これからのこと
目の前には怒った顔のニーナ。後ろにはスタイルがよく、黒髪赤目の美人さん。しかも、それなりに大きな胸が当たってる。こんな状況じゃなけりゃ、素直に嬉しいんだがなあ……
「と、とりあえず、だ。状況を整理するぞ。お前らそこに座ってろ」
それで納得してくれたのか……いや、絶対してない。どっちも不満そうな顔だし。でもな。俺もどうしてこうなったのかわかんねえんだよ。俺に当たられても困るわけ。わかる?離れてくれただけ助かるけどさ。
そう考える間にも体は動いて、気付いたときにはもう焚火の準備ができていた。ここら辺、もうほんと悲しくなってくるよな………前世でこんなことばっかやって、以下略。
「一応自己紹介から始めるか。俺はレオン。旅をしてる。で、こっちがニーナ。俺の旅の同行者だ」
「あ……えっと、私はアカネ。その、冒険者をしています」
アカネと名乗ったそいつをじっくりと観察する。黒い髪は後ろでひとくくりにしていて(いわゆるポニーテール?)、そこそこに長い髪だった。すらりと伸びた足は長く、モデルと言われれば納得できるくらいだった。身長もそこそこあるし、年は20くらいに見える。ただその表情がどこか子供らしく、そこからもう少し年は下かもしれないと思い直す。まあ、要するに。美人だった。
「アカネ、ね。最初にはっきりさせておきてえんだが、俺からの条件だ。俺はあんたを助けはしたが、これっきりだ。あんたにこれ以上関わる気はねえし、関わりたくもねえ。だからヘカルトンまでは連れてってやるが、それでさよならだ。いいな?」
「え………!?ちょ、ちょっと待って!お願い、私も一緒に行かせてよ!何でもするから!」
俺に向かって必死に取り縋ってくる。流石に振り払いはしなかったが、俺としてはそうしたい気分で一杯だった。代わりに呆れた視線で睨みつける。
「……お前さ。阿呆なわけ?これっきりっつったよな?それに、俺が変なこと考えてたらどうするわけ?」
「でも!」
「くどいな、大体なんでお前はそんなにしつこく食い下がってくるわけ?」
「そ、それは………」
「俺はこいつの面倒見るので精一杯なわけ。これ以上増えられたら体が持たん。だから諦めろ」
親指でニーナを指して、呆れ交じりの視線を送る。アカネは涙を目にためて、今にも泣きだしそうだった。
「だって!やっと会えたから!だから、だから…………」
「おい、なんで泣くんだよ?」
「レオン君、流石に酷すぎませんか?やり過ぎですよ」
「お前はどっちの味方なんだ!ああ、もうめんどくせえ!」
ニーナがアカネを擁護し始めたから、流石に叫ぶ。運がいいと思ったらこれか!面倒事が舞い込んでくるわけか!?最悪だよ、本当に!
「何があったのか話を聞くぐらいはしてあげましょうよ。それくらいなら構いませんよね?」
「……まあ、そのくらいならな」
「あり、がとう」
そう言って、アカネは今までのことを話し出したのだった。
※ ※ ※
で、十数分後。
「酷いです!いくらなんでも酷すぎます!アカネさんが何したんですか!」
「ありがとう。ニーナさんがそう言ってくれると嬉しいよ」
……意気投合してやがる。最初のあのぎすぎすした雰囲気はどこに行ったんだ?怒った様子のニーナと、感激に目を潤ませているアカネを見て、一人ため息をつく。更にこの後の展開は読めてんぞ。恐らくだが………
「レオン君、アカネさんも連れていってあげましょうよ」
「だめだ」
即答する。躊躇すれば、恐らくそれを見抜いてくるからだ。
「どうしてですか!」
「何でもかんでも思った通りになると思うな。まずそもそもの話、俺たちはまだガキだぞ?自分の生活すらあやふやなんだ。今はお前と俺の魔法のおかげで何とかなってるが、さらに増えてどうにかなると言いきれんのか?」
「そ、それは……」
ニーナが言葉に詰まる。俺の言っていることは正論だからだ。
「まだ他にもある。物理的な問題だが、バイクに乗れるのは二人が限界だ。となると、バイクは捨てなきゃいけねえわけだが。今までと同じスピードで動けなくなる。当然野宿の回数は増えるし、安全な旅とはいかなくなる」
「でも、急がなくてもいいって言ってたじゃないですか!」
それでもしつこく食い下がってくるニーナに、最終勧告のように突き付けてやった。
「ああ、そうだな。じゃあ、これが一番の理由だ。お前は行く先々で似たような境遇のやつがいたとき連れていくのか?不幸だから。恵まれていないから。そう言って、助け続けるのか?」
「……卑怯ですよ、そんなの」
「けど、これから直面する問題だ。こいつと同じだけの辛いことを抱えてるやつもいるだろう。或いはもっと酷いやつもいるかもしれねえ。その度に助けるのか?その全員を救いきれるのか?答えは無理だ。どこかで必ず限界が来る。だから諦めろっつってんだ」
決して声は荒立てず、静かに諭す。ニーナがちゃんと理解できるようにだ。前世で味わった数々の挫折の記憶。こいつにもここで味わせることになってしまった。だが、ここでニーナに諦めを覚えさせなければ、こいつは俺と同じく強い無力感に苛まれることになるだろう。そして、同時に強い後悔にも。
「だって……こんなのあんまりじゃないですか………」
「そうだろうな。それでも自分でどうにかするしかねえよ。俺らがどうこうしようとしても根本的な解決にはならんしな」
「本当に、どうしようもないんですか?」
「……ニーナさん、もういいんだ。ありがとう」
「でも、何もできなくて……悔しくて………」
今にも泣きそうな顔をアカネに向けた。だが、さっきまでの様子と違って、アカネは微笑んでいた。全部吐き出して、すっきりしたからなのかもしれない。
「その気持ちだけでも十分に救われるよ。今まで私は、母からしかその気持ちを向けられなかったから……」
「暗い話はここまでだ。朝は早いだろうし、役に立つ情報も得れた。飯にするぞ」
「役に立つ情報?私、そんなこと話したかな?」
「ん?ああ、そうか。ばれねえようにまだ被りっぱだったんだな。これでわかるか?」
そういえば被ったままだったフードを取り、俺の風貌があらわになる。
「く、黒髪!?あなたもだったの!?」
「俺の場合は目も黒いけどな。後、使う魔法は無属性だし」
「そ、そうだったんだ……」
申し訳なさそうな顔つきになる。が、俺としては今更感があるので無視した。
「ま、俺は村を追い出された感じだな。こいつは俺を追っかけて、付いてきたわけだし」
「ご、ごめんなさい。私ばっかり不幸みたいな話しちゃって………」
「別に構わねえけど。同情してほしいわけじゃねえし。お前もそうだろ?」
「うん、そうだね」
「とにかく、食ったらとっとと寝ろ。明日は早いわけだしな」
そう言って、話してる間に焼いておいた肉やらなんやらを渡すのだった。この分じゃ俺のはないかもな。
そして、案の定無くなった。俺?前世での携帯食料だったよ。




