表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三相の聖刻騎士と呪われし乙女たち ―ショタ聖者が「装備変更不可」の呪具ヒロインを愛して救うまで―  作者: 寝不足魔王


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/25

第20話:(後編)三相の聖刻騎士と、呪われし乙女たち

 聖都の中央、黒い泥を吐き出し続ける大聖堂の天辺で、エルは光り輝く右腕を高く掲げた。

 結晶化の限界を超え、純白の熱を放つその腕は、もはや一つの生命体のように脈動している。


「――【三相・神域浄化トリニティ・オーバーロード】!!」


 エルの叫びと共に、背後の光翼から無数の光の羽が降り注いだ。

 それは単なる攻撃ではない。ルミナの鋭さ、ミスティの包容、ベルの記憶、そしてアリアの静寂。四人の乙女たちがエルの魂に刻んだ「愛」という名の魔力が、澱んでいた世界の呪いを一気に書き換えていく。


「あ、あああぁぁぁ……っ!!」

 闇の核となっていた『深淵の呪い』が、エルの放つ圧倒的な体温に耐えかね、黄金の粒子となって霧散していく。

 崩れかけていた聖都の街並みが、聖なる光に洗われ、人々の絶望が安らぎへと上書きされていく。


 だが、その代償はあまりに大きかった。

 呪いをすべて飲み干したエルの右腕が、パキリ、と乾いた音を立てて砕け始めた。

 光の粒子がエルの指先から溢れ出し、彼の体そのものが透き通り始める。


「……あ。……やっぱり、僕は……ここまで、なんですね」

 エルが力なく微笑み、虚空へ倒れ込む。

 実体化していた乙女たちが悲鳴を上げ、彼の手を掴もうとしたが、その指先は虚しくエルの体を通り抜けた。


「だめっ! 嫌よ、エル! 戻ってきなさいよ!」

「……主様。……壁になる。……死神すら、通さない……っ」

 ルミナが泣き叫び、ミスティが必死にエルの胸元を抱きしめようとする。


 その時、止まった時間の中で、セレスがエルの目の前に降り立った。

「……エル。あなたの器は、もう限界。……けれど、彼女たちの『未練』が、今のあなたを過去へ繋ぎ止めている」


 セレスはエルの砕け散りそうな右腕に、自分の手を重ねた。

「……時空の狭間で迷っていた彼女たちの魂を、私が今、この瞬間に固定する。……あなたの命を、彼女たちの『現在いま』として再定義するわ」


 セレスの全身から、星空のような光が溢れ出す。

 彼女は自分の存在そのものを触媒にし、エルの消えゆく魂を、この世界の「ただの少年」として繋ぎ止めた。


「……セレス、さん? 君は……」

「……お別れよ、救済者。……これからは、頁の外で、自分の物語を紡ぎなさい」

 セレスは優しく微笑み、風に溶けるようにして消えていった。


 ――気づけば、エルは朝日が差し込む聖都の広場に横たわっていた。

 右腕を見れば、そこには結晶も聖刻もなく、少し細いけれど、確かな体温を持った人間の肌があった。


「……あ。……戻った。……僕、生きてる」

「エル君!!」


 聞き慣れた、けれど誰よりも愛おしい声。

 振り返れば、そこにはルミナ、ミスティ、ベル、アリア、そしてエレナ。さらには心配して追いかけてきたノエルまでもが、涙を浮かべて駆け寄ってくるところだった。


 ――数ヶ月後。

 辺境の宿場町にある宿屋『陽だまり亭』。


「はいよ! 特製シチュー、五人前追加!」

 リィンの元気な声が店内に響く。

 窓際の特等席には、相変わらず賑やかな一団が陣取っていた。


「ちょっと、ルミナ! エルの隣は私の場所だってば!」

「ふんっ、リィンこそ看板娘の仕事をしなさいよ! 私はエルの『専用剣』なんだから!」

 リィンとルミナが火花を散らす中、ミスティは無言でエルの右腕を抱き枕にしている。

「……主様。……ここ、一番落ち着く。……シャットダウン……」


「お兄ちゃん、ベルにお野菜食べさせてですぅー!」

「マスター……♡ 今日も貴方の食べ残しを頂けるなんて、私はなんて幸せな聖女なのでしょう……っ♡」

 ベルがエルの膝に乗り、アリアが怪しい吐息を漏らしながらエルの皿を凝視している。


「……もう。本当に、毎日毎日賑やかねぇ」

 エレナが困ったように笑いながら、エルのカップにハーブティーを注ぐ。

「ノエルちゃんも、わざわざ聖都から手伝いに来なくてもいいのに」

「いいんだよ! あたしはエルの『専属協力者』なんだからさ!」


 六人の美女(と一人の妖精)に囲まれ、もみくちゃにされるエル。

 彼は顔を赤くしながらも、目の前にある温かなシチューを一口運び、心から幸せそうに微笑んだ。


「……リィンさん。やっぱり、この味が世界で一番美味しいです」


 エルの右腕に、かつての呪いの面影はない。

 ただ、仲間たちと繋いだ手の温もりだけが、そこには確かに残っていた。


 ――三相の聖刻騎士と、呪われし乙女たち。

 彼らの冒険は、これからもこの陽だまりの中で、永遠に続いていく。


(完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ