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エピローグ『カラオケデート-後編-』

 それからも、氷織とのカラオケデートを楽しんでいく。

 お互いに好きな曲を歌うのはもちろん、人気デュオの曲を一緒に歌ったり、氷織も俺も歌ったことがある童謡や合唱曲を歌ったりするなど、様々な曲を歌っていく。1人で歌うのもいいけど、氷織と一緒に歌うのもいいな。

 それにしても、氷織は本当に上手い。基本的には綺麗で伸びやかな声で歌うけど、元の曲が可愛らしい雰囲気の曲だとそれに合った可愛い声で歌ったりもするし。

 歌い始めてから2時間ほど経ったところで、


「あのさ、氷織。点数対決をしてみないか?」


 と氷織に提案してみる。


「点数対決ですか」

「ああ。この部屋の機種には採点機能があるし……それに、これまで家族や友達と来たときは点数対決をすることが多かったんだ。結構盛り上がったからどうかなって思って」

「いいですね! 私も家族や友達と行ったときには点数対決をすることがありました。罰ゲームを設定したのでかなり盛り上がりましたね」


 氷織も誰かと一緒にカラオケに行ったときは点数対決をしていたか。


「そうだったんだ。実は俺の方も、対決するときは罰ゲームを設定してた。それもあって結構盛り上がったな」

「そうだったんですね。では、私達も罰ゲームありで対決しましょうか」

「そうしよう。提案を受け入れてくれてありがとう」

「いえいえ。……ところで、罰ゲームは何にしましょうか。私がこれまでやった点数対決では、ドリンクバーで作った特製ドリンクを飲むとか、フードメニューを一つ奢るとかでしたが」

「俺の方もそんな感じだったな。……特製ドリンクがいいなって思う。組み合わせによってはとんでもない味のドリンクができるから」


 過去に点数対決で負けて、罰ゲームで変な味の特製ドリンクを飲まされたことがあったっけ。あの味は今でも思い出すと何とも言えない気分になる。


「特製ドリンクいいですね。ドリンクバーには色々なドリンクがありますし」

「じゃあ、特製ドリンクを罰ゲームにしようか」

「はいっ。対決ですし全力で歌いますよ!」


 やる気に満ちた様子で氷織はそう言った。氷織はかなり歌が上手だから、これはかなりの強敵だ。


「ああ。俺も全力でいくよ。対決だし……罰ゲームもあるからな」


 あのときのような変な味のドリンクは飲みたくないから。

 その後、氷織と何の曲を歌うのかを話し合った。その結果、以前、俺の誕生日に氷織と一緒にBlu-rayを観た映画『鬼刈剣(おにかりつるぎ) 永遠列車編』の主題歌を歌うことに決めた。

 歌う曲を決めた後はジャンケンで歌う順番を決めることに。俺が勝ったので先攻で歌わせてもらうことにした。

 タブレット端末を使って、採点モードを設定し、対決で歌う曲を入れる。


「よし、歌うぞ」


 マイクを持って、モニターの側に立つ。

 程なくして、対決の曲が流れ始め、俺は歌い始める。

 対決の曲は女性のアニソン歌手によるバラード曲だ。

 採点では音程の正確さや抑揚などが重要視される。音を外してしまわないように丁寧に歌い、盛り上がるサビでは抑揚を付けるのを心がけて歌っていく。

 俺が歌っている間、氷織は微笑みながら俺のことを見つめていた。

 音程や抑揚などを心がけたおかげもあり、特に大きなミスをすることなく歌いきることができた。その瞬間、氷織は拍手を送ってくれた。


「上手でした! 女性の曲ですが、男性の明斗さんの声で聴いても素敵な曲だと思えました」


 氷織は明るい笑顔でそう言ってくれる。対決ではあるけど、相手の氷織から褒められるのは嬉しいな。


「ありがとう。音程とか抑揚を気をつけて歌ったよ」


 そんな俺の今の歌唱は何点になるだろうか。

 それから程なくして、俺の歌唱の採点結果が表示された。


『93点』


 93点か。結構いい点数が出たな。


「93点ですか。かなりいい点数が出ましたね。上手でしたもんね……」

「いい点数が出て安心したよ」

「……これは私も音程や抑揚、ビブラートなどを気をつけて歌わないと負けてしまいそうですね」


 そう言う氷織は笑顔だけど、目つきは真剣そのものだ。これから歌うし、対決のスイッチが入ったのかもしれない。

 氷織はタブレット端末を操作する。おそらく、対決の曲を入力しているのだろう。

 氷織はタブレットを操作し終わると、テーブルに置いてあるマイクを手に取り、ソファーから立ち上がった。

 程なくして、対決の曲が流れ始め、氷織は歌い始めた。


「上手いな……」


 上手い。

 上手いぞ。


 音程は正確だし、適度に抑揚やビブラートも付けていて物凄く上手い。だから、思わず声が漏れてしまった。

 もし、氷織が先攻でこの歌唱を聴いていたら、かなりのプレッシャーになっていただろうな。氷織は歌がかなり上手いからそれを見越して、俺は先攻で歌った。その判断は間違っていなかったな。……先に歌っておいて本当に良かった。

 氷織の歌唱が物凄いので聴き入ってしまう。それもあって、歌い終わるまではあっという間だった。


「ふぅ、終わりました」

「凄く上手だったよ」


 点数対決ではあるけど、俺は対戦相手である氷織に称賛の言葉と拍手を送った。

 俺の反応を受けてなのか、それとも対決の曲を歌い終わった解放感からなのか、氷織はニッコリとした笑顔になった。

 さあ、氷織は何点取るだろうか。対決の結果はどうなるだろうか。

 モニターに今の氷織の歌唱の採点結果が表示された。


『97点』


「やった! 勝ちました!」

「負けたか……」


 氷織の点数は97点。俺の点数は93点だったので、点数対決は氷織の勝利となった。

 勝利したからか氷織はとても嬉しそうだ。


「氷織は物凄く上手だったからなぁ。97点っていう採点結果も、氷織が勝ったことも納得だよ。俺は氷織のように歌えてなかった。負けたよ」


 と、俺は氷織を見ながら敗北宣言をした。

 対決なので負けた悔しさはあるけど、あの物凄く上手な氷織の歌唱を聴いた後なので、氷織に言ったように納得しているのも事実だ。天晴だ。


「明斗さんに勝つことができて嬉しいです! 明斗さんが上手で93点という高得点を出したので、勝てるように色々と気をつけて歌いました。97点を出せて良かったです」


 氷織はニコニコとした笑顔でそう言った。勝つために歌って、ちゃんと結果を出しているから凄いよ。


「では、ドリンクバーに行って、罰ゲームの特製ドリンクを作ってきましょう。何が入っているか分からない方がドキドキすると思うので、明斗さんはここにいてください」

「分かった」


 何を混ぜたのか事前に分かったら、特製ドリンクの味が想像できそうだからな。これまでも、特製ドリンクの罰ゲームを受けるときは部屋に居続けた。まあ、事前に分かっているからこそ抱いてしまうドキドキもあるかもしれないけど。

 俺はグラスに残っていたコーヒーを全て飲み、グラスを氷織に渡した。


「では、いってきますね」

「ああ、いってらっしゃい」


 氷織は部屋から出ていった。


「どんなドリンクを作ってくるんだろうな……」


 対決に負けた罰ゲームだし、氷織は結構凄い特製ドリンクを作ってきそうな気がする。これまでに変な味の特製ドリンクを飲んだ経験があるから怖さもあって。……氷織絡みで怖いと思ったのはこれが初めてかもしれない。


「お待たせしました、明斗さん」


 2、3分ほどして氷織が部屋に戻ってきた。


「おかえ……り」


 氷織が持っているグラスを見て言葉が詰まった。


 濁っている。

 濁っているぞ。


 グラスに入っているドリンクの色が濁っているのだ。暗い緑色という感じだろうか。あと、よく見ると炭酸の泡が立っているぞ。罰ゲームのドリンクの風格がある見た目だな。いったい、氷織は何を混ぜたんだ……!


「罰ゲームの特製ドリンクを作ってきました。どうぞ、明斗さん」


 氷織から特製ドリンクが入ったグラスを受け取った。自分でグラスを持って改めてドリンクを見ると、なかなか凄い見た目だなって思うよ。不安だし緊張する。あと、量はグラスの3分の1くらいか。まあ、罰ゲームに飲む量として妥当かな。

 氷織は俺の隣に座る。


「3種類のドリンクを入れました。どうぞ召し上がれ」

「分かった。……いただきます」


 ストローをグラスに刺して……緊張をほぐすために一度、深呼吸をした。

 ストローを吸って、口の中に特製ドリンクが入ってきた。


「うっ!」


 口の中に入った瞬間、炭酸の刺激が感じられ……その後に甘味と酸味と苦味が青臭さと一緒に一気に押し寄せてきたぞ。カオス。カオスだこれは。


「いかがですか、明斗さん。味見をしていないのでどんな味なのか気になって」

「……カオスだな。甘味と酸味と苦味が青臭さと一緒に押し寄せてきたから。しかも炭酸の刺激もあるし。もちろん美味しくないし、氷織は特製ドリンクを作るセンスがあるな……」

「そうですか。特製ドリンクらしいものになっていて何よりです。……何のドリンクを混ぜたか分かりましたか?」

「青臭さがあるし、ドリンクの色に緑要素があるから1つは青汁かな。あとは炭酸と酸味からしてレモンソーダも入っている気がする」

「2つとも正解です。3つのうち2つは青汁とレモンソーダです。あと1つは何でしょう?」

「あと1つか……2つ当てられたから当てたいな」


 そう考え、俺は特製ドリンクをもう一口飲む。

 青汁とレモンソーダが入っていると分かると、さっきよりも青臭さや苦味や酸味がはっきりと感じられるな。ただ、甘味もなかなか強いと気付く。


「……あと1つはアイスココアかなぁ。甘味が強いし、ココアを入れたらこの濁ったビジュアルになりそうな気がするから」

「アイスココア正解です! 3つ全部当てられましたね!」


 氷織はニコッとした笑顔でそう言い、小さく拍手してくれる。特製ドリンクでも氷織からの問題に答えられるのは嬉しいものがある。


「青汁をベースに作れば変な味の特製ドリンクを作れそうだと思って作りました」

「そうだったのか。お見事」


 俺は残りの特製ドリンクを飲んでいく。

 混ぜたドリンクが何なのかを知り、それを当てられた嬉しさがあってもカオスな味わいは全く変わらなかった。


「……ふぅ、ごちそうさま」

「お疲れ様でした。これで罰ゲームOKです」

「ああ。……口直しにアイスコーヒー取ってくる」

「はい」


 その後、ドリンクバーで取ってきたアイスコーヒーを飲んで、口の中は潤い、特製ドリンクによる匂いも収まった。

 コーヒーを飲んだ後は、フリータイムの終了時刻である午後6時の直前まで色々な曲を歌い続けたのであった。




「カラオケデート楽しかったですね!」

「ああ、楽しかったな!」


 午後6時過ぎ。

 カラオケボックスを後にした俺達は帰路に就いた。氷織の家まで送るため、今は彼女の家に向かっているところだ。

 日の入りの時間が近いので、空はだいぶ暗くなっている。それもあって、だいぶ過ごしやすい気候に。真夏の時期は夜になっても蒸し暑かったのもあり、今日から秋になったのだと実感する。

 あと、だいぶ暗い中で制服姿で歩いたことが全然ないので、こうして歩いていることに新鮮さを感じる。


「明斗さんと一緒に登下校して。席替えでは明斗さんと隣同士になれて、前の席には恭子さんがいて。明斗さんと初めて行ったカラオケデートは楽しくて。なので、とてもいい2学期のスタートになりました」


 氷織はニッコリとした可愛らしい笑顔でそう言ってくれた。氷織にとって2学期のいいスタートになった理由に俺が関われていることに嬉しさを感じる。


「そうか。嬉しいな。俺も凄くいい2学期のスタートになったよ。氷織と同じで……一緒に登下校して、席替えでは氷織と隣同士になれて、カラオケデートが楽しかったからな」

「そうですか! 私も嬉しいです。今日から始まった2学期を一緒に楽しく過ごしましょうね!」

「ああ、一緒に楽しく過ごそうな!」

「はいっ!」


 ニッコリとした笑顔は変わらぬまま、氷織は元気良く返事をしてくれた。

 氷織という恋人はもちろん、和男、清水さん、火村さん、クラスは違うけど葉月さんという友達もいる。今日の席替えで、中間試験のあたりまでは氷織と隣同士の席で学校生活を送れる。文化祭や修学旅行などのイベントもある。だから、2学期をとても楽しく過ごせそうだ。




特別編9 おわり

これにて、この特別編は終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございました。

感想やレビューなどお待ちしております。

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