、それとマルロウに託された子の手を引いて移動していた。
和気藹々とまではいかなくても、ゆっくりとした足取りで進んでいると、突如として不吉な色の線が走った。
その線は列を横断し、林を突き抜けて行く。
そして爆発が起こった。
目の前が赤く染まり、多くの人が被害を受けた。
年寄りから子供と、戦う力の無い者達が被害に遭ったのだ。
アンリエッタはその様子を呆然と見て、そして動き出す。
手を引いていた子供を弟に預けると、負傷した人の救助に向かったのだ。皆が状況を理解出来ずに恐怖で固まっている中で、唯一アンリエッタだけが動けていた。
怪我人を見つけると、回復魔法を使って怪我を治療する。周囲を見るとかなりの数が負傷しており、とてもではないが、一人では助けられる人数ではない。
だから助けを求めた。
「負傷した人達の治療をして! 早くしないと助からないわよ!」
周囲に向かって叫んだアンリエッタの姿は、これまでと違って頼もしかった。その血のなせる業なのか、アンリエッタの声には、人を動かす力があった。
アンリエッタの指示で動き出した村人は、皆で協力して負傷者の救助に当たる。
アンリエッタの魔法技術は戦闘員2号の魔力操作によって格段に上昇していた。唯てさえスキル成長率UPにより急速に成長しているアンリエッタだが、お手本となる魔力操作を経験して、魔法の腕前は両親であるロイドとソフィアに匹敵するまでになっていた。
それでも、中には息をしていない者や原型を留めていない者もおり、回復魔法を使用しても救えない命もあった。
それでもアンリエッタは俯かない。
自分にやるべき事が見えており、自分に何ができるかも理解していたから。
「そっちの子連れて来て!回復魔法使うから!」
魔法を使いながら、父と母の顔が浮かぶ。
パパとママならどうするだろう、きっともっと上手くやるんだろうな。そんな事を考えながら、避難所から出て行った幼馴染を思い出していた。
◯
急速に復旧が進む村を見て、ジグロは安堵する。
これから冬を迎えるというのに、先のモンスターピートで多くの家が無くなっていたのだ。
避難所も全て破壊されており、集まって休める場所が村長の家しかなかった。
それが、もの凄い速さで家が建てられて行く。
幾ら強いと評判のハシノ村の村人でも、一日一件という速度で家は建築出来ない。
では、誰がやっているのかと言うと、勿論、戦闘員である。
一日一件と言わず、二件ほど建てる時もある。
その建築様式は見た事もない物ばかりで、ふんだんに魔道具を使われており、冷暖房完備、風呂トイレ付き、排水機能もバッチリである。
ただ、使用する度に魔力を消費するが、微々たるモノなので問題ない。てか、今建てられている物件の方が、間違いなく住みやすい。
「家もやってくれないかな……」
ジグロがポツリと呟く。
すると肩を叩かれてそちらを向くと、戦闘員1号が親指を立てて任せろと合図を出していた。
どうやら村長の家も改装するようだ。
去って行く戦闘員1号の背中を見送り、コイツらは何なんだろうなと考える。
戦闘員は英雄だ。
それは揺るぎない事実である。
あの絶望的な状況で、恐ろしい赤いオーガを倒してくれた英雄だ。
赤いオーガが倒れた後、残されたモンスター達は魔の森に帰り身を潜めている。以前は散発的に魔の森からモンスターが出て来ていたが、あれ以来一匹も出て来ていない。
たった二人の英雄に、あの数のモンスターが退散した。
信じられないような話だが、しっかりとこの眼で見ている。否定するつもりは無いが、それでもと考えてしまう。
もっと早くに、ああは成らなかったのかと。
今回のモンスターピートで受けた被害は計り知れない。村人の三分の一がその命を散らした。
その中には父であり村長のモロクも含まれており、悲しみに暮れる暇もなく、次の村長に息子のジグロが決まった。
モンスターピートを終えた二日後、ジグロは領主であるエッジ男爵に挨拶に向かう。今回の件の報告もあり面会したのだが、ただ一言、そうかと言って見舞金を受け取り終わったのだ。
自領の兵士も犠牲になったというのに、余りに冷たい対応だった。
挨拶もそこそこにハシノ村に帰ると、戦闘員達が村の再建に取り組んでいた。
新たに増えた戦闘員。
その戦闘員達の手によって作られて行く新たな風景に、まるで違う場所に来てしまったような感覚に襲われる。
そして、その召喚主であるジントについて考える。
あの日、赤いオーガを倒した後、ジントは死にかけていた。
「ジント君!」
リリアナの命を救ったソフィアは、急激に衰弱していくジントに気が付いた。
急いで回復魔法で治療しようとするが、効果は無く、その命は今にも萎んでしまいそうになっていた。
まるで状況の掴めない村人達は、ただ見ている事しかできない。それはジグロも同じで、只々見ているしかなかった。
「どうなってる! どうしてジントが死にかけているんだ!?」
トシゾウが声を荒げるが、それに応える者はいない。
その代わり、ジントを救う為に動いた者達がいた。
『どいてもらおう』
翁の面を付けた黒い武者と白銀の美女が、ジントを、主を救おうとやって来たのだ。
しかし、右手には黒い刀に刺さった赤いオーガの頭、左手には首を失った体を引き摺っており、何とも物騒な姿ではあったが。
「何を……するのです?」
ソフィアが問う。
ジントは大切な友人の息子なのだ。危害を加えるのであれば、全力で守らなければならない。
『安心しなさいな、我らは主様を救いたいだけなの』
白銀の美女は、心配そうにしているソフィアに優しく語りかける。
彼等はジントの召喚獣だ。
戦闘員の姿が変わり、この様な姿になった。
信頼して良いはずだ。
それでも、ソフィアは何か引っ掛かりのような物を覚える。
本当に大丈夫なのかと考える。意思のある二体を見て考える。考えて考えて、どちらにしろ自分では救えないと理解して、任せるしかないと結論を出した。
「ジント君をお願いします」
友人であるリリアナに代わってのお願いだった。
『うむ、任されよ』
応えるや否や闇の魔力が蠢く。
まるで全てを闇に包み込まんと、武者の体より魔力が溢れ出す。
黒い魔力は形を変え渦となり、赤いオーガの肉体を飲み込む。
赤いオーガの肉体は消え、代わりに赤黒く丸い水晶のような物が生まれた。
その水晶の中には紫色の炎が宿る。
そしてその炎は、全てを破壊した炎を連想させるものだった。
その水晶は武者の手に収まると、刀を振ってオーガの頭を外す。オーガの頭は放物線を描くと、白銀の美女の手に収まった。
黒い武者は召喚主であるジントに近づくと、何の躊躇もなく刀を振るい、その刃は容赦なくジントの体を切り裂いた。
「なにを!?」
ソフィアが驚き助けようと動くが、白銀の美女に片手を添えられて、それだけで動けなくなった。
『今は見ていなさいな、全ては主様の為ですから』
他の村人達も視線だけで制されて、動く事が出来なかった。
そんな中でも黒い武者の動きは止まらない。
赤黒い水晶を傷口からジントの体に押し込み、その全てを体内に入れてしまう。
余りの痛みにジントの体が小さく震えるが、生命力の残っていないせいか、それ以上の反応は無かった。
『寄越せ』
武者が呟くと、白銀の美女から再びオーガの頭部が渡る。
そして再び黒い渦が作られ頭部を飲み込む、そして赤黒い液体が滴り落ちて、ジントの傷口へと入って行った。
「あ゛あ゛あ゛ーーーーっ!?!?」
これまで反応を見せなかったジントから、叫び声がこだまする。
痛みに気を失えたら良かったのだろうが、体を作り変えられるような感覚に、無理やり意識を引き戻される。
意識が覚醒し、強烈な痛みが全身を駆け巡る。
切られた痛みなど比較出来ないほどの痛みが、血管を通して走っている。
気が狂いそうになりながらも、はっきりとした意識がそれを許してくれない。
喉が枯れるまで叫び続け、そしてその体力も尽きかけた頃、痛みが突如として引いた。
叫び声が止み、全ての液体が落ち切ると、切られたはずの傷は塞がっていた。
そして、ジントは再び眠りについた。




