その能力
なんとか連投できた?
「……ここか?」
ニーナと話をしてから、しばらく経ち、森の中へと入った。そして、とある一角へと来たのだ。だが、村のようなものはどこにもない。ただ、木々が生えているだけだ。崖があるわけでも、洞穴があるわけでもなく、森の一部と言って差し支えないところ。そこが目的地だと言っているわけだ。正直、普通なら頭を疑っていると思う。現にそれで騒いでるやつがいるし。
「貴様、ふざけているのか!こんなところに呼び出すとは、お嬢様に何かするつもりだと………!」
「ああ、うるさいうるさい。エレナ、黙らせといてくれ」
「うん」
エレナは俺の言葉に頷くと、御者の男を叱り飛ばした。何度も叱られている男は涙目になっている。……ざまあ。
「けどさ、レオン様。いくらなんでも、こんなんじゃあどこにもないって思っても仕方ないよ。私も疑ってるくらいだし」
エレナたちの様子を笑いをこらえながら見ていると、後ろからアカネに声を掛けられた。まあ、その発言は当然といえば当然か。
「なんだ?俺のことでも疑ってんのか?ここでお前らになんかしようとしてるとかさ」
「いやー、それはないよ。そりゃあ、ちょっとは期待しちゃったけど……でも、何か変なことするつもりならニーナちゃんを連れてこないと思うしね」
あはは、と笑って手を横に振るアカネ。それもそうだ。ニーナにはまだそんなことを教えるのは早すぎる。やるとするなら、深夜に攫って暗がりでやるだろう。しないけど。それに、やっぱり考えてたのか。ぶれないな、こいつは。
「私が疑問に思ってるのはシルフィちゃんの方かな。もしかしたら、調子に乗り過ぎて場所を間違えてる、とかありそうだし」
おお、なんてありそうな可能性をピンポイントで言ってくるんだ。不覚にも、アカネに感心してしまった。だが、ここはちゃんと否定しておいた方がいいので、首を横に振った。
「いや、それはない。こと能力に関してだけは、こいつのことは信頼してるからな」
「そうなの?でも、間違えることだってあるんじゃない?」
アカネは苦笑いをしているが、俺は真顔で言葉を続ける。
「アカネ。シルフィの探索できる範囲がどれくらいか知っているか?それにミスをした回数は?誤差はどれくらいかは?」
「え?えーっと、わからない、けど………」
「正解はな。精密に探知できるのは2㎞。大雑把でもいいなら、5㎞だ。ミスした回数なんざ一回しかねえしな。その一回だって、別に間違いではなかったわけだし、実質0と言っても間違いじゃない。そして、あいつの誤差範囲は精密圏内に入れば、ミリ単位でしか間違えたことはねえ。このデータからでも、あいつの有能さはわかるだろ?」
間違いなく、異常と言ってもいいレベルの探知能力。それがあいつの一番恐ろしいところなのだ。あいつに聞いたところ、実際には自分でやっているわけではないらしい。その場にいる精霊の声を聞き、それを教えているのだとか。だが、自分でやっていないからと言って、偉そうにするなとは言えない。なぜなら、シルフィは2㎞離れたところの声を拾える、と同意義であるからだ。さらにはこちらから声を掛けて、その場にいる精霊を一時的に支配し、遠隔攻撃をすることもできる。支配できる時間は、目の前にいるときと比べて少なくなるようだが十分過ぎる。シルフィさえいれば、虐殺が可能であるのだから。改めて考えてみると、とんでもない精霊と契約しているものである。まあ、フルで使いこなせるやつがいるのかどうかは置いておくとして。
俺の話を聞いたアカネは顔を引きつらせていた。こいつには距離の概念も教えていたから、2㎞がどれくらい離れているのかもわかったのだろう。そして、それを相手とする心境も。
「し、シルフィちゃんってすごいんだね……全然わからなかったよ」
「そりゃそうだろうな。俺が認めてるのは能力だけだし」
性格は認める気にならん。トラブルメーカーなのは正直言って迷惑だし。テンションいつも高いから疲れるし。相棒として認めちゃいるのだが、直してほしいところもいっぱいあるわけである。……無理だろうけどさ。ため息をついていると、アカネに頭を撫でられてしまった。そんなに悲壮感が漂っていたのか?
「それはともかくとして。じゃあ、村があるってどこにあるの?見渡すあたり、どこにもないんだけど………」
「そうだろうな。人間にばれないようにするために、対策くらいはしてるだろ。そこら辺はあいつを使って行きゃあいいだけさ」
振り向いて、そう呼びかける。アカネは不思議そうな顔をしているが、すぐにわかることになるだろう。もう、こちらに飛んできているのだから。
「レオーン、やっぱここにあるって。結界張ってるみたいよ?」
「そうだろうな。どうだ、中の精霊に呼び掛けて外に来るように言えそうか?」
「今やってるー、もうちょい時間かかるかもー」
「どれくらいかかる?」
「そんなにはー?今のうちに説得するやつ考えといてー」
「わかった」
そんな会話をしながら、中にいるやつらが出てくるのを待つ。アカネは俺が何かを考えているのがわかったらしく、質問したそうではあったが黙っている。考えを巡らせていると、前方の空間が歪み、中から一人の男が現れた。そいつは年はいってるものの、老けて見えるわけではない。イケメンが順当にそのままのカッコよさを保ったら、こんな感じになるんじゃないだろうか?簡単にいってしまえば、ダンディーとでも言えばいいんだろうか?わかんないけど。髪は金色で、伸ばしているようだ。それが似合っているのは、やはり顔がいいからだろうか?筋肉質、とまでは言わないが、服の上からでも鍛え抜かれているのがわかる。そして、その服は緑色のゆったりとした服だった。動きやすくはあるのか?そして、一番重要なところはその眉間に寄せられたしわだろう。不機嫌そうな顔に見える。というか、不機嫌なんだろう。
「……精霊たちがざわついているから何事かと思えば。何故、こんなところに人間がいる?」
声も不機嫌だった。こりゃ、変なことは言えないな。そう思いながら、口を開こうとすると、それよりも早く俺の目の前に出てくるものがいた。
「ねー、ここに泊めてよ!好待遇でさ!」
……馬鹿だった。




