精霊王
『ふむ、そういうことだったのか』
「そういうこと。だから、どいつもこいつもが冷静じゃねえんだよ」
あの上位精霊が現れてから。俺は事情聴取のために、話を聞かれていた。やっと話し終わったので、一息ついたところである。初めは俺から話を聞くのに外野がギャーギャー騒いでいたが、今は何をやったのかみんな虚ろな目になっている。ニーナ、アカネ、エレナ、シルフィを除いて。
「そーいや、あいつらはなんでああなってないんだ?」
親指で指すのは、いまだに虚ろな目となっている4人を除いた外野。俺だったら普通、全員ああしているんだが。馬型の精霊は表情は読めないが、どうやら困っているらしい。そんな雰囲気を醸し出していた。
『いや、それをするほど我には勇気がない。多少は面倒でも、あの者たちは効果の対象から外した方がいいだろう』
「勇気?そんなもんが必要か?」
あっさりと術をかけられてるんだから、別にいらないと思う。が、俺の言葉に反して、精霊は首を横に振る。
『別にあの者たちは怖くはない。正直3人がかりで来られても、我をどうこうすることはできないだろう』
「な、なんか自信なくなるなあ………」
とは言っても、相手は上位精霊だ。それくらいは当たり前なのではないだろうか?アカネの苦笑している姿を見て思う。
『問題なのはお前だ。我が心が読めることは知っているか?』
「いや、知らん」
初耳だった。そんなら、最初から自分で情報を読みとりゃいいのに。そしたら俺が楽できるし。俺の言葉に苦笑するように、精霊は体を揺らした。
『そこまで便利なものではない。まあ、それは置いておくとして。お前の心を見た』
「ふーん、で?なんかあったのか?」
『……下手にあの少女に手を出したら殺す、という感情があった。例えいかなる手段を用いてでも、という感情も。確実に子供にあるような感情ではなかったな』
へー、そうだったのか。別にそこまでしねえとは思うんだが。あれくらいなら、半殺しにしたのちに、能力むしり取ろうとするくらいだし。そんな考えをしていると、ため息のような音が聞こえた。
『やはり手を出さずに正解だったな。それは我にとって、十分な危機だ』
「そーかい。んで?シルフィにはなんでかけなかったんだ?」
『……シルフィというのは、この精霊か?』
馬型の精霊が向いているのは、シルフィの方。今は俺の肩に止まっていた。騒ぐようなら一発行くぞ?と黙らせておいたのだ。
「そうだが?」
『……なんということだ。大丈夫なのか?』
「ん?いや、全然。毎日うるせえわ、トラブルには突っ込んで行くわでさ」
『そうではないのだが。体の方は大丈夫なのかと聞いている』
シルフィと顔を見合わせ、首をひねる。痛いところなんざないし、シルフィの方にも違和感はない。何言ってんだ?と思ったが、あの精霊は絶句しているのみだった。
『恐ろしいな。その精霊の力を内包できているなど』
「そうか?実感ねえよな?」
「うん、そうだよね-」
シルフィと二人で頷くが、馬の精霊はやはり首を横に振る。
『わかっていないな。その精霊は精霊王の卵だ。それと契約するなどと、生半可な実力ではあり得ん。間違いなく、最強の一角と言ってもいいくらいだぞ』
「ふーん、だってよ」
「マジで!?じゃあ、やっぱり崇められるべきだって!」
「調子乗んな」
頭を後ろからひっぱたく。シルフィは涙目になってた。
「ひどくない!?あたし、今回頑張ってたじゃん!」
「いちいち調子に乗ってるからだ!そもそも、ここの村でちやほやされたいわけでもねえだろ!」
「そりゃそうだけどさ!」
そっから、いつも通りに口論が始まる。一年も付き合えば、このくらいは日常茶飯事のように起きる。外野の3人も、ああ、またか……みたいな感じで見てた。と、思う。
『……どうやら本当らしいな。我の力も効かないようならば、もう間違いないだろう。精霊王になり始めている』
「あん?そうなのか?」
『ああ、お前の名付けで早まったようだ。契約によってもなのかはわからんが、異常な速度でなっていってるぞ』
「そうか。まあ、別にどうでもいいや」
俺にとって大事なのは必要か、必要じゃないかだ。こいつは今の俺には必要だ。だからこそ、こいつが何者であろうかなど気にするようなことでもないのだ。俺のそんな思考に馬の精霊は感心したようだった。
『なるほど。これならある意味問題ないのかもしれぬ。精霊王の力を悪用しそうでもないからな』
「そーそー、レオンなら問題ないって!変に手を出さなきゃ、何もしないだろうしさ!」
『下手に手を出せば、どうなるかわかったものでもないということか……それはそれで問題がありそうだがな』
馬の精霊は呆れているが、そんなことは当たり前じゃないだろうか?人は己の大切なものを守るために戦うのだ。それが例えば恋人であったり、家族であったり。自分の命だったり、感情のためだったりする。俺とて、その法則から外れることはないだろう。だからこそ、安易に踏み込むべきではないとは思うが。
『……まあ、いいだろう。この村に泊まりたいのだったな。我からも話を通してみよう』
「ん、いいのか?」
『ああ、面倒を減らしてもらったことだ。それくらいは構わんさ』
面倒って、シルフィのことか?そう思ってるなら、押し付けるなよ……今となっちゃ、もうどうでもいいけどさ。そう思いながら、ため息をつくのだった。




