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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第3章 学園道中編
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精霊王

 『ふむ、そういうことだったのか』

 「そういうこと。だから、どいつもこいつもが冷静じゃねえんだよ」


 あの上位精霊が現れてから。俺は事情聴取のために、話を聞かれていた。やっと話し終わったので、一息ついたところである。初めは俺から話を聞くのに外野がギャーギャー騒いでいたが、今は何をやったのかみんな虚ろな目になっている。ニーナ、アカネ、エレナ、シルフィを除いて。


 「そーいや、あいつらはなんでああなってないんだ?」


 親指で指すのは、いまだに虚ろな目となっている4人を除いた外野。俺だったら普通、全員ああしているんだが。馬型の精霊は表情は読めないが、どうやら困っているらしい。そんな雰囲気を醸し出していた。


 『いや、それをするほど我には勇気がない。多少は面倒でも、あの者たちは効果の対象から外した方がいいだろう』

 「勇気?そんなもんが必要か?」


 あっさりと術をかけられてるんだから、別にいらないと思う。が、俺の言葉に反して、精霊は首を横に振る。


 『別にあの者たちは怖くはない。正直3人がかりで来られても、我をどうこうすることはできないだろう』

 「な、なんか自信なくなるなあ………」


 とは言っても、相手は上位精霊だ。それくらいは当たり前なのではないだろうか?アカネの苦笑している姿を見て思う。


 『問題なのはお前だ。我が心が読めることは知っているか?』

 「いや、知らん」


 初耳だった。そんなら、最初から自分で情報を読みとりゃいいのに。そしたら俺が楽できるし。俺の言葉に苦笑するように、精霊は体を揺らした。


 『そこまで便利なものではない。まあ、それは置いておくとして。お前の心を見た』

 「ふーん、で?なんかあったのか?」

 『……下手にあの少女に手を出したら殺す、という感情があった。例えいかなる手段を用いてでも、という感情も。確実に子供にあるような感情ではなかったな』


 へー、そうだったのか。別にそこまでしねえとは思うんだが。あれくらいなら、半殺しにしたのちに、能力むしり取ろうとするくらいだし。そんな考えをしていると、ため息のような音が聞こえた。


 『やはり手を出さずに正解だったな。それは我にとって、十分な危機だ』

 「そーかい。んで?シルフィにはなんでかけなかったんだ?」

 『……シルフィというのは、この精霊か?』


 馬型の精霊が向いているのは、シルフィの方。今は俺の肩に止まっていた。騒ぐようなら一発行くぞ?と黙らせておいたのだ。


 「そうだが?」

 『……なんということだ。大丈夫なのか?』

 「ん?いや、全然。毎日うるせえわ、トラブルには突っ込んで行くわでさ」

 『そうではないのだが。体の方は大丈夫なのかと聞いている』


 シルフィと顔を見合わせ、首をひねる。痛いところなんざないし、シルフィの方にも違和感はない。何言ってんだ?と思ったが、あの精霊は絶句しているのみだった。


 『恐ろしいな。その精霊の力を内包できているなど』

 「そうか?実感ねえよな?」

 「うん、そうだよね-」

 

 シルフィと二人で頷くが、馬の精霊はやはり首を横に振る。


 『わかっていないな。その精霊は精霊王の卵だ。それと契約するなどと、生半可な実力ではあり得ん。間違いなく、最強の一角と言ってもいいくらいだぞ』

 「ふーん、だってよ」

 「マジで!?じゃあ、やっぱり崇められるべきだって!」

 「調子乗んな」


 頭を後ろからひっぱたく。シルフィは涙目になってた。


 「ひどくない!?あたし、今回頑張ってたじゃん!」

 「いちいち調子に乗ってるからだ!そもそも、ここの村でちやほやされたいわけでもねえだろ!」

 「そりゃそうだけどさ!」


 そっから、いつも通りに口論が始まる。一年も付き合えば、このくらいは日常茶飯事のように起きる。外野の3人も、ああ、またか……みたいな感じで見てた。と、思う。


 『……どうやら本当らしいな。我の力も効かないようならば、もう間違いないだろう。精霊王になり始めている』

 「あん?そうなのか?」

 『ああ、お前の名付けで早まったようだ。契約によってもなのかはわからんが、異常な速度でなっていってるぞ』

 「そうか。まあ、別にどうでもいいや」


 俺にとって大事なのは必要か、必要じゃないかだ。こいつは今の俺には必要だ。だからこそ、こいつが何者であろうかなど気にするようなことでもないのだ。俺のそんな思考に馬の精霊は感心したようだった。


 『なるほど。これならある意味問題ないのかもしれぬ。精霊王の力を悪用しそうでもないからな』

 「そーそー、レオンなら問題ないって!変に手を出さなきゃ、何もしないだろうしさ!」

 『下手に手を出せば、どうなるかわかったものでもないということか……それはそれで問題がありそうだがな』

 

 馬の精霊は呆れているが、そんなことは当たり前じゃないだろうか?人は己の大切なものを守るために戦うのだ。それが例えば恋人であったり、家族であったり。自分の命だったり、感情のためだったりする。俺とて、その法則から外れることはないだろう。だからこそ、安易に踏み込むべきではないとは思うが。


 『……まあ、いいだろう。この村に泊まりたいのだったな。我からも話を通してみよう』

 「ん、いいのか?」

 『ああ、面倒を減らしてもらったことだ。それくらいは構わんさ』


 面倒って、シルフィのことか?そう思ってるなら、押し付けるなよ……今となっちゃ、もうどうでもいいけどさ。そう思いながら、ため息をつくのだった。

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