到着、ヘカルトン
「ああ、クソ……眠い………」
眠気でしょぼしょぼする目をこすって、無理矢理意識を覚醒させたままにする。早くも俺は、こいつを置いていくべきなんじゃないかと思い始めた。だって、俺寝れねえもん……
「ご、ごめんなさい!代わるべきだったんだけど………」
「いいよ。信用しきってるわけじゃねえからさ。お前の話も能力も」
起きていたアカネがすぐさま謝ってくるが、手を振って制する。作り話のような不幸さだったから、信じらんねえんだよな……俺の悪いところだろうけど。
「そっか……信じてはくれないんだ………」
「少なくとも自分で確認しないことには信じられん。疑り深い性格だしな」
沈黙が場を支配する。ニーナはまだ起きてはいない。意外と寝坊助なんだ、あいつ。
「あ、あのさ!」
「ああ?なんだ、今度は?」
「えっと、その、れ、レオン様ってさ、年上の女ってどう思うのかな?」
「はあ?」
訝し気にアカネを見る。突っ込み所が多すぎるんだが、何よりも先に確認しておきたいのは………
「もしかしてお前、俺のことが気になってる、とかいうんじゃねえよな?」
「…………」
目を逸らすな!頬を赤く染めるな!!小声で気付かれちゃったとか言うな!!!
「お前、ショタコンだったのかよ!」
「しょ、しょたこんって?」
「年下の男好きってことだ!具体的には小さな12歳くらいの男の子!」
そう怒鳴ると、明らかに挙動不審になりつつ、言い訳し始めた。
「え、ええ!?ち、違うよ?いや、それもあるんだけどね?決してそれだけじゃないっていうかね?」
「どこがだ、おい!今それもあるっつったよな!?それになんださっきからレオン様って!気色悪い!」
「だ、だってレオン様はレオン様だもん!」
「だからそれをやめろっつてんだ!」
この問答はニーナが起きてくるまで続くのだった。っていうか、なんであいつこの状況でマイペースに眠り続けられるわけ?
※ ※ ※
「ったく、なんなんだこいつは」
悲劇のヒロインぶっといて、実際はただのショタコンかよ?なんつーやつ助けちまったんだ。やっぱあのときの俺は阿呆だったのかもしれん。何度目かもわからないため息をついた。
「レオン君、なんか昨日からアカネさんに対して酷くないですか?」
「少なくともアブノーマルなやつと一緒にいて嬉しいやつは心に余裕があって広いやつか、もしくはよほど異性に飢えてるやつかくらいだろうさ」
「あぶのーまる?」
「普通じゃないって意味。例えばこいつとか」
親指でアカネを指し示す。ニーナは意味がわからなかったらしく、きょとんとした顔で見上げてくる。
「………?どういうことですか?」
「れ、レオン様!それは……!」
「俺に気があるんだと。俺からしちゃそれで?って話だが」
もうちょいまともなやつがいいよなあ、付き合うんだったら。進んで変人と付き合いたくはないね。少なくとも、俺は。そんなことを考えていると、ニーナがいきなり襟首をつかんでガックンガックンと揺さぶってきた。……いきなりなんだ?
「ええ!?何ですかそれ!私そんなの聞いてませんよ!」
「いや、まあお前が寝てるときだったからな」
「なんでそれを言ってくれないんですか!」
「逆になんで言わなきゃいけねえんだよ?」
何言ってんだ、こいつ?わけわからん。とりあえず落ち着かせて、襟首から手を離させる。
「レオン様って……意外と鈍感なところある?」
「てめえは何さらりと失礼な事ぶっこいてんだ」
「それより何ですかレオン様って!レオン君は私のです!」
「そ、それは違うよ!きっと私のだよ!」
「どっちのでもねえよ」
なんでまた修羅場復活すんだよ……めんどくせえからやめろよ………と、そこで目的地に着いた事に気付いた。
「ん?あれか?」
俺たちが歩いているところは、完全に人が通る道になっている。見ればちらほらと人がいるし、利用してるやつもいるんだろう。ちなみにバイクは開けた道になる前に乗り捨てておいた。見つかったらめんどくせえしな。後で回収すればいいだろ。話を戻して、前の方に目を向けるとそこには俺の身長の十倍くらいはありそうな壁があった。勿論壁だけということはなく、直線状にはその壁にふさわしいだけの巨大な門もあった。ただなあ………
(進〇の巨人?)
あれに似てるんだよな………著作権大丈夫だろうか。唐突に不安になる。しかもあれ超大型の前では無力だったからなあ……俺見てないからそんぐらいしか知らんけど。今更ながら読んどくべきだったかもしれん。要らん心配をしていると、アカネが声を掛けてきた。
「あ、レオン様……その、覚悟しておいた方がいいかも………」
「どういう意味だ?」
「そのね、ヘカルトンに入るんだったら身分証を提示しなくちゃいけないんだ。もし持ってなかったら期限付きで発行してくれるんだけど……その時にフードを脱ぐように言われるかもしれない」
「ええ!?それって大変じゃないですか!」
ニーナは驚いたような顔をしているが、別に俺としては驚くようなことでもなかった。
「そうか。まあ、ある程度予想はできてたが」
「「ええ!?」」
「おい、なんでそこで驚く?少し考えりゃ当たり前のことだろうが」
小さい村ならともかく、大きな都市ともなれば個人を特定するのは大変な作業だ。特に犯罪なんか起こったりすれば大問題だ。前々世ではそれを住民票やらマイナンバーやらで特定できるようにしていた。ではこっちでは何をもとに特定するのか?思いつくことといえばやはり身分証明書だろう。冒険者が使うようなギルドカードでもいい(先生が見せてくれたことがあるので存在することは知っている)。それを魔道具か何かで記録しておけば特定できる、ということだ。補足しておくと魔道具とは魔法が付与された道具、または魔石を使用した道具のことだ。この世界では発達していない科学でどうこうできないところを魔法で補ってる道具、とも言い換えられるな。んで、魔石のことなんだが……面倒なのでまた別の機会に、ということで。そんな感じで、ニーナとアカネには推測を語ってやった。
「まあ、ヘカルトンはこの国の重要都市なわけだし、普通の都市には置いてないだろう魔道具だって置いてんだろ。それに普通はフード被った不審人物を疑いもせずに招き入れるような門番はすぐに解雇されんだろうしな」
「……レオン様って本当に私より年下なんだよね?」
「……まあ、一応な(実年齢90以上だけど)」
ま、確認も取れた事だし、あれは無駄にならなかったわけか。
そんなことを考えてると門の前に着いた。勿論並んでるやつもいるわけだから、俺らも並ばなきゃいけないわけなんだが………
(なんか少なくないか?)
普通これだけの大都市なら、もうちょい並んでるやつがいてもおかしくないはずなんだが……辺りを見渡せば、並んでいるのは10人ちょっとくらいだ。
(中に入ったら調べる必要がありそうだな………)
睡眠時間が削られるの決定である。たまにはゆっくり寝たいんだがなあ……またもやため息をついた。
「次-、どうぞー」
門番に呼ばれたようだ。俺の番か。早かったな。
「おい、お前。フードを外さんと入れんぞ」
「そうか、すまない」
フードを外し、素顔があらわになる。
「お、お前………」