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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第3章 学園道中編
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特別授業

三章は終わりと言ったな?あれは嘘だ。

……すみません、言ってみたかっただけです。何はともあれ、三章はもう少し続きます。お付き合いいただけると幸いです。

 「うわあ、おっきいですねえ………」

 「そうだねー、私もあんなに大きい建物は初めて見るよ」

 「へー、あんな建物があちこちにあるんだね!」


 誰が誰の声なのかは想像にお任せする。まあ、大体わかるとは思うのだが。とりあえず、あの3人は放っておくことにする。ほぼ城と言っても間違いないであろう、その建物を指してエレナに問いかけた。


 「あれがお前の実家か?とんでもねえな、公爵家ともなると」

 「そう。でも、話したことはないと思うけど?」

 「ああ、そこら辺は事情がいろいろとあってな……と、どうした?急に黙り込んで?」


 はしゃいでいた3人を振り返る。3人はギギギ、といった音が聞こえそうな感じで、こちらに首を回している。顔も強張り、無言になってしまった。どうかしたのだろうか、と思って声を掛けたのだが、3人は声を出そうともしていない。俺の杞憂だったかとエレナに視線を戻すが、そうしようとする前にニーナとアカネに腕を掴まれていた。


 「ちょ、ちょっとどういうことですか!?エレナさんの実家って!?」

 「そ、そうだよ!それに、さっき侯爵って言ってたけど!?」

 「いや、こいつが貴族だからだが?」


 そう告げてやると、二人ともポカーンといった表情になった。どうやら、理解できる域を超えたらしい。見事に呆然自失といった様子である。すると、今度はリースが俺のところにやってくる。


 「ねー、貴族って何なの?偉いの?」

 「お前、それでよく外に出ようとしたな……答えるのめんどくせえし、他のやつに聞けよ」

 「えー、聞きたい聞きたいー!」

 「ええい、鬱陶しい!離れろ!」


 服を掴んで揺さぶってくるので、遠ざけようとする。だが、こいつの力は意外と強く、なかなか離れなかった。そうやっていると、ようやく現実に戻ってこれたのか、ニーナが近寄ってくる。


 「あの、レオン君。ほんとなんですか?」

 「ん?エレナのことか?ほんとだぞ。なんなら本人にでも聞いてみりゃいい」

 「うう、私、相当無礼なことしちゃってました……ひどいことされたりしないでしょうか………?」

 「あいつが望んでねえし、大丈夫だとは思うがな」


 エレナに確認の視線を送れば、こくりと頷かれる。別に気にしていないということだろう。


 「そういえば、こうしゃく、って言ってましたよね?どれくらい偉いんでしょう?」

 「一応、本には載ってたはずだがな……目を通さなかったのか?」

 「ええと、いつのことだったでしょう………?」


 ジトーッとした目で見ていると、目が泳ぎ始めた。こいつは真面目ではあるのだが、いかんせん若干とろいのだ。目を通しているところよりも、授業が先へ先へと行ってしまうため、理解が追いついていない。そのため、何がわからないのかがまずわからず、どこを聞けばいいのかわからない。授業についていけない、となるのだ。そのため、俺が授業補佐をやる前には、テストで最下位を連続キープし続けたような猛者である。なので、読んでおいてくださいね、レベルのことは知らなくて当然なのである。


 「おい、アカネ。お前はどうなんだ?貴族のこと」

 「……はっ、ご、ごめんね?ちょっと理解の範疇を超えてたから………貴族のことだっけ?私は王族の人が一番偉くて、平民が一番下だってことくらいしかわからないんだけど………」

 「ま、当然か。お前にゃ若干脳筋の気があるしな」

 「えええ!?そんなことはないよ!?」


 とはいうが、冒険者が持つべき知識がほとんどなく、代わりに実力だけがあるという時点でお察しだろう。慌てふためくアカネの姿を見ながら、そう思う。ショタコン、ムッツリ、脳筋と、こいつはいくつ属性を詰め込めば気が済むのだろう?将来が心配になるレベルである。


 「エレナは要らんだろ?わかるだろうし」

 「当然。でも、聞いておく」

 「そうかい。なら、特別授業でも始めるかね」


 アイテムポーチから、ホワイトボードとマジック、ティッシュを取り出す。どうせ学園に行けば、ニーナが授業についていけなくなるであろうから、あらかじめ創っておいたのである。聞くやつは俺の目の前に座るように言っておく。……ちゃっかりリースが交じっているが、見逃してやることにした。


 「まずは段階からだな。アカネの言った通り、大雑把に分ければ王族、貴族、平民の順で偉いと言える。隣の帝国だと、さらにもう一段階下があって、奴隷がここに位置しているな」

 「奴隷、ですか………」


 ニーナが嫌そうな顔をする。奴隷という言葉にあまりいい感情を抱いていないのだろう。それもそうだ。こいつはそういうやつだろうと思うし。それに、この国では奴隷制が普及していないこともあり、奴隷というものは嫌悪されている。ここでは、ニーナのような反応が当たり前なのだろう。俺としては、否定も肯定もできないところではあるのだが。


 「とりあえず、奴隷に関してはまた今度にするとしよう。貴族は細かく分けると、6段階で分けられる。下からいくと、騎士、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵だ。ここまではいいか?」


 段階はホワイトボードに書き記しておく。侯爵と公爵は口頭だけじゃわからねえし。漢字で書くことが大事なのだ。そこまで終えると、ニーナが顔を青くしていた。


 「あ、あの……エレナさんって、ものすごく偉いんじゃ………?」

 「そうだぞ?王族を除けば、最高権力を持ってると言えるからな。頼み込めば、いろんなことができんじゃねえか?」

 「あ、あわわわ………」


 ニーナが慌てているが、本人が気にしている様子がないのだから、気にしなくてもいいと思うのだが。アカネとリースの様子を見れば、二人ともポカンといった様子だった。よくは理解できていないのだろう。エレナはいつも通りだった。これは当たり前か。


 「ここからは補足だな。騎士位は一世代限りだ。子供がいても、騎士位を譲ることはできない。そして、侯爵と公爵の違いだが。これは普通のやつが継承できるかどうかの違いだ」

 「んー、よくはわからないんだけど……それって、どういうことなのかな?」

 「アカネの質問に答えるとだな。まず、貴族ってのは手柄を立てさえすれば、なることはできるものだ。そこそこの手柄を挙げれば、騎士位程度楽になれるぞ?」

 「そ、そうなの?」

 「ああ」


 驚いた様子のアカネに向けて頷く。そして、そこが肝なのだ。


 「順当に手柄を立てれば、この侯爵にまでならなれる。難しくはあるだろうがな。だが、こっちの公爵は無理だ。なぜなら、公爵は王族の傍系とも言えるからな」

 「えーっと、つまり?」

 「例えば、王様に3人の子供が生まれたとする。王位を継承できるのは一人だけだろ?だから、普通に一番上の子供が継承するわけだ。この時点では、3人の子供は全員王族なわけだが。何もなく、平穏に行けばその子供たちも子供を産む。要は元々の王様の孫だな。こいつらが生まれると、公爵が発生するんだよ。

 今の王様。つまり、最初の王様から見た子供のうち、王様に選ばれなかった子供たち。こいつらの子供が公爵になるわけだ」

 「なるほどー、でも、そうする理由あるの?みんな、王族でよくない?」


 アカネは首を傾げているが、俺は首を横に振る。そうできない理由があるのだ。


 「そんな事をすれば、王位を巡ってドロドロの争いが起きるだろ?そうさせないためだよ。それに、単純に王城にそんなに多くの人数を詰め込むことができない、ってことも理由としちゃあ挙げられる」

 「そっか。大変だねえ、貴族って」

 「そうだな。だから、俺は平民のままでいいんだが」


 どうやら理解はできたようなので、ホワイトボードをしまう。え?ニーナが理解できていなかったら、だって?そのときは、また個人授業に持ち込むだけだが。


 「にしても、公爵かー。エレナちゃんって、偉い人だったんだねえ」

 「まあな。結婚すりゃ、王位継承権だってあるだろうし。権力持ってることには変わりはねえわな」


 そう言って、エレナの方を見ると嫌そうな顔をしていた。どうやら権力でトラブルが起きたことがあるらしい。俺に降りかかることがなけりゃいいんだが。そう思いながら、外の景色へと目を移すのだった。 

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