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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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突破口

(レオン)

 『どうしたもんか……』

 『そう言いつつ、ひたすら殺し続けるレオンって相当えげつないと思うんだけどねー……』

 

 ひたすら銃撃を浴びせ、殺し続けるのだが復活し続ける。不死のやつとか勘弁しろよ、そういうのはゲームとか戦隊もののやつらが相手すべきだろ。


 『ッチ、このままじゃきりがねえ』

 『なんか手立てあるの?』

 『ない。だからやれることを片っ端からやるだけだ』



 やつのスキルが『超回復』なら回復系の最上位、もしくはそれに近いスキルであるはず。そう推測する。回復系スキルである以上、回復してもすぐに怪我をするならばどうだ?それは怪我が治らないのと同義なはずだ。つまり……


 (殺せないのなら殺し続けるしかない!)


 ナイフを生成し、魔族の心臓に突き立てる。再生してもこれでまた心臓に刺さるはずなのだが………


 「おいおい、悪い冗談はやめろよな……」


 もう渇いた笑いしか湧いてこなかった。なぜならナイフはひとりでに抜け落ち、そして傷が塞がってしまったのだから。殺し続けるのも不可能なのかよ、最悪過ぎるな……


 (とっとと逃げりゃいいんだが……そうも言ってられないしな)


 一度浮かんだ考えを追い払うように、頭を振る。住人たちを逃がすには時間が絶対に足りない。更に俺が逃げ出す、ということはどうにもならないのと同じことだろう。そうすれば当然パニック状態に陥り、まともに逃げられるやつが何人になるのかわかりもしない。挙句の果てには、どこにいるかもわからない女の魔族。状況は最悪としか言いようがない。


 『何とか突破口がありゃいいんだが……』

 『んー、レオン?ちょっといい?』

 『あん?何だよ?』

 『もう一回、さっきと同じことしてくれない?ナイフで心臓突き刺したやつ』

 『別に構いやしないが……なんでいきなり?』

 『もしかしたらだけど、突破口になるものがあるかもしれないんだよねー』

 『なるほどな。それならやってやるさ』


 ちらりと目線をやれば、それなりに何かを考えているようだった。こいつは馬鹿じゃあるが、能力自体は高く評価しているし、それを活かせないわけでもない。突破口となるかもしれないものを見つけたなら、それを信じてやるさ。

 銃撃で一度殺し、動かなくなったところを狙って再び心臓にナイフを突き立てる。さて、これでどうなるのか……


 『やっぱりねー、合ってたみたい』

 『突破口になるやつがあったのか?』

 『うん、それはね……』


※               ※               ※

(イドニア)

 どういうことだ?何故この俺がここまで押されている?しかも人間如きに!今もまた殺され続けている事実に、戦慄を覚えざるを得なかった。


 (こんなはずはない……こんなことがあり得るはずがない!)


 否定するように攻撃するが、その攻撃は受け止められる。すべての攻撃がことごとく受け流され、時には受け止められる。そして、向こうの攻撃は外れることなく命中し続ける。何なのだ、あの人間は!?


 (クソ……俺様の快進撃となるであろう、この作戦を台無しにしよって………)


 だが、何度も殺されたことで冷静になった。少なくとも技術、力、速さ。このすべてで俺はやつに勝てないだろう。恐らく、やつの言う精霊の力を借りているのだろう。


 (チッ、仕方がないが持久戦に持ち込むしかないか……)


 非常に不本意だが、仕方がない。だが、最後に笑うのは俺だ。『超回復』がある限り、俺が負けることなどあり得ないのだから。攻撃をやめ、防御に専念し始める。

 それにしても、あの武器は何だ?あんな武器など、見たことも聞いたこともない。古代文明とやらが残したアーティファクト、とやらなのか?手数、威力、速度。どれにおいても、申し分ない一品だった。


 (大方、遺跡か何かを攻略したはいいが、使い方の分からなかったものを譲ってもらったのだろう。それを偶々使えてしまったといったところか。厄介な……まあいい。あいつを殺した後に戦利品代わりに頂くとしよう)


 そう思い、どう殺すかと考えを巡らせていると違和感を感じ始めた。


 (なんだ?何かおかしい……?)


 初めは大したことではなかった。いや、精霊魔法を使っているのか、風の魔法で攻撃し始めたのにも違和感を覚えたのだが、それではない。初めは少しおかしい、程度でしかなかった。だが、何度も何度も攻撃を受けるうちにわかってきた。それは……


 「ど、どういうことだ!?」


 傷の治りが明らかに遅くなっているのだ。いつもなら一瞬で塞がる傷ですら、シュウシュウと音を立て10秒ほど時間が必要になっている。


 「なるほどな。これは確かに突破口だ」


 人間のガキが笑う。


 「貴様!何をした!?」

 「いや、別に?俺はただお前を殺し続けてるだけさ」

 「馬鹿な!それでこうなるはずはない!」

 「ところがどっこい!そうなるんだよねー」

 

 耳障りで癪に障る精霊が出てくる。あいつのせいか!


 「おいおい、あいつイラついてるみたいだぞ?」

 「うわ、ひどい!あたしはこんなにもチャーミングなのに!」


 衝撃を受けたような表情だったが、それは俺をイラつかせるだけだった。


 「まあ、見た目だけはな」

 「こっちもひどい!なんでそんなこと言うわけ!?」

 「いや、お前のテンションは正直うっとうしいしな……」

 「ええー!?」


 ガキと精霊の会話内容にイライラが溜まっていく。


 「……今回ばかりはお前に感謝するが」

 「そうそう、あたしに感謝しなさいって!」

 「貴様ぁ……どんな手品を使った………?」


 その余裕を残しているかのような会話に、苛立ちは最高潮になった。何より、俺など眼中にないかのような態度。それが俺にとっては堪らないほどの屈辱だった。


 「うわあ、めっちゃキレてるよ……」

 「よし、シルフィ。なるべくいつも通りに説明してやれ。それが一番イラつくだろうから」


 男の方がにやけながらそう言う。


 「ええ!?キレさせるの前提!?」

 「いや、その方がミスするかもだろ?」

 「ああ、それもそうだね!」


 その会話で少しだけ冷静になった。俺の失敗を待っているのなら、ここで逆上するのは悪手だ。


 「……あいつがイライラするだろうのが見てて楽しい、ってのもあるが」

 「ちょっ!?レオンって性格ひん曲がってる?」

 「何を馬鹿なことを。ただ昔から言うだろ?」

 「何をさー?」


 ガキが空を見上げ、晴れ晴れとした表情をする。


 「他人の不幸は蜜の味、って」

 「うわ、最悪だ!」

 「まあ、こいつが言わないから、勝手に俺が言うが……要は簡単な原理だよ。『超回復』は魔力を使って回復するスキルだろ?なら、殺し続けて魔力をなくしてしまえばいいだけさ」

 「……なっ!?」


 慌てて自分のスキルの詳細を見る。そこにはこう書かれていた。


 『超回復』:魔力の持つ限り、どんな傷でも回復する。傷が大きかったり、致命傷だったりしたときはより魔力を消費する。


 「な、何故わかった!?貴様はスキルの詳細などわからないはずだ!」

 「まあ、俺はな」

 「でも、あたしはわかるんだよねー!だからあんたが傷を治すたびに魔力が減ってる、ってこともわかるわけ!」


 歯軋りをするしかなかった。何が悪いといえば、この組み合わせが悪い。戦闘能力に特化している人間に、それを補助する精霊。互いが自身にないものを補っているものだから、最悪としか言いようがない。


 「では、先程から魔法を使って攻撃してきたのは……」

 「お前の魔力の減りを上げるためだ。治してもすぐに傷ができるような攻撃だったとき、普通に殺すよりも多くの魔力を消費するからな」


 何十本も地面に落ちたナイフに目を落とす。普通ならこの程度、皮膚で弾くことができるだろう。だが、風の力で強化されたナイフは弾くことができず、傷を増やすばかりだった。しかも、すべて致命傷。やつは尋常ではない実力だった。


 (……負けるのか?この俺が?)


 唐突にその事に気付く。今まであの方(、、、)を除いて負けたことなどなかった。すべて思い通りにしてきたのだ。それをこんな下等種族に、それも子供などに負けるなど………


 「そんなこと認められるかあ!」


 怒りに我を忘れ、突進していく。俺が負けることなど認めん!認めんぞ!


 「……まだやるのか。めんどくせえ」


 やつはそう言い、手にしたものをこちらに向け………


 「そこまでじゃな」


 俺もやつも動きを止められたのだった。

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