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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第3章 学園道中編
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想定外の事態

 公爵家の屋敷に招かれ、中に入った。そしてメイドたちに案内され、それぞれ一人に一つ個室が与えられたのだ。夕食までは好きなことをして過ごしていてくれ、とのことだったので、俺は寝ることにした。というのも、このところ見張りや魔族・魔物との戦闘で、疲労が蓄積していたこともあった。久々にゆったりとしたところで、警戒する必要もなく眠れるのだ。寝ない手はない。ベッドがよかったこともあり、起きたときにはよく寝た、となったものだ。何故か、横でニーナが寝ていたが。


 夕食は豪勢なもので、一緒に取ることになった。まあ、俺が今までやってきたことを聞きたがっていたので、当たり前の結果ではあるだろうが。魔族を倒した、などということが知られれば面倒なことになりそうだったので、当たり障りのないような魔物を倒したときの話をしておいた。どうやら、公爵もそういった話は嫌いではないらしく、いちいち大げさに反応しながら聞いていた。

 食事が終わり、戻ろうとしていたエレナの父を呼び止める。気分がよさそうな今ならば、話してもらえるだろうと推測したからだ。


 「失礼ですが、少しお時間を貰えないでしょうか?」

 「ああ、構わないよ?どうしたんだい?」

 「いえ、ご息女様の様子が結婚、という言葉を聞いたときに、おかしいように感じたので……何かあったのでしょうか?」

 「ふむ……そういうことか。エレナはまだ納得できていないのか………」


 何かを考え込むかのような公爵。これは心当たりがあるようだ、と感じ、さらに言葉を続ける。


 「ん、ああ、すまないね。エレナは近々結婚するんだよ」

 「結婚、ですか?」

 「そうだよ。相手は侯爵家の跡取りさんでね。人柄もいいし、娘を預けられると思ったんだよ」

 「そうですか………」


 にこやかに話し続ける公爵。だが、今の俺はただ相槌を打つだけだった。それもそのはず、別の考え事をしているからである。勿論、話も聞いてはいる。こんなところでも、《元死神》の称号は威力を発揮しており、呆れるというか何というか。といった感情にはなった。ま、便利だから、これからも使うけどな。

 考え事というのはやはり、エレナのことだった。何故連れ戻されるとわかっているここから逃げ出そうとした?それに、今になって帰って来たのは?エレナは残念な部分も併せ持つが、基本的には理解力が高く、頭も回る方だ。こんなことがわからないやつではないはずだ。


 (と、なるとだ)


 考えられるのは、今ならばどうにかなると思ったため、帰って来たということだろう。屋敷を出たときと今とで違うこと。その中で最も可能性が高い答えがあるとすれば。


 (俺、か………?)


 もしかすると、一人の考えでは立ち回れないと判断したため、俺の協力を仰いだのだろうか?確かに俺は子供としちゃあ、異質なまでの知能を持っている。中身がジジイだからではあるが。味方がいない今の状況をどうにかするために、俺を連れてきたのだろうか?そりゃあ、ちょっとくらいは知恵をわけられるが、根本的な解決にはならないと思う。この男はエレナを探し回らせていたことから、何としてもこの結婚を成功させようとしているだろう。そんな状況ではできることなど限られているのだ。

 内心ではため息をつきながら、何の気もなしに《解析》を発動させた。少しくらいは状況が変わるかと思ったからだ。だが、考えは大きく裏切られる。予想だにしていなかった事態が、そこにはあったのだ。


※               ※               ※

 コンコン、と部屋のドアをノックする。どうぞ、との声が聞こえたので、さっと部屋の中に入り込んだ。すぐにドアを閉めて振り返ると、驚いた様子のエレナがそこにはいた。


 「師匠、どうして………?」

 「一つ、確認したいことがあった。そのためにな」


 そこら辺にあった椅子を引き寄せ、そこに腰掛ける。エレナも椅子を持ってきて、俺の前に来るように置いた。


 「別に構わない。何?」

 「エレナ。お前、結婚はしたくないんだろ?親が決めた相手と」


 また少し驚いてはいたが、すぐに立ち直り頷く。照れている様子もなく、本気で嫌がっているのであろうことがわかる。


 「じゃあ、次の質問だ。いつからああなってたんだ?親は」

 「どういうこと?」

 「お前、気付いてるんだろ?今のお前の親が正常じゃないくらいさ」

 「……そう。父様も母様も、おかしくなってしまった」


 表情は変わりはしない。それでも、悲しみの色があることだけはわかった。信じていたものに裏切られ、傷ついているのだろう。今だって本当は親のことを思っているはずだ。それなのに、おかしくなってしまった。それが自身の心を閉ざしていく。なるほど、俺が呼ばれるわけだ。


 「そうか。だが、エレナ。これは自然に起こったことじゃない」

 「それは、どういう………?」

 「催眠だ」


 俺の口から出た言葉に、今度こそエレナは目を見開いた。


 「どういう……どういうこと?催眠って………」

 「そのままの意味だ。今、お前の親は何者かに操られている。俺が気付いたのもたまたまではあるが……ある意味、よかったかもしれねえな」

 「師匠!催眠をかけたやつは!?」


 いきなり俺の襟を掴んで聞いてくる。エレナには珍しく、明確に表情が現れていた。それだけ怒っているのだろう。俺はその手をゆっくりと外し、首を横に振る。


 「まだわからん。なにせ、当時の状況もわからんからな……だが、可能性としてはお前と結婚する、っつー侯爵の息子が怪しいな。もしくは、侯爵がかもしれんが」

 「やっぱり、王位を狙って?」

 「ああ、十中八九そうだろうな。お前を手に入れたいだけってこともあるかもしれんが……こっちは可能性から見て低いだろう」


 立ち直ったエレナと会話を続ける。が、そこではたと気付いたようにエレナが声を上げた。


 「師匠。誰かに聞かれていたら………!」

 「それはないな。シルフィに任せて、この部屋近辺とこの部屋自体を監視してる。誰かいれば、即座に気付く」


 はなからそんなヘマをする気はなかった。いくら気配を殺すのが上手くても、約300もの精霊の目から逃れることは非常に困難だろう。勿論ないとは言えないため、できるだけ声量は抑えているが。その言葉に安心したらしい。ほっと胸を撫で下ろしていた。


 「師匠。お願いがある」

 「なんだ?」

 「今から、会ってほしい人がいる」

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