契約
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「ニーナちゃん、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。それにしても、その、なんて言いますか……」
「うん、凄いよね……」
ニーナちゃんを見ると、顔を引きつらせていた。私も同じようになっていると思う。
レオン様は魔族が現れたとき、戦線を維持できていたとしてもすぐに放棄しろ、と言っていた。逃げ出すときにはなるべく怯えたような感じで逃げるとなおいい、とも。ともかく必死になって逃げればそれでいいのだそうだ。そうすれば相手の油断を誘えるから、と。
で、逃げた私たちは何をすればいいのかというと……あちこちで建物の陰や狭くなっている横道、更には2階から飛び降りてなんてことをして、魔物たちに襲い掛かっている。当然、不意打ちに対応できない魔物たちはどんどん倒れていく。怒って反撃しようにも、攻撃したらまた逃走を始めるものだからたまったものではないだろう。
(……やっぱり信じられないなあ。レオン様ってホントに11歳?)
そんなことを考えてしまう。少なくとも、私が11の頃はあんなに頭がよかった自信がない。普通なら嫉妬するのかもしれないのだけれど、素直に凄いなあとしか思わないのはレオン様に惚れているからだろうか?レオン様のことを考えると、顔が赤くなって、ちょっとだけ幸せな気持ちになる。
「あ、アカネさん!前に!」
「え?」
その声に反応して意識を戻すと、目の前にはオークが。
「うわ!」
「ピギ?」
驚いて、一本背負いを決めて顔を踏みつぶしちゃった。
「びっくりしたー、心臓に悪いからやめてよね?ああ、ニーナちゃん、教えてくれてありがとう」
「は、はい……」
レオン様に投げ技、ってものを教えてもらってよかったー。もし教わってなかったら、手が先に出ていたかもしれない。そしたら、怪我しちゃうかもしれないから駄目だよね。まだ戦いは終わってないんだし。それに戦ってる途中で、考え事なんてしてる場合じゃなかった。ニーナちゃんを任せてもらってるんだから、しっかり守らないと!そしたら、レオン様もきっと見直してくれるよね!ニーナちゃんがなんか「……オークがなんだか可哀相です」って言ってるような気がするけど、気のせい気のせい!
「よし!頑張らなきゃ!」
「なんだか嫌な予感がするような……」
※ ※ ※
「うん!頑張ったと思う!」
魔物もいっぱい倒したし、ニーナちゃんにも傷一つない。きっとレオン様だって褒めてくれるよね?そんなことを思っていると、ニーナちゃんから怒ったような声を掛けられた。
「やり過ぎですよ、アカネさん!」
「え?そうかな?普通だと思うんだけど……」
「全然ですよ!なんかゴブリンジェネラル3体くらいいたのに、一人で倒してたじゃないですか!」
「あはは、レオン様のおかげだって」
頬を掻きながらそう言う。今、私の顔は赤くなってるだろうなあ………
「褒めてないです!周りの人を見てみてくださいよ!ドン引きしてるじゃないですか!」
「……やり過ぎだろう…………」
「なんか魔物たちに同情の気持ちが浮かんでくるぜ……」
「躊躇なく股間部狙ってたぞ、あいつ……しかも目つぶしとかしてるし………」
「……あ、あれ?」
おかしいな?みんなの様子がおかしいんだけど……周りの人たちが、特に男の人たちが引いていた。
「……いくらなんでもやり過ぎ。加減ってものを知らないの?魔物たちの方がまだ可愛げがある」
「ひどいよ、エレナちゃん!?」
「あいつに戦い方教えてるのって、悪魔憑きだろ?そっくりレベルだな……」
「えへへ、いやあそれほどでも……」
「「「「「照れる要素あったか、今の!?」」」」」
冒険者たちが驚いてるけど、気にしない。いやあ、それってレオン様とお似合いってことだよね?嬉しいなあ……そう考えていると、エレナちゃんが首を横に振った。
「それはない」
「え?口に出ちゃってた?恥ずかしいな……って、そうじゃないよ!なんでそれはないの!?」
「師匠は自重をしない人だから、誰かが止めなきゃいけない。それなら、冷静な私の方が似合ってるはず」
エレナちゃんのその言葉にすかさず反論する。
「それこそないよ!ほら!レオン様って敵も多そうだから、実力も信頼も置ける人じゃないとだめだと思うよ!?」
「実力はともかく、信頼は私だってあるはず。なら私の方がいい」
「何言い争ってるんですか、二人とも!まだ終わってないんですよ!」
ニーナちゃんが腰に手を当てて、怒っている。
「あ……そうだよね、ちゃんと集中しないと」
「確かに気が緩んでたかもしれない。ちゃんとしなきゃ」
うう、ニーナちゃんにそう言われるとは。私もまだまだだなあ。反省していると、ニーナちゃんが言葉を続ける。
「そうですよ!それに、レオン君のことなら私が一番知ってるんですから!」
「「それが言いたかっただけ!?」」
まったくもう。油断も隙もあったものじゃないね。この二人に先を越されないように頑張らないと!手を握って、そう決意した。
「ここから声がしてきたと思えば……下等種族が大量にいるではないか」
不意に背筋がゾクリとし、ニーナちゃんとエレナちゃんを抱きかかえ、その場を飛びのく。レオン様も言っていたけれど、自分の感覚、特に恐怖なんかには従っておいた方がいいのだそうだ。それに従わなかった結果、死ぬこともあるそうだから。その忠告通りにしたところ……
「チッ、勘のいいやつめ。すぐに死んだ方が楽になれたものを」
「魔族……!?どうしてここに!?」
振り向いたそこにいた、黒いそいつは間違いなく魔族。魔族はすべてレオン様がどうにかする。そう言っていたはずだった。その魔族がここにいるってことはもしかして……!不安で膝をつきそうになる。
「誰が何をしたのかわからんが、こうなったからには全員殺す!男も女も大人も子供もすべてだ!この俺様を侮辱した罪、たっぷりと味わって……」
「ならもう少し侮辱してやるよ」
唐突に魔族の体が吹き飛ぶ。同じ場所に降り立った黒い影。でも、それはさっきのように知らないものではなく、そして何より人間であった。
「レオン様!」
「うえっ、マジかよ。よりにもよって、ニーナの近くか……最悪だな」
「ええっ!?どうしてですか!?」
「流血沙汰になるじゃん……あんまりそういうの見せたくねえんだよ………」
レオン様の本気で嫌そうな顔に少し嫉妬する。むー、相変わらずニーナちゃんには甘いんだから……なんかずるいと思う。
「にしても、そんなにかからなかったな。エンチャント+魔力強化は人間じゃあり得ないくらいのスピード出てるんじゃねえか?」
え?エンチャント?レオン様使えたっけ……?あれって無属性じゃ使えないはずだよね?首を傾げながらそう思った。
「あったりまえじゃん!あたしとレオンの力を合わせればこんなもんだって!」
「貴様!どこから来た!」
「ん?ああ、生きてたのかお前。どこってギルドからだが?」
めんどくさそうにレオン様が答えた。……初耳なんだけどなあ。
「馬鹿を言うな!ここまでどれだけ離れていると思っている!?」
「さあ?知らねえよ」
「はったりもいい加減にしろ!どうせまた動揺させて不意打ちしようというところなのだろう!俺様にはもう通用せんぞ!」
え?レオン様が言うなら、間違いのはずがないんだけど。あの魔族、どれだけ現実を受け止めたくないの?じとっとした目で魔族を見る。
「っつってもなあ……」
「ねえねえ、レオン。こいつ馬鹿なの?それとも現実が見れてないの?」
「たぶんどっちもだろ」
「貴様らいい加減に……誰と話している?」
「はいはーい!あたしとでーす!」
私もそう思ってたところだった。そうしてレオン様の頭の上を見ると、白い髪の妖精のような子が乗っかっていた。
「誰だ、貴様!」
「んー、あたし?シルフィだよー?精霊です、よろしく!」
「これから殺す相手によろしくもくそもねえだろ……」
本気で呆れた様な声に、その精霊さんは笑った。
「それもそっか!じゃあよろしくしないでもいいや!」
「馬鹿なことを言うな。精霊が見えるはずがないだろう。何のはったりだ!」
「だからはったりじゃねえっての。見えるのは当たり前だろ?」
そうは言うけれど、普通は見えないはずだ。どうして私たちにも見えるのだろう?首を傾げる。
「レオン君?どうして私たちにも見えるんですか?」
「んー、そうだな。簡単に説明するとだな……」
そう言って、ちらりとシルフィちゃん(?)を見やる。
「言っちゃっていいよー。別にそんなに気にしてないし」
「お前、適当過ぎるだろ……まあいいや。こいつがお前らに見えるのはな。こいつと俺が契約してるからだよ」




