開花
ニーナが手伝いに行ったのを見送り終えた後、俺はいつも通り中庭へと向かった。俺の名誉を保つために言っておくと、別に俺は仕事をさぼっているわけじゃない。やることがないのだ。ニーナが例外なだけ。他の同年代のやつらが小さい子供の面倒見てるから、俺は午後から主に暇。だからこうして鍛錬と魔法の練習に打ち込めてる。俺が免除されてる理由は授業の補佐してるからである。
中庭の所定の位置に着き、自分の体を魔力で強化する。これを見て最初ニーナは俺が魔法が使えるようになったと喜んでいたが、正確にはこれは魔法ではない。魔法とは魔力を使い、きちんとイメージさえすれば勝手に発動するものだ。魔力強化は魔力を体中に流すことで発動させることができる。要は魔力を流して、イメージをしたからといって発動するものではないのだ。更に、この魔力強化は練習さえすれば誰でもできる。だから、俺個人の魔法ではないだろうという結論になる。他のやつがこれをどれだけ使いこなせるかはわからないが。俺は使い勝手がいいように必要な部分に必要な分しか強化しないため、魔力の減りは少ない。よって、今では魔力強化を使用しても6時間くらい余裕で持つ。さて、考え事をしている場合ではないだろう。そう思い、俺は中庭を走り始めた。
※ ※ ※
そうして鍛錬を続けていると、不意に悲鳴が聞こえた。聴力を強化していたから、結構なボリュームで聞こえたが、何があったのだろう?俺には関係ないとは思うが、気にはなったので現場に向かう。
すると、そこには足を骨折している子供がいた。まあ、ざっと観察しただけなので、それぐらいしかわからないが。
「いてぇ、いてえよぉ!」
そりゃ、足折れてるからな。痛くないのは痛覚神経に異常をきたしてるやつぐらいだろう。ぼけーっとそんなことを考える。
「どうしよう、どうしよう?」
「お、俺に聞くなよ!俺だって知りたいよ!」
先生呼びに行きゃあいいだろうが。慌てふためいてる子供たちを横目に、一人冷静にそう思った。こいつら、随分とパニック状態になっているようだ。俺には関係ないから見捨ててもいいんだが……
(先生は悲しむだろうしな………)
仕方がない。そう思い、怪我をしているやつに近づく。
「お、おいレオン!どうすんだよ!」
おお!どうやら俺は名前を知られているらしい。まあ、いつもニーナと二人で飯食ってるし、授業で先生の補佐もしているから当然か。声を掛けてきたやつにはこう返しておく。
「少し黙ってろ。気が散る」
「な……」
「おい、俺の声は聞こえてるか?」
抗議の声が聞こえたような気もするが、今は無視する。そうやって、頬をペチペチと叩く。
「聞こえてるよぉ、でも痛いんだよぉ!」
「知ってるよ。もう少し我慢しろ」
そう言い、周りの子供に頼み事をする。
「誰でもいいから先生を呼んできてくれ。ニーナでもいい」
「わ、わかった!早く行くぞ!」
一人でいいんだが……まあいい。応急処置くらいはしておくか。呆れながら、足が折れたそいつの足を引っ掴んでおく。
「舌を噛まないように気を付けろよ」
「え?な、何をするんだ」
よと言う前に、俺はそいつの折れた足を思いっ切り引っ張る。早くしないと骨が変な形でくっつくしな。
「うぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
引っ張り終えて、足の骨が真っすぐになっているか確認する。どうやら元の状態に戻っているようだ。
(次は………)
もう一度思いっ切り引っ張る。一応、念のためにだ。目でわからないだけで、実際はまだずれているかもしれない。
「あぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」
(あとは添え木で固定して、包帯を巻きつけておけばいいか)
が、ここで気付いた。ここには松葉杖がないのだ。世界のどこかにはあるのかもしれないが、少なくともこの孤児院にはない。どうするか?
(誤算だった……代わりになるものないか?都合よく見つかるわけないが………松葉の代わりになるもの、松葉、松葉…………)
そう考えていると、次の瞬間驚くべきことが起こった。なぜなら、俺の手の中に存在するそれは……