突破口
(レオン)
『どうしたもんか……』
『そう言いつつ、ひたすら殺し続けるレオンって相当えげつないと思うんだけどねー……』
ひたすら銃撃を浴びせ、殺し続けるのだが復活し続ける。不死のやつとか勘弁しろよ、そういうのはゲームとか戦隊もののやつらが相手すべきだろ。
『ッチ、このままじゃきりがねえ』
『なんか手立てあるの?』
『ない。だからやれることを片っ端からやるだけだ』
やつのスキルが『超回復』なら回復系の最上位、もしくはそれに近いスキルであるはず。そう推測する。回復系スキルである以上、回復してもすぐに怪我をするならばどうだ?それは怪我が治らないのと同義なはずだ。つまり……
(殺せないのなら殺し続けるしかない!)
ナイフを生成し、魔族の心臓に突き立てる。再生してもこれでまた心臓に刺さるはずなのだが………
「おいおい、悪い冗談はやめろよな……」
もう渇いた笑いしか湧いてこなかった。なぜならナイフはひとりでに抜け落ち、そして傷が塞がってしまったのだから。殺し続けるのも不可能なのかよ、最悪過ぎるな……
(とっとと逃げりゃいいんだが……そうも言ってられないしな)
一度浮かんだ考えを追い払うように、頭を振る。住人たちを逃がすには時間が絶対に足りない。更に俺が逃げ出す、ということはどうにもならないのと同じことだろう。そうすれば当然パニック状態に陥り、まともに逃げられるやつが何人になるのかわかりもしない。挙句の果てには、どこにいるかもわからない女の魔族。状況は最悪としか言いようがない。
『何とか突破口がありゃいいんだが……』
『んー、レオン?ちょっといい?』
『あん?何だよ?』
『もう一回、さっきと同じことしてくれない?ナイフで心臓突き刺したやつ』
『別に構いやしないが……なんでいきなり?』
『もしかしたらだけど、突破口になるものがあるかもしれないんだよねー』
『なるほどな。それならやってやるさ』
ちらりと目線をやれば、それなりに何かを考えているようだった。こいつは馬鹿じゃあるが、能力自体は高く評価しているし、それを活かせないわけでもない。突破口となるかもしれないものを見つけたなら、それを信じてやるさ。
銃撃で一度殺し、動かなくなったところを狙って再び心臓にナイフを突き立てる。さて、これでどうなるのか……
『やっぱりねー、合ってたみたい』
『突破口になるやつがあったのか?』
『うん、それはね……』
※ ※ ※
(イドニア)
どういうことだ?何故この俺がここまで押されている?しかも人間如きに!今もまた殺され続けている事実に、戦慄を覚えざるを得なかった。
(こんなはずはない……こんなことがあり得るはずがない!)
否定するように攻撃するが、その攻撃は受け止められる。すべての攻撃がことごとく受け流され、時には受け止められる。そして、向こうの攻撃は外れることなく命中し続ける。何なのだ、あの人間は!?
(クソ……俺様の快進撃となるであろう、この作戦を台無しにしよって………)
だが、何度も殺されたことで冷静になった。少なくとも技術、力、速さ。このすべてで俺はやつに勝てないだろう。恐らく、やつの言う精霊の力を借りているのだろう。
(チッ、仕方がないが持久戦に持ち込むしかないか……)
非常に不本意だが、仕方がない。だが、最後に笑うのは俺だ。『超回復』がある限り、俺が負けることなどあり得ないのだから。攻撃をやめ、防御に専念し始める。
それにしても、あの武器は何だ?あんな武器など、見たことも聞いたこともない。古代文明とやらが残したアーティファクト、とやらなのか?手数、威力、速度。どれにおいても、申し分ない一品だった。
(大方、遺跡か何かを攻略したはいいが、使い方の分からなかったものを譲ってもらったのだろう。それを偶々使えてしまったといったところか。厄介な……まあいい。あいつを殺した後に戦利品代わりに頂くとしよう)
そう思い、どう殺すかと考えを巡らせていると違和感を感じ始めた。
(なんだ?何かおかしい……?)
初めは大したことではなかった。いや、精霊魔法を使っているのか、風の魔法で攻撃し始めたのにも違和感を覚えたのだが、それではない。初めは少しおかしい、程度でしかなかった。だが、何度も何度も攻撃を受けるうちにわかってきた。それは……
「ど、どういうことだ!?」
傷の治りが明らかに遅くなっているのだ。いつもなら一瞬で塞がる傷ですら、シュウシュウと音を立て10秒ほど時間が必要になっている。
「なるほどな。これは確かに突破口だ」
人間のガキが笑う。
「貴様!何をした!?」
「いや、別に?俺はただお前を殺し続けてるだけさ」
「馬鹿な!それでこうなるはずはない!」
「ところがどっこい!そうなるんだよねー」
耳障りで癪に障る精霊が出てくる。あいつのせいか!
「おいおい、あいつイラついてるみたいだぞ?」
「うわ、ひどい!あたしはこんなにもチャーミングなのに!」
衝撃を受けたような表情だったが、それは俺をイラつかせるだけだった。
「まあ、見た目だけはな」
「こっちもひどい!なんでそんなこと言うわけ!?」
「いや、お前のテンションは正直うっとうしいしな……」
「ええー!?」
ガキと精霊の会話内容にイライラが溜まっていく。
「……今回ばかりはお前に感謝するが」
「そうそう、あたしに感謝しなさいって!」
「貴様ぁ……どんな手品を使った………?」
その余裕を残しているかのような会話に、苛立ちは最高潮になった。何より、俺など眼中にないかのような態度。それが俺にとっては堪らないほどの屈辱だった。
「うわあ、めっちゃキレてるよ……」
「よし、シルフィ。なるべくいつも通りに説明してやれ。それが一番イラつくだろうから」
男の方がにやけながらそう言う。
「ええ!?キレさせるの前提!?」
「いや、その方がミスするかもだろ?」
「ああ、それもそうだね!」
その会話で少しだけ冷静になった。俺の失敗を待っているのなら、ここで逆上するのは悪手だ。
「……あいつがイライラするだろうのが見てて楽しい、ってのもあるが」
「ちょっ!?レオンって性格ひん曲がってる?」
「何を馬鹿なことを。ただ昔から言うだろ?」
「何をさー?」
ガキが空を見上げ、晴れ晴れとした表情をする。
「他人の不幸は蜜の味、って」
「うわ、最悪だ!」
「まあ、こいつが言わないから、勝手に俺が言うが……要は簡単な原理だよ。『超回復』は魔力を使って回復するスキルだろ?なら、殺し続けて魔力をなくしてしまえばいいだけさ」
「……なっ!?」
慌てて自分のスキルの詳細を見る。そこにはこう書かれていた。
『超回復』:魔力の持つ限り、どんな傷でも回復する。傷が大きかったり、致命傷だったりしたときはより魔力を消費する。
「な、何故わかった!?貴様はスキルの詳細などわからないはずだ!」
「まあ、俺はな」
「でも、あたしはわかるんだよねー!だからあんたが傷を治すたびに魔力が減ってる、ってこともわかるわけ!」
歯軋りをするしかなかった。何が悪いといえば、この組み合わせが悪い。戦闘能力に特化している人間に、それを補助する精霊。互いが自身にないものを補っているものだから、最悪としか言いようがない。
「では、先程から魔法を使って攻撃してきたのは……」
「お前の魔力の減りを上げるためだ。治してもすぐに傷ができるような攻撃だったとき、普通に殺すよりも多くの魔力を消費するからな」
何十本も地面に落ちたナイフに目を落とす。普通ならこの程度、皮膚で弾くことができるだろう。だが、風の力で強化されたナイフは弾くことができず、傷を増やすばかりだった。しかも、すべて致命傷。やつは尋常ではない実力だった。
(……負けるのか?この俺が?)
唐突にその事に気付く。今まであの方を除いて負けたことなどなかった。すべて思い通りにしてきたのだ。それをこんな下等種族に、それも子供などに負けるなど………
「そんなこと認められるかあ!」
怒りに我を忘れ、突進していく。俺が負けることなど認めん!認めんぞ!
「……まだやるのか。めんどくせえ」
やつはそう言い、手にしたものをこちらに向け………
「そこまでじゃな」
俺もやつも動きを止められたのだった。




