召喚魔法
「……どうしてこうなった?」
今、俺は何故か召喚陣の前に立っている。召喚陣というものをわざわざ説明する必要もないだろう。何かを召喚するための魔法陣のことである。かと言って、俺が召喚されたわけではない。俺が召喚する側なのだ。ニーナとエレナを振り返ると、頑張れとエールを送ってた。うん、お前らのせいだよな?
思い出せば、今朝のことだ。いつものように、ニーナを迎えにエレナの部屋まで行った。そして、魔法研究科の教室まで送ったのまではよかったのだ。けれど、今日に限って使い魔を召喚する、という実習があった。危険なものも召喚される可能性がある、ということで、半ば引き摺られるようにグラウンドまでやってきたのだ。まあ、これもいい。ニーナの安全が一番だ。万が一がないとも限らんし。
で、グラウンドについてからは教師からの説明タイム。戦闘科の教師もいたため、いざというときのことも考えているのだろう。ただ、こいつがまあスケベなやつだった。女子にさりげなくタッチしてみたり。スカートをめくろうとしていたり。子供か。魔法研究科は女が多いため、敵意が向きまくっている。これもまだいい。ニーナには手を出させなかったし。エレナもついでに守っておいた。
問題なのはこの後だ。召喚は順調に進み、自身の使い魔を召喚していったのだ。そして、順調すぎたため、時間が余った。そこでエレナが言い出したのだ。師匠も召喚してみれば、と。
当然の如く、ニーナも同意し始めた。挙句の果てには、あの王子すらも同意してきて……今に至る。おい、教師。止めろよ。そういった視線を向けたが、ふるふると首を横に振られた。助けてくれないらしい。薄情なやつらだ。俺が言えた義理でもないが。
『んー、実際どうすんの?召喚獣とか困るだけじゃない?』
『ほんとだよな……食費に、世話に、下手したらなんにも使えねえ可能性だってあんだろ?最悪じゃねえか』
ニーナの使い魔は何かわからない鳥。全体的に赤く、目の色のみが青かった。触ると結構温かいらしいし。新種と騒いでいたので、めんどくさいことになるのだろう。
次に、エレナが狼を召喚した。こいつはシルバーウルフというそうで、銀色の美しい毛色に賢そうな顔つきをしていた。こちらは水属性魔法のうち、氷魔法をよく使う魔物である。また、知能が高く、肉弾戦もかなり得意としている。魔法使いの典型例であるエレナにはいい使い魔だろう。
王子の使い魔は人型の魔物だった。これは珍しいらしく、皆口々に王子を褒めていた。王子とお揃いの金髪で、尚且つ緑色の目……いや、王子と全く同じ顔つきと体つきをしていた。こいつはドッペルゲンガーであり、最初に見た王子の姿を真似ているのだ。勿論、素の能力も高いが、それ以上に応用性に富んだ魔物だ。
ついでにだが、リースの使い魔はヘビだった。まんまアオダイショウのようなヘビだが、こいつにも魔力があることから魔物と判断できた。名前はウインドスネーク。風の魔法を使い、そこそこ利口なようだ。こいつにはいい使い魔なのではないだろうか?
『でも、やるしかないんだよねー………』
『まあな……そーいや、お前はやけにテンション低くないか?』
こういうイベントではもっと楽しみそうなものなのに。ここまで不機嫌そうなのも珍しい。そう思いながら聞くと、唇を尖らせながら答えてきた。
『だってさー、使い魔って目に見える形の相棒なわけじゃん?そしたら、あたし相棒じゃなくなるじゃん!』
『……お前が平常運転で安心したよ』
はあ、とため息をついて、魔法陣の前に手を翳す。詠唱を唱えながら、せめて使えるやつが来ますようにと願った。あの願いは叶えられた。
――――ただし、最悪の形で。
「な、なんだ!?」
「こ、こんなことが!?」
「おいおいおい、冗談じゃねえぞ!」
魔法陣がどんどん巨大化していく。眩しさはかなりのものとなり、大半のやつは目を開けていられなくなった。そんな中、俺が見たのは魔法陣が4つに分裂するという現象だった。これは、一体………?
魔法陣の光が収まったとき、目の前に映ったのはシルフィの姿だった。……これ、どう反応すべきなんだ?
『おい、どうするよ、これ?』
『どうしよっか?失敗ってことにしとく?』
『それが無難だろうな。よし、そんじゃ………』
振り返って、どう話すかなと考えを巡らせていると、周りのやつが戸惑っているのがわかる。失敗したのがわかったのだろう。それなら、話は早いかと思い、口を開こうとすると……
「……え?どうしてその精霊がそこに?」
王子がポツリと呟いた。視線の先を追うと、そこにはシルフィがいた。他のやつらの視線の先も見ると、一人残らずシルフィを見ている。それを見てわかった。こいつらが驚いているのは、シルフィがいるからだ、と。
『シルフィ、自分の力で見えるようにしたか!?』
『そんな!そんなわけないよ!』
『そうか……今から俺に合わせろ、やれるな!?』
『……!わかった!』
俺はシルフィの顔を指でつまみ、アイアンクローを掛けているようにした。勿論、威力は加減している。
「おい、シルフィ。お前、ニーナの契約精霊だよな?なんで俺んところに現れてんだ?」
「い、いやー?ほら、魔力補充役としてじゃない?ニーナよりもあんたのが魔力持ってるしさー?」
「へえ……お前は魔力持ってれば誰とでも契約すんのか……大した精霊だな?」
「いだだだだ!痛い痛い!すみません、調子乗ってました!精霊だからって調子乗ってました!」
大袈裟なくらいに痛がるシルフィ。よし、それでいい。要は二重契約していると思わせることが大事なのだから。
ふと、何かの気配がした。そちらを見ると、何故かスレイプニルがいた。あの、精神の上位精霊だ。
「精霊王として覚醒したかと思えば……お前とその契約者のせい………」
ここで気付く。もしかして、こいつも他のやつらに見えてるのではないかと。ちらりと視線を後ろに送る。バッチリと見えてることを確認。その瞬間、念話で思いっ切り叫んでいた。
『シルフィイイイイィィィ!』
『少し黙ってて!』
シルフィが念話を叩きつけたとき、スレイプニルは話せなくなっていた。それを好機と思い、シルフィと口裏を合わせた。
「おい、シルフィ。精霊王って何のことだ?」
「な、何のことでしょーねー?あたしにはさっぱりー?」
目を明後日の方向へと向けている。誰がどう見ても嘘をついているように見えるだろう。
「少し話をする必要がありそうだな……じっくりとな………」
「あ?え?ちょっ、助けてニーナー!」
シルフィとスレイプニルを引き摺るようにして、移動したのだった。




