第2話『カラオケデート-前編-』
席替えが終わってからすぐにロングホームルームが終わったので、終礼が行なわれ、放課後になった。
今週が掃除当番の清水さんとは教室で、清水さんを待つ和男と、掃除当番の友達と一緒にお昼を食べて遊ぶ予定の火村さんとは教室の前でそれぞれ別れた。
昇降口に行くと、ローファーに履き替えた葉月さんと会った。葉月さんはクラスの女子の友人達と一緒におり、お昼を食べて買い物などをする予定とのことだ。また明日ッス、と言って葉月さんは友人達と一緒に校舎を後にした。
氷織と俺は校舎を後にして、笠ヶ谷駅の方に向かいながらお昼ご飯に何を食べようか話し合う。その結果、冷たい麺類を食べようということになった。
駅の南口近くに氷織オススメのそば・うどん屋さんあるとのこと。そのお店に行き、俺は天ぷらざるそば、氷織は天ぷらざるうどんを食べた。俺が注文したそばはもちろんのこと、氷織との一口交換でいただいたうどんも美味しかった。
お昼を食べ終わった俺達は、最近オープンした駅の北口近くのカラオケボックスへと向かい始める。氷織が持ってきたチラシに描かれている地図によると、お店からだと2,3分歩けば着きそうだ。
「お昼ご飯美味しかったですね!」
「美味かったな! 今日から秋が始まったけど、昼間はまだまだ暑いし冷たいものが美味しく感じられるな」
「そうですね。しばらくの間は冷たいものがいいなって思えそうですね」
「そうだな」
暑さ寒さも彼岸まで、っていう言葉があるし、あと半月以上は冷たいものがいいと思えそうだ。
笠ヶ谷駅の構内を通って、俺達は駅の南口からカラオケボックスがある北口に移動する。
「そういえば、明斗さんってカラオケに行くのはいつ以来ですか?」
「最後に行ったのは……1年の春休みだったかな。和男を含めた1年のときのクラスメイトの男子数人で行ったな。駅の南口の近くにあるカラオケボックスに」
「そこのカラオケボックス分かります。家族や友達と一緒に何度も行ったことがありますから」
「そうなのか。地元民なだけあるな」
「ふふっ。……1年生の春休みが最後ということは、2年生になってからは今回が初めてなんですね。嬉しいです」
氷織はニコッとした笑顔で言った。どんなことでも、恋人の初めてが自分というのは嬉しいのだろう。
「氷織は最後にカラオケに行ったのはいつなんだ?」
「私も1年生の春休みが最後ですね。沙綾さんなど文芸部の女子の友達と一緒に行きました。南口のカラオケボックスに」
「そうなんだ。じゃあ、氷織も2年生になってからは初めてか。……嬉しいな。カラオケデートがより楽しみになってきたぞ」
「そうですかっ。私もですっ」
そう言うと、氷織の口角がさらに上がった。
それから程なくして、お目当てのカラオケボックスに到着した。
お店の入口近くには華やかなスタンド花がいくつも飾られている。『祝』とか『御開店』といった札があるので、オープンの記念に贈られた花だと思われる。こういうのを見ると、オープンして間もないんだなと分かる。
お店に駐輪場があったので、そこに俺は自転車を停めた。
氷織と一緒にカラオケボックスの中に入る。
平日のお昼過ぎだけど、フロントには何人も人がいるな。うちの高校を含め、制服姿の生徒が多い。うちの高校みたいに、今日はお昼で終わる学校が多いのかな。俺達のように割引クーポン券を持っている人も結構いるかもしれない。あとはオープンしたばかりだから一度行ってみようという人もいるかも。
「平日のお昼過ぎですが、なかなか人がいますね」
「そうだな。うちの高校みたいにお昼で終わったり、俺達のようにクーポンを持っていたりする人が多いのかも。あとはオープンしたてだし」
「きっとそれらが理由でしょうね。……受付に行きましょう」
「ああ」
その後、俺達は受付に行く。
フロントに人が何人もいるけど、特に待つことなく部屋が取れることに。カラオケの機種も選べ、氷織と話し合って最も収録曲数が多い機種にした。
2人で一緒にカラオケに来るのは初めてでたくさん楽しみたいということで、午後6時まで利用できるフリータイムプランを選択することに。ちなみに、このプランはドリンクバー付きだ。氷織が持ってきたチラシに付いている割引クーポンを使ったので、結構安いお値段となった。
料金を支払い、受付の女性のスタッフさんから今回利用する部屋の番号である『207』が印字されたレシートと、ドリンクバー用のグラスを受け取った。
207号室は2階にあるとのことなので、受付の近くにある階段で2階に上がった。
2階に上がると、そこにはドリンクバーコーナーがあった。そこに行くとジュース類やお茶、紅茶、コーヒーなど様々なドリンクが用意されている。
「色々なドリンクがありますね!」
「ああ。いっぱいあるなぁ。南口のカラオケボックスもドリンクが豊富だったけど、ここもかなり多いな」
「そうですねっ。もうグラスにドリンクを入れちゃいますか?」
「そうだな。バッグ以外は特に荷物ないし、ドリンクを入れてから部屋に行こうか」
「分かりました」
さてと、何にしようかな。普段飲むことが多いコーヒーとか紅茶も魅力的だけど、こういうドリンクバーだとジュース系も飲みたくなるんだよなぁ。
「ドリンクバーですからいつでも好きな飲み物を取りに来ることができますけど、一杯目ってちょっと迷っちゃいます」
「分かる。何か迷うよなぁ。ラインナップがたくさんあるからかな」
「いっぱいあるから迷っちゃうの分かります」
ふふっ、と氷織は声に出して笑う。物凄く可愛い。
笑っている氷織をいつまでも見続けていたいけど、ドリンクを選ばないとな。少し考え……俺はドリンクサーバーで、コーラをグラスの3分の2ほど注いだ。
「コーラにしたんですね」
「ああ。普段飲むことが多いコーヒーとか紅茶もいいけど、こういうドリンクバーに来るとジュース系も魅力的でさ。小さいときはカラオケとかレストランのドリンクバーではジュース系を飲むことが多かったからかな。特にコーラとかの炭酸系は」
「馴染み深いんですね。では、私は……メロンソーダにしましょう。私も小さいときはドリンクバーでは甘い飲み物を飲むことが多くて。その一つがメロンソーダでした」
「そうなんだ。メロンソーダも甘くて美味しいよな」
「ええ。コーラも甘くて美味しいので飲むことが多かったです」
「そうか」
その後、氷織はドリンクサーバーで、俺と同じくらいの量のメロンソーダをグラスに注いだ。
ストローを持って、俺達は207号室に向かった。
部屋の扉を開けると……中は結構広いな。薄暗いけど、オープンしたてなのもあって綺麗なのが分かる。
正面には大きなモニターがある。モニターには人気男性ロックバンドのライブ映像が流れている。
部屋の中央には大きなテーブルがあり、テーブルを挟む形で両側の壁に長いソファーが置かれている。それぞれのソファーは広く、3人くらい座れそうだ。
「わぁっ! 広くて綺麗なお部屋ですね!」
「そうだな! いい雰囲気の部屋だし、俺達2人ではもちろん、いつものメンバー6人で来てもゆったりできそうだ」
「そうですねっ。広いですし、ソファーも2つありますが……明斗さんと隣同士で座りたいです。明斗さんの側にいたいですし、お家デートでアニメを観るときとかは隣同士で座りますから。……いいですか?」
「もちろんさ。俺も氷織と隣同士で座りたいって思ってた」
俺がそう言うと、氷織はぱあっと明るい笑みを浮かべて、
「ありがとうございますっ!」
と、とても弾んだ声でお礼を言った。
俺達は向かって左側のソファーに荷物を置いて、右側のソファーに隣同士に座った。広いソファーだけど、体が軽く触れるくらいの近さで。
何だか、薄暗い個室で氷織と2人きりで、氷織と体が触れる近さで座っていると……ドキドキしてくるな。氷織の温もりや甘い匂いも感じられるし。
氷織の方を見ると……氷織は笑顔で俺のことを見ている。そんな氷織の頬は赤くなっていて。
「2人きりの薄暗い部屋で明斗さんと隣同士で座っているとドキドキしますね」
「氷織もか。俺もドキドキしてる」
「明斗さんもだったんですね。……ドキドキしているのもあって、キスしたくなってきました。いいですか?」
氷織は上目遣いで見つめながら俺におねだりしてくる。そのことによりドキドキさせられる。
「ああ、いいぞ」
「ありがとうございます」
嬉しそうな笑顔でお礼を言うと、氷織は俺にキスしてきた。
涼しい部屋の中でしているので、氷織の唇から伝わる温もりがとても心地いい。
「んっ……」
可愛らしい声を漏らすと、氷織は俺の口の中に舌を入れ込ませてきて。氷織の舌の感触と生温かさが気持ち良くて。俺からも舌を絡ませていくと、
「んんっ」
と氷織は甘い声を漏らして、体をピクッと震わせた。可愛い。
それから少しの間、氷織と俺は舌を絡ませるキスをして……氷織の方から唇を離した。すると、目の前には頬を真っ赤にしてうっとりとした笑顔で俺を見つめる氷織がいた。
「ドキドキしていたのと……席替えで明斗さんと隣同士になれた嬉しさや幸せさもあって、舌を絡ませちゃいました」
「そうだったのか。可愛い理由だ。……氷織が舌を絡ませてくるの気持ち良かった」
「私もです。……舌を絡ませるキスをしたので、もっとドキドキしてます」
「俺もだ。……2人きりだし部屋の雰囲気もいいけど、過度なイチャイチャはしないように気をつけないとな」
「そうですね。ここはカラオケボックスですし」
せいぜい今のキスくらいに留めておかなければ。
氷織と2人きりの空間にいて、氷織とキスをして。まだ1曲も歌っていないけど、さっそくカラオケデートはいいなって思うのであった。




