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元死神は異世界を旅行中  作者: 佐藤優馬
第4章 学園入学編
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補習後に

ブックマーク登録が100を超えてました。登録してくださった方、本当にありがとうございます。そこそこ人気があると思っていいんだろうか………?

 ぐでー、とした足取りで帰路を進む。やっぱり、めんどくさいものはめんどくさい。明日は絶対に、昼まで寝るんだ……そんなことを考えながら、一歩一歩を怠そうに進めた。


 「もう、レオン君?ちゃんと歩いてくださいよ。ここで寝たら風邪を引いちゃいますよ?」

 「寝袋創れば大丈夫だ……というか、一刻も早く飯食って寝たい………」

 「またそんなこと言って………」


 隣でニーナが文句を言ってくる。仕方ねえだろ、眠いもんは眠いんだよ。俺はその気になれば、丸一日寝ることができる男だぞ?

 あの補習のとき、実はニーナとエレナもやってきたのだ。アカネも来ていたが、こっちは寝ていた。流石に駄目なら泣きついてくると思い、ニーナとエレナだけに補習をしてやった。……エレナに教えるようなことはほとんどなかったが。時折聞いてきたとしても、かなり難易度の高い専門性のある質問ばかりだったのだ。呆れるしかない。終わってからは、一応二人を寮まで送っているというわけである。


 「でも、師匠は本当にすごいと思う。聞かれた質問に全部答えてくれた」

 「あれは化学と物理学で応用できる範囲にあったからな。俺はあまり得意じゃなかったが」

 「カガク?ブツリガク?」

 「忘れろ。大したもんじゃないさ」


 いや、実際は大したものなのだが。少なくとも、教科書に載っている偉人たちは尊敬されて当然だと思う。こっちに来てからは強くそう思った。だが、それがばれても困る。ここでお終いとしておいた方が賢明なのだ。エレナもそれがわかったのか、深くは追及してこなかった。


 「……時間があるときにそれを教えて」

 「面白くもなんともねえぞ?」

 「構わない」

 「……ならいいが」


 そんなことを話しながら歩き続けていると、エレナの部屋の前まで来た。二人とも名残惜しい様子ではあったが、俺としてはそんな顔をする意味がわからない。だって、今生の別れでもあるまいし。ふと、あの子のことを思い出した。それを頭の端へと追いやり、また歩き出した。


 「あ、レオン君!」

 「あん?」

 「また明日、です」

 「……ああ。朝には迎えに来てやるよ」


 ニーナの寂しげな笑顔があの子と重なり、ついそう口にしていた。口にしてから、しまったとは思った。けれど、嬉しそうなものへと変わったのを見て、まあ後から二度寝すればいいかと思い直した。


 「それじゃ、師匠。おやすみなさい」

 「おやすみなさいです」

 「ああ、おやすみ」


 手を振って、そのまま別れた。それと同時に、ふと気になったので声を掛ける。


 「それで?何の用ですか?」

 「……気付いていたのか?」


 前方の通路の角から昨日の貴族が現れる。勿論、お供も連れてだ。俺はため息をついて、そいつらを見る。


 「暇だな、お前らも。貴族ってのはそんなもんなのか?」

 「黙れ!調子に乗りよって……どうやって公爵に近づいたのだ!」

 「どうやって、って……偶然だ。目を付けられたから、まあとりあえずは仲良くやってるつもりだ」

 「ふざけるな!そんな嘘をつきよって……もう一度教育をする必要がありそうだな?」


 凄んでいる(つもりらしい)貴族を前に、再びため息をつく。俺の様子に、貴族たちは激昂しているようだ。口々に醜い言葉を喚きたてていた。


 「……一応、教えておいてやるが。お前らには足りないものがあるな」

 「なんだと!?」

 「まず一つ。想像力が足りない。今この瞬間にも、後ろの扉が開かないと何故言える?あの公爵が出てきたら、子爵程度の肩書きしか持たないお前たちにどう対抗できるって言うんだ?」


 子爵はそこで動きを止めた。今更ながらにやばさがわかったらしい。開いていた口を慌てて閉じる。無論、お供たちもだ。


 「二つ。洞察力が足りない。少しでも気付けば、危険な事に気付いただろうに」

 「……どういうことだ?」

 「そもそも、最初に敬語だった理由は何だ?お前らにずっとこの口調だった、ってのに」


 そこで貴族たちは違和感に気付いたらしい。お互いに顔を見合わせ、不思議そうにしている。俺はそろそろかと思い、後ろに向けて声を掛けた。


 「そろそろ出てきてもいいですよ。気付いてましたし」

 「……驚いた。これでも、気配は消してたつもりなんだけど」


 後ろから現れたのは、昨日助けてくれたあの先輩だった。先輩の登場に、貴族たちは青ざめている。俺が何か声を掛ける前には、逃げ出してしまっていた。


 「大丈夫?」

 「ええ、まあ。何もされなかったので」

 「……別に、無理に敬語を使わなくてもいいよ?」

 「そっか。じゃあ遠慮なく」


 すぐに敬語から普通の口調へと戻る。変わり身の早さに、先輩も驚いたようだった。だが、すぐに気を取り直す。


 「不思議だね。私のこと、知らないのかな。それならそれで………」

 「ヒルデ。戦闘科2年にして、学園最高峰の戦闘力を持つ生徒。だが、あまりの戦闘力と協調性の無さ、加えて不愛想さと常に怒ったような顔であるため、周囲から避けられている。付けられたあだ名が『氷帝』。無法者(アウトロー)のように振る舞っているため、貴族からも恐れられる。違うか?」


 俺の口からすらすらと流れ出た情報に、またも目を丸くしている。今度はすぐに復帰することはできなかったようだ。俺を呆然と見ている。


 「どう……して………?」

 「怖がらない理由か?別に顔だけなら、魔族のがよっぽど恐ろしいし。もっとやばいやつとも過去に会ってるからな。今更怖いとも思わんよ。それに、調査してて思ったんだが、どうもあんたは周りが言っているほど悪いやつには見えなかった。さっきので確信に変わったわけだよ」


 悪いやつなら、さっきは見捨てていたはずだ。もしくは、何かを要求してくるか。そのどちらもしてこないため、その判断に至ったわけだ。勿論、油断させるという可能性もあるだろうが、それは低いだろう。ヒルデからは先程の貴族のように嫌な気配がしない。こういう勘はよく当たるのだ。信じてもいいだろう。戸惑っている先輩を見ながら、歩き始めた。むこうもそれに気付き、躊躇はしたものの俺を追ってきた。


 「あの……君は、その一体………?」

 「ちょっと不思議な子供とでも思えばいいさ。先輩の話し相手くらいにはなれるだろうしな」


 おどけて肩をすくめてみせた。その様子に、先輩はくすくすと笑う。その自然な笑みは、昨日のぎこちないものよりもずっと綺麗なものだった。


 「うん。これからもよろしく、レオン」

 「あれ?俺、名前言ったっけか?」

 「入学式のとき、あれだけやって知らない方がおかしい。既に、全校生徒中で有名だよ」

 「それもそうか」


 先輩のその言葉に納得し、苦笑するのだった。


※               ※               ※

 あの後、先輩を自室まで送り、自分の部屋へと戻ってきた。先輩は少し遠慮していたが、俺としても男のメンツがある。ちゃんと送ってきたのだ。


 (……この分だと、何もねえだろうな………)


 ローレルには悪いが、恐らく今日は食べ損ねるだろう。そもそも、食堂が開いてるかどうか。携帯食料でも食うか、とぼんやり思いながら、違和感を覚える。扉を開けてから、空腹感が強くなったのだ。まるで何かに誘われるかのように。何が違うのか考えていると、俺よりも先にシルフィが気付いたようだ。


 『おいしそーな匂いだよねー、なんだろこれ?』

 『ああ、それか』


 そうだ。何やら美味そうな匂いがしているのだ。孤児院を離れてから、まともな料理には公爵や店を除けばほとんど食っていない。それで忘れていたのだろう。

 リビングまで歩いていくと、エプロンを付けたローレルが俺に気付く。


 「あ、ちょっと待っててくださいね。今温め直しますから」

 「……ああ」


 荷物を置き、再びリビングに戻る。少し待つと、でかい鍋を持ったローレルがリビングに戻ってくる。重そうではあったので、鍋を代わりに持ってやった。結構熱い。火傷するようなヘマはしないし、落としもしなかったが。俺に礼を言うと、サラダとパンを持ってきた。鍋のふたを開けると、その中には湯気を立てているシチューが入っていた。こっちでは名前がシチューかどうかは知らないが。


 「……これ、お前が作ったのか?」

 「そうですよ?料理は得意な方なんです」


 胸を張っているが、得意ってレベルじゃねえぞ、これ。なんか本格的すぎるし。そもそも、こっちではルーなんて便利なものはないのだ。一から作るとなると、本当にすごいレベルである。呆れたような目で見る。そして、そこでもう一つのことに気付く。


 「スプーンとかどうすんだ?」

 「え?寮にはなかったでしょうか?」

 「ねえぞ。食堂にはあるだろうが、今は閉まってるだろうし。そもそも、自分で買ってくることが必須だろうからな」


 ローレルはしまったという顔をして、席を立ち上がる。


 「ちょっと買ってきますね?また温め直すので、お鍋は台所の方に………」

 「今は店閉まってんだろ。それに、よしんば開いてたところで、この時間じゃ外には出れねえだろうし」


 その言葉を前に、ローレルは本当に困ったような顔をした。折角作ったのに、という思いもあるのかもしれない。俺はため息をつき、皿にシチューを取った。ローレルはどれくらい食べるのかわからないので、適当におたまを渡しておいた。


 「あの……すみません、折角作ったのに。私が抜けてるから………」

 「別に構わねえよ。このくらい大したことじゃねえし」


 ひょいとスプーンとフォークを取り出した。二人分。片方をローレルに渡し、さっさと席に着くように指で指し示す。


 「え?どうして持ってるんですか?」

 「たまたま。旅先で使うことあるし」


 勿論嘘である。正解は生成魔法で作ったのだ。うん、今日も順調に便利な魔法である。

 ローレルもホッとしたように座り、ようやくシチューを取り始めた。取り終えるたのを確認し、作った当人が目の前にいるので、口を開いた。


 「いただきます、と」

 「?何ですか、それ?」

 「まあ、食材とか作った人たちに感謝を表すんだよ。こっちじゃあんまり浸透してないみたいだが」


 正確にはこっちの『世界』では、だが。俺の言葉に苦笑しながら、食事を始める。食べ始めて気付いたんだが、こいつ……


 『うまー!もっと食べよーっと!』

 『ああ、うん、そうか……まあ、ほどほどにな………』


 馬鹿が騒いでいるが、本当に美味い。周りにはこのレベルまで料理が上手なやつはいないため、少し感心してしまった。


 「……気が変わった。お前の勉強くらいなら後で見てやるよ」

 「え、いいんですか?」

 「ああ」

 「ふふ、それならお願いしてもいいでしょうか?」


 食事の時間はゆっくりと過ぎていった。

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