馬子にも衣裳
「はあ?俺も出席しろ?」
「そ、そうですよ!私一人じゃ絶対無理です!」
いきなり俺のところに来たかと思えば、急にこれだ。とは言っても、参加自体はする気だったからいいのだが。そう思いながら、ニーナの方へと向く。ちなみに、今はベッドの上で寝転がっている。起きるのだるいし。
「まあ、ついてく自体はいいが」
「でも、それって会場の警備としてでしょ?」
「そりゃな」
流石に、客として出るわけにもいかんだろう。公になっていることで、俺は何もしちゃいないのだから。そのことを伝えると、ニーナは怒り始める。
「元々、レオン君の功績なんだからいいんです!さっき公爵さんにも聞いてきましたけど、大丈夫だって言ってました!」
「変なところで手回しいいな、お前………」
なんと、もう許可を得ていたようだ。何故了承した、公爵よ。やれやれとため息をつき、立ち上がる。
「あれ?どこ行くんですか?」
「散歩。ちょっとぶらぶらしてくる」
そう言って、廊下へと出た。ニーナも納得したのか、追ってきたりはしなかった。散歩するときは一人になりたいときだとわかっているのだろう。俺のことを知ってくれているというのは、そういうところで便利だよなと思いつつ、庭ではなくエレナの部屋へと向かった。
ノックを4回ほどして(一応は礼儀が必要な相手だし)、返事を待つ。返事はすぐに返って来て、中に入るように促された。俺はそういうことなら、と中に入る。そして、飛び込んできたのは……
「……何やってんだ?」
「仕立て。必要なこと」
エレナが使用人たちにドレスを仕立ててもらっていた。使用人たちは目を吊り上げていたが、エレナに気にしないように言われて、作業へと戻った。
「ところで師匠。何の用?」
「……その前に、俺はこの口調でいいのか?どう見ても、身分差考えろと言わんばかりの目なんだが」
使用人たちを見れば、そうだと言わんばかりに頷いている。まあ、相手は公爵の娘だし。当たり前といえば当たり前なのだろうが。
「いい。師匠に敬語を使われると寒気がする」
「そこまでか。いや、お前に頼みがあってな」
「何?」
「一応の保険じゃあるんだが、ダンスの仕方を教えてくれねえか?やったことないから、流石にわからん」
もしかすると、ニーナへの助け舟のために必要になるかもしれない。そう考えての判断だった。だが、公爵には頼み辛いし、他にコネクションを持っている貴族もいない。それなら、エレナに頼むのが妥当だと思ったのだ。エレナは即座に頷き、使用人たちを振り返った。
「あとはもうできそう?」
「は、はい……ですが、そちらの方のことを………?」
「聞く。師匠の頼みだから」
使用人たちは複雑そうな表情だった。エレナの言うことなら止められないが、俺が気に入らないのだろう。そこら辺は仕方ないか。
「師匠、移動する。ダンスホールがあるから」
「ああ、うん、そうか」
いろいろとツッコミどころがあるが、まずは一言。ダンスホールってカタカナ語、あったんだな。
※ ※ ※
「師匠、すごい………」
移動してから、ダンスの四回目。いろんな曲調のものでやったのだが、どれもこれも吸収してしまったのだ。それも目の前に鏡があり、自身の動きを《トレース》できたのが大きい。そもそも二回目の時点で完璧にはできていたのだが、確認の意味を込めて何回か試しているのである。結果はまったく問題なかった。
「ま、こんなもんでいいだろ。エレナ、助かった」
「別に、大丈夫。父様を助けてくれたし」
「そうか。別に気にせんでもいいんだがな」
あの後、本当にあの老人から報酬を受け取ったのだ。きっちり金貨50枚。重かったので、白金貨5枚と交換してきた。それとは別枠に、白金貨10枚もある。王様がニーナに渡したものなのだが、ニーナは自分の成果じゃないと俺にパスしてきたのだ。とりあえず、これは保管しておくことにしておいた。だからこそ、エレナが気にする必要もない。のだが、エレナはやたら恩返しと称して何かと便宜を図ってくる。ここまでされると、逆に俺が気にするんだが。
「戻るか。いつまでもここにいると、あいつらに怒られそうだ」
「わかった」
エレナと部屋の前で別れ、自分の部屋へと戻ってくる。少し疲れたので、またごろごろしているとノックの音が響く。入るように促してやると、誰かが部屋へと入ってくる。いや、誰かというのは正しくないか。そいつは俺の知っているやつなのだから。
「え、っと、そのレオン君。どうでしょうか?」
目の前にいたのは、まぎれもなくニーナだった。なのだが、今俺の前にいるやつと普段のあいつとでまったくイコールで繋がれないのである。要するに。普通に綺麗だった。
「……ああ、似合ってるよ。馬子にも衣裳とはよく言ったものだな」
「どういうことですか?」
「どんなやつでも着飾れば立派に見える、っつー意味だよ」
「なんですか、それ!ひどいです!」
ポカポカと俺を叩いてくるニーナをいなしながら、改めて服装を確認する。どうやら落ち着いた紺色を主体としたドレスで、所々には星のようにキラキラとしたビーズのようなものが鏤められている。髪は後ろで一括りにされ、薄く化粧をしているらしい。ただ、口紅はまだ早いと思われたのか、つけられてはいなかった。普段とはまったく違う姿のこいつに、少し驚いてしまったようだ。
(……ほんとに、綺麗になったもんだ)
女が大人になる速さというのは恐ろしい。そんなことを思いながら、ニーナにほんの少し異性を感じてしまったことは黙っておこうと誓うのだった。




