朝食の風景
翌日。食堂は限られた時間しか開いていないので、仕方なく起きて身支度をする。ぱっぱと支度を終えた俺はフラフラといった様子で、食堂へと向かった。ローレルのやつはもう食堂で食べ始めていたようだ。ポツンと一人で食っているので、なんか一種異様なものに見える。
食券を買って、引き換えてもらう。実は食堂は金を払わなければ、飯を食うことすらできないのである。このため、自炊するやつも多いのだとか。無料にすりゃもっと楽なんだが……そこら辺は、税率などを見直さなければきついのだろう。諦めることにした。パンとスクランブルエッグ、ベーコンにサラダに飲み物を貰い、ローレルの横に座った。形だけではあるが、手を合わせておき、食事を始める。味?携帯食料と比べりゃ、大体のものは美味く感じる。ある意味、便利食品だ。
なにやら視線を感じたので、隣を見ればローレルが驚いたような顔をしている。そして、そのまま俺に問いかけてきた。
「どうして?」
「ああ?何がだよ?」
「他にも席はありますよ?わざわざここを選ばなくても………」
「他は人が多い。関わるのが面倒だからここに来た。わかったか?」
会話はこれでお終いだとばかりに、言葉を打ち切り食事を再開する。しばらく静寂ではあったが、クスリと笑う声がした。横目で確認すると、ローレルが笑っていた。
「……何がおかしい?」
「い、いえ、すみません。ちょっと誤解してただけですから」
「誤解?」
「はい。あなたは本当に優しい人なんだな、って」
食事をする手が止まる。仕方なくローレルの方を向き、目を合わせた。ローレルはきょとんとしている。
「あのな。どいつもこいつも誤解してるようだが。俺はそんなに大したやつでもなければ、優しくもねえ。ただの怠惰で、自分勝手で……冷酷な人間だ」
俺はそう吐き捨てていた。どうも誰かが褒める度に、違和感がするのだ。自分はこんなことを言われるべき人間なのか、と。決まってそんなときは、誰かの顔が思い出される。それはかつて俺が殺してきたやつであり、助けられなかったやつであり、見捨てたやつであった。それを思い出す度に、俺は思う。俺はそんなにいいやつじゃないと。だから、その思いを口にしていた。こいつらは何も知らないから。そう思って。
ローレルは再度驚いた顔をしていたが、すぐにまた笑顔へと戻る。
「そうですか。あなたは、自分が嫌いなんですね」
心臓の跳ね上がる音が聞こえた。それもはっきりと。その言葉は今の俺の状態を指し示す言葉だったからだ。
「いつかは自分で自分を許せるようにならないと。それじゃあ、あなたが辛いだけですよ?」
「……関係ねえだろ、そんなこと」
視線を逸らして、食事をとる。俺はどうもこの頃、口喧嘩に弱くなっている気がする。口を開けば揚げ足を取られるとも思ったので、黙々と食事をしていた。横からいきなり抱き着かれるまでは。
「レオン様、おはよー!ねえ、ここ座ってもいい?」
「……アカネ。いきなり抱き着くのはよせ」
見ればアカネが満面の笑みで抱き着いてきていた。こいつは常に平常運転だ。はあ、とため息をついて引き離しておいた。アカネは俺の様子に不満そうではあったが、仕方なくといった様子で離れた。
「あれ?レオン様、ニーナちゃんは?一緒じゃないの?」
「あいつはエレナの部屋だろうよ。確か、相部屋だったからな」
貴族の部屋は平民用の部屋よりも広く、部屋に食事が持ち込まれるのだ。なので、こちらに来ることはないだろうと考えたのだ。……一緒に登校しようと来ることはあるかもしれんが。そう説明すると、アカネは納得したような表情になった。
「そうだよね。そうでもないと、二人が離れる理由にはならないし」
「どういうことですか?」
「え?だってニーナちゃんはレオン様にべったりだし、レオン様もレオン様でニーナちゃんにはだだ甘だし。少しは私のことも気に掛けてほしいかなー、なんて?」
「少しは妄想を抑える努力をしろ、このショタコンが」
チラチラと横目で俺を見てきたので、そっけなく吐き捨てておく。そんな様子に、ローレルは驚いたような……以下略。
「それはともかくとして。そっちはどうだった?」
「ん?ああ、貴族のこと?絡まれなかったから大丈夫。絡まれたら、逃げて教師に報告しておくよ」
「それでいい」
軽いやり取りは終わりとして、真面目な話に移る。アカネも様子が変われば、姿勢をちゃんと整えて返事をしてきた。ローレルは、以下略で。食事を終えて、アカネの方を向く。アカネも何かを悟ったのか、俺の方へと体を向けた。
「アカネ。何か異変があれば、できる限りでいい。俺に伝えろ」
「うん。でも、いいの?最後までやってもいいけど」
「今ここじゃ俺の味方は少なすぎる。戦闘ができるやつとなりゃ、お前だけだ。お前を失うデメリットは無理をしてでも情報を得るメリットよりもよほど大きい」
「そっか。わかった。無理はしないようにするよ」
アカネは微笑んで、頷いた。が、こいつの場合こうは言っても、無茶をすることはあり得るからな……一応、保険はかけておくか。
「そうしとけ。役に立つ情報があれば、何か考えておくしな」
「うん、無理をしなければいいんだよね。何か考えておくから……って、ええっ!?」
「なんだ?要らないのか?」
胡乱気な目でアカネを見る。俺の追及に、慌てて首を横に振った。
「いや、いる!いるよ!?でもさ、レオン様だから………」
「どういう理屈だ」
「だって、レオン様意外とケチなところあるじゃん?少なくとも、今まではこんなこと言ってくれなかったよね?」
アカネの言葉に考えるまでもなく首肯した。けれど、それには理由がある。食事を続けるように促して、理由を話す。
「それは簡単な理由だ。今まではそこまで大きな危険はなかった。だが、ここは問題がそこら中にあるような場所だ。貴族の思惑ってのは、お前が思ってるよりもずっと厄介だ。場合に依っちゃ、消されるぞ」
アカネの喉がゴクリと鳴る。今更ながらにやばいことがわかったらしい。そっと横目で確認すると、考えを打ち消した。ああ、やっぱりこいつはこいつだったか………
「えへ、えへへ……ご褒美って何かなあ………?そういうことを期待しちゃってもいいのかなあ………?ああ、でも、そういうことはまだ禁止なんだっけ?でも、デートしてくれるだけでも儲けものだよね………」
駄目だ。にやけ顔が残念過ぎる。しかも、思ってることがだだ漏れだ。見た目が美少女なだけに、本当に残念過ぎる。はあ、とため息をつき、時計を指した。
「おい、戦闘科はあと少しで授業だぞ。早く戻って来い」
「はっ!そうだった!急がなくちゃ!」
あっという間に食事を終えたアカネは、別れの挨拶をすると文字通り風のように駆け抜けていった。風圧で飛ばされたやつも何名かいたし。あいつは元気だなーとのんびり考えながら、俺も授業を受けに教室に向かうのだった。




