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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第2章 大都市騒動編
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修羅場

で、こっちに戻ってきました。好き勝手出来る分、こっちのが書くの楽なんですよね

 皆さんは修羅場、という言葉を知っているだろうか?そう、男女関係のもつれでなるあれである。元々はインド神話などで阿修羅(顔面三つで手六本のあれ)と帝釈天(インドラと同一の神なんだとか。いわゆる雷神で戦神だそうな。北欧神話の雷神トールに似てるかな、と言えばわかる人もいるかも)の争いが行われたとされる場所のことをさすようだ。某最終回が放送禁止となったあのアニメを思い出すため、俺はあんまり好きになれない言葉だ。というより、好きな奴いるのだろうか?さて、何故俺がこんなことを思っているかというと………


 「レオン君、この人誰ですか!どうして裸なんですか!どうしてくっついているんですか!」

 「あ、あの……この子誰?」

 

 俺がまさに今その事態に直面しているからである。二人の少女に腕を掴まれ、身動き取れない状況に陥っている。そのうちの一人は言うまでもなくニーナである。


 (どうしてこうなった………?)


 「レオン君!」

 「ね、ねえ……」

 「勘弁してくれ………」


 二人に詰め寄られながら、こうなった原因となることを思い出す……という名の現実逃避を始めるのだった。


※               ※               ※

 「結局こうなったか………」


 どうやら今日中にヘカルトンに着くことは無理なようだ。夕日が地平線に沈んでいくのが確認できる。元々、今日に準備して明日の朝早くに出発しようと考えていたのだ。そりゃ、今日の昼に出発すれば計算上は早くても今日の夜、最悪徹夜で明日の朝が関の山だろう。野宿決定である。


 (こいつのためにやってたのに、当の本人が野宿する原因作ったんじゃあな……我慢してもらうしかねえか)


 「おい、ニーナ。今日は野宿だ。ここら辺で場所探すぞ」

 「え!?まだ明るいですよ?それにレオン君だったら暗くてもどうにかなるんじゃあ………」


 ……こいつは俺をなんだと思ってるんだ?否定できないのが悔しくはあるんだが。小首を傾げて、こちらを見てくるニーナに説明してやる。


 「はあ、まあ確かになんとかできなくはない。一応バイクにはライトもつけてあるから、道を照らすことはできる。最悪、視覚を強化して見ることもできるさ」

 「それなら!」

 「でもな、お前真っ暗なところでいきなりなんか出てきて手離さないって自信あるか?それにただでさえ視界が悪いんだ、そんな中で集団に囲まれたらどうする?それが夜目の利くような魔物だったら最悪だぞ?プラスお前を庇いながら戦闘。考えただけでもぞっとするわ」

 「うっ……すみませんでした………」


 自分でも無茶を言っている自覚はあったのか、素直に頭を下げる。


 「それにな、こっちがより大きな理由だが、まずいつ着くのかがそもそもわからん。朝かもしれんし、トラブったら昼かもしれん。徹夜でこれ運転して事故ったら洒落にならん。加えて、へカルトンはでかい街だ。門だってあんだろう」

 「ええっと……それがどうしたんでしょうか?」

 「門には普通門番がいるだろ?人が来ねえような夜に門番がいると思うか?」

 「あ、それもそうですね」


 こっちの理由の方が納得できたらしい。驚いたような顔から納得したような顔に変化した。うん、表情がコロコロ変わるな、こいつ。


 「そういうこった。どの道、無理に行こうとしても百害あって一利なしだ。それなら比較的安全な場所を探して明日に備えた方がいい」

 「わかりました!それなら野宿でいいです」

 「わかったならいいさ」


 まあ、これから旅を続けていくならいずれは直面するであろう問題なのだし、今のうちに体験するのも悪くはないか。とりあえず場所を探すとしよう。でも、ニーナと離れるわけにもいかんし(前にそれで大きな失敗をやらかしているからだ)、見つかるのはいつになることやら。


 


 とは思ったものの、だ。


 「あっさり見つかったなあ……もうちょい掛かるかと思ったんだが」

 「普通はこんなにすぐ見つからないものなんですか?」

 「そりゃな。そもそも探してるやつが二人しかいねえ上に、纏まって探してんなら更に遅くなる。もはや奇跡レベルだ」


 見つけたのはちょうどいい感じの岩でできた穴場だった。人が4,5人くらいなら余裕で止まれるスペース。だが奥には繋がっておらず、壁があるのみ。後ろを警戒しなくていいのは大きなアドバンテージだ。それに殴ってみてびくともしないし、崩落の心配もなさそうだ。まさに野宿のために使ってくれと言ってるようなものである。

 しかしまあ、こんだけ運がいいと不安になってくるな。そんなに心配しなくてもいいんだろうが……今の今までの運が運だけになあ………


 (しゃあねえ、やれるだけのことはやっておくか)


 「ニーナ。これを渡しておく。何かあったら目を閉じてから、このピン引き抜いてどっかに投げろ。いいな?」

 「は、はい……でも何ですか、これ?」

 「ん、まあ、秘密兵器みたいなもんだ。また創れるからいざとなったら躊躇なく使え」

 「わ、わかりました」


 まあ、本当は使わずに済む方がいいんだがな。でも一応念のためだ。そう思い、ニーナには閃光弾を手渡しておく。目つぶしに使えるし、使ったら俺が気付ける。なるべく遠くに行かなければすぐに戻って来られるだろう。


 「ところでなんですが……どうして私にこれを?」

 「俺は少しそこらを歩き回ってくる。何かいたらやべえしな。後は軽くだが、食えそうなものの確保と罠を仕掛けてくるわ」

 「そうですか。私を置いていくわけじゃないんですね?」


 半眼を向けて、ニーナを見る。


 「……んなことするなら、はなからこんなもん渡さねえよ。それ以前にあのときお前だけ残してくりゃよかっただろ、あの村に」

 「それもそうですね。すみません、変なことを考えちゃって」

 「別にいいけどよ。疑わな過ぎんのはお前の悪いところだしな。まあ、ともかく行ってくるわ」

 「はい、いってらっしゃいです」


 ……どこの夫婦だよ?お前もあいつらに毒されてきたんじゃねえだろうな?一瞬だが孤児院でのことを思い出してしまった。言わなかったけどさ。


※               ※               ※

 「これでよし、と」


 一応、やれるだけのことはした。なるべく音が派手になるような罠のみを選んで配置したんだから、殺すことはできないまでも、相手が俺たちの元に辿り着くより早く逃げられるだろう。


 (さっさと戻るか。あいつに何かあっても困るしな)


 元の場所へと戻り始めた。勿論、やや早めの歩く速度でだ。危険に対して備えていたのに、その危険がそれよりも前に起こってました、じゃ洒落にならん。幸い、やることはもう全て終わらせた。後はもう戻るだけだ。


 (にしても、ほんと過保護だよなあ、俺。こんなんで将来大丈夫か、あいつ)


 それとも、世の中の妹を持つ兄貴ってのは皆こんな感じなんだろうか?少なくとも、弟を持つ兄貴は違うみたいだが。つか、違うわな。前々世は弟いたけど、そんなこと考えちゃおらんかったし。


 「あん?」


 考え事をしていたから変な声が出た。とはいえ、まさかこんなテンプレみたいな状況に遭遇するたあな。

 そう、オーク共が女に群がり犯そうとしてるところだ。あの頃はそんな同人誌はたくさんあったし、俺も男なわけだから読んでたわけだが……実際目の前で見ると複雑だわな。顔は豚に似ている、とは言ってもまだ豚の方が愛嬌あるし。ミニブタならペットで飼うようなやつもいるそうだしな。それに、デブだし。よくもまあ、こんな生物創れたもんだと呆れかえった。

 んで、どうするかなんだが。


 (無視るっきゃねえか………)


 極力そちらを見ないように歩く。俺は正義のヒーローでも聖人君子でもない。命を助ける、もしくはそれと似たようなことをするっていうのはそいつの人生に責任を持つってことだ。前世でそれを痛いほどに思い知っている。中途半端に助ける方が迷惑だ。今の俺にはニーナ一人で精一杯だしな。だからこれで悪くないはずなんだ。はずなんだが……


 (やっぱ心が痛えな………)


 中途半端に優しいらしいからな、俺は。考え事をしていると、そのときそいつと目が合った。


 「た、助けて……」


 その声を聞いたとき、反射的に行動し始めてしまっていた。取った行動は今思い出しても、一言こうとしか言えない。


 ――――――――――――阿呆だったな、と。

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