いざこざ
で、現在に至るというわけだ。いまだに口論を続けているシルフィとエルフを見て、もはやため息しか口から出てこなかった。いつになったら止まるのやら。早く終わらねえかな、とぼんやりしていると、再び空間が歪んだ。どうやら、またエルフが出てくるようだった。今度は友好的なやつが出てくるといいんだが。そんな俺の願いもむなしく、5人の男女が姿を現した。そいつらは一人残らずこちらを睨みつけている。どうしたもんかね?
「ねえねえ」
いきなり袖を引っ張られたので、視線を下に落とす。そこには無邪気そうな顔をした、一人の少女がいた。耳は長いし、この子もエルフなのだろう。驚くことに、袖を引っ張られるまでまったく気配に気付けなかった。シルフィなら気付けたんかね?
少し気になったので、この少女をじっくり観察する。髪の色はやはり金髪で――――エルフには金髪しかいないのだろうか?――――後ろで二つにくくっている。いわゆる、ツインテールというやつだ。格好も周りと同じように、ゆったりとした服だ。ただ、特筆することがあるのなら、それはその小ささだろう。140に届くかどうか、かもしれない。胸を見てもつるぺただし、どう見たって子供としか思えない。顔にもあどけなさが残ってるしな。目もパッチリしているし、一部の層からは人気があるんじゃないだろうか。俺にはそんな趣味はないが。そんな風に見ていると、どうやら俺が注視している事に気付いたらしい。笑いながら、口を開いた。
「どうしたの?ボクに見とれちゃった?」
……この世界のロリ共にはませたやつしかいないのか?一瞬、本気でそう思ってしまった。まだニコニコと笑っているエルフを見て、ため息をついた。
「お前な。俺は人間なんだぞ?もしもお前をどっかに連れていこうとしてたら、どうするつもりだったんだよ」
「ん?それはないよ。おにーさん、悪い人じゃないし」
「なんでそう言い切れる?ただ、隠してるだけかもしれねえだろ」
「んーとね。本当に悪い人なら、そんなこと言わないと思うし……それに、精霊さんたちも落ち着いてるしね!なんだかのんびりしてる子が多いのが気になるけどさ!」
腕を掴みながらそう言ってくる。俺の周りにゃ、そんなに精霊がいたんだろうか。というか、のんびりしてるって……俺の思ってることが伝染してね?まあ、いいけどさ。
「……?おい、どうした?」
考え事をしていると、今度は反対側の腕にニーナが抱き着いてきた。怖いことでもあったのか?でも、変なことというようなこともねえしな。どういうつもりだろ?
「だ、誰なんですか、あなたは!どうしてレオン君に抱き着いてるんですか!」
「誰って、ボクはリースだよ?そこの村に住んでるんだ。人間に会うのは初めてでさ、興味があるんだよ!」
「そ、それなら他の人でもいいじゃないですか!」
人の体を挟んで喧嘩するのはやめてほしんだが。いや、喧嘩でもないのか?見れば、ニーナがそのリースとかいうやつに一方的に食い掛かってるだけだし。リースは終始笑っているだけだ。まあ、ニーナの怒ってる顔が怖くないからかもしれない。
にしても、なんでいきなり怒ってるんだ?怒るようなことをこいつはしたのか?うーんと首を傾げ、なんとか答えを捻り出そうとする。
(あ、もしかして)
一つ、脳裏によぎる考えがあった。これはあってるかもしれない。
(ニーナのやつ、俺が取られるかもしれないって焦ってるのか)
恐らくだが、兄を取られたくないんだろう。前にそんなアニメも見たことあったな。兄が結婚しちゃったから、関係がギクシャクしている妹が出てくるヒロインが出てくるアニメ。懐かしいな、と遠い日のことを思い出した。年頃の女の子は複雑なもんだしな、そんなところだろう。仕方がないので、リースに離れてもらい、頭を撫でてやった。
「そんなに心配しないでも、急にお前の前からいなくなりゃしねえよ。別に、ここに残る気もねえしな」
行動だけじゃ伝わらないこともあるだろうし、ちゃんと言葉にもしておく。……前世でもそうだったからな。前世じゃもっとくだらんことだったが。確か、殺されるかもしれないとかうるさいから、口約束させられたんだっけ?ウザったかったよな………
「……そんなんじゃないです」
どこか拗ねたような表情のニーナ。何が気に入らないんだか。困ったように頭を掻いていると、変化が起こった。今までエルフたちは苛立っているだけだったようだが、どうやら御者の男が下手なことを言ったようで、攻撃的なものへと雰囲気が変わった。御者の男も剣を抜き、一触即発のムードだ。
「おい、お前なんとかできねえのか?」
すぐそばにいたリースに話を振る。リースはきょとんとした表情になってから、すぐに笑い出した。
「いやいや、ボクには無理だって。ボクは勝手に出てきただけだからさ。むしろ、ひどいことになるかも?」
「なんだそりゃ。面倒だな」
つい、額に指を押し当てる。もはや事態を収拾させるのが難しいのだ。ぶっちゃけ、めんどくさい。一人で肩を落としていると、隣からクスクスと笑い声が聞こえてくる。見なくてもわかる、絶対にリースだろう。
「……てめえはなんで笑ってんだ?」
「ああ、ごめんね?なんだかおかしくってさ。君の周りの精霊が」
「精霊が?」
胡乱気な表情で聞き返すと、リースは頷く。
「うん。だってさ、聞いていたら『あ、ため息つくよ!今!』とか、『外れてるじゃん!』とか、『やったー、あたしシンクロした!』とか言ってるんだよ?面白くないわけがないじゃん」
……人の周りで何してくれてんだろうか、その精霊たち。呆れてものも言えなくなった。あと、ニーナ。苦笑するな。
「ん?」
何故か、変な感じがする。ここに来るまでに感じていた違和感ではない。何かに狙われているような……狙われている?それに気付いたとき、咄嗟に叫んでいた。
「伏せろ!」
隣にいたニーナとリースは俺が頭を押さえて、無理矢理しゃがませる。と、同時に何かが通過するような音がした。恐らく、風の精霊魔法だろう。アカネとエレナの様子も確認したが、どちらも俺の言葉に従ってくれたようだ。怪我はない。
「シルフィ!エルフたちが使役している精霊を支配しろ!不可視の弾丸相手じゃ、いつまでも持たねえぞ!」
「わかった!あたしに従いなさい!」
その言葉と同時に、エルフたちが戸惑い始めた。精霊が言うことを聞かずに、戸惑っているのだろう。それと同時に、斬りかかろうとしていた御者の男を取り押さえた。
「な、何をする!」
「うるせえ、てめえのせいで話がややこしくなるんだよ!」
今回ばかりは見逃せなかったので、軽く締めあげながら怒鳴る。エルフたちの警戒もすべきではあるのだろうが、今に限っては問題ない。
「あんたたちさ、いきなり魔法ぶっ放す、ってどういう了見なわけ?返答次第じゃ容赦しないけど?」
シルフィもシルフィでキレてるようだ。自身の魔力を最大解放して、エルフたちを睥睨している。エルフたちも、流石に自分が何をしてしまったのかに気付いたようだ。圧倒的なまでの威圧感に、声も出せなくなっている。
『そこまでにしてやれ』
聞き覚えのある声が頭に響く。辺りを見渡せば、俺たちが来た方に新しい影が見えた。俺にシルフィが見えるようにしたあの精霊だ。
『たまたま近くを通りがかってみれば。いったい何があったのだ?』
やっと落ち着き、面倒事が収まりそうな様子に、俺は一人ため息をつくのだった。




