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三相の聖刻騎士と呪われし乙女たち ―ショタ聖者が「装備変更不可」の呪具ヒロインを愛して救うまで―  作者: 寝不足魔王


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第16話:聖都への招聘と不穏な影

 迷いの森を抜けた街道に、金属の擦れる冷たい音が響き渡る。

 エルの行く手を阻むのは、白銀の装甲を纏った聖教会の騎士団。その中心で、一人の女性が馬を降り、エルを射抜くような視線で見据えていた。


「改めて自己紹介をしましょう。私は第四審問局長、テレーザ。……エル、あなたの力はもはや一介の旅人が持っていい範疇を超えています。教皇猊下がお呼びです。聖都へ同行しなさい」

 テレーザの声には、慈悲など微塵もなかった。あるのは、規律と教義という名の絶対的な強制力だ。


「……断ったら、どうなりますか?」

 エルが静かに問い返すと、テレーザは嘲笑を浮かべ、腰の巨大な十字架型メイスに手をかけた。

「異端として処刑されるか、その『汚らわしい呪具』をこの場で破壊されるか。どちらかを選びなさい」


「……汚らわしい? ルミナさんたちを、そんな風に言わないでください!」

 エルの瞳に、これまでにない激しい怒りが宿る。右手の『聖刻』が、主の感情に呼応するようにドクドクと脈動を始めた。


「ちょっと、そこの吊り目女! 誰が汚らわしいって!? 私をただの鉄屑だと思ってんなら、今すぐその首を撥ねてあげましょうか!」

 ルミナが実体化し、大剣を抜き放とうとする。ミスティも無言で一歩前に出、ベルはエルの後ろで怯えながらも魔導書を構えた。


「よしない、ルミナ。……テレーザ局長。エル様を無理やり連れて行くというのなら、私も黙ってはいないわよ」

 エレナが弓を引き絞り、光の矢を番える。一触即発の空気が街道に張り詰めた。


 だが、テレーザは動じなかった。彼女はエルのどす黒く変色した右腕を見つめ、残酷な笑みを深める。

「……そんな体で、いつまで彼女たちを守れるかしら? その聖刻の侵食……聖都にある『禁書庫』の知識があれば、止める術が見つかるかもしれないわよ?」


「……っ」

 エルの呼吸が止まる。

 自分の命が惜しいわけではない。だが、自分が倒れれば、行き場を失ったルミナたちは再び呪いの中へ堕ちてしまう。その弱みを突かれ、エルは唇を噛み締めて首を振った。

「……分かりました。行きます。ただし、彼女たちを『物』として扱うことは、絶対に許しません」


 白亜の城壁に囲まれた聖都。

 一見、神々しいまでに美しい都だが、馬車で移動するエルの目に映ったのは、着飾った貴族の影で泥に塗れて物乞いをする子供たちの姿だった。

「……光が強いほど、影も深くなる。……ピコ、ここ、嫌な匂いがします」


「……うん。教会の連中は、祈りよりも金と権力が大好物だからね。エル、気をつけなよ」

 教皇庁が用意した豪奢な『迎賓館』。しかしそこは、窓に鉄格子が嵌められた豪華な監獄だった。

「こんな堅苦しい場所、一分だって居たくないわ!」

 ルミナの不満を受け、エルは監視の目を盗み、夜の聖都へと抜け出した。


 裏路地を彷徨い、辿り着いたのは古びた宿屋『銀のはかり亭』。

 扉を開けると、湯気と笑い声と共に、チャキチャキとした少女の声が響いてきた。

「はいよ! 特製エール一丁! ……って、あら? お客さん……?」


 そこにいたのは、赤毛のショートヘアを揺らし、そばかす顔を輝かせる少女だった。彼女はエルの可憐な姿を見るなり、持っていたジョッキを落としそうになって固まった。

「……う、うわっ。何この子……お人形さん? 天使? ……めっちゃ可愛いじゃないの!」


「あの、すみません。今夜、泊めていただけますか?」

「泊めるも何も、大歓迎だよ! あ、あたしはノエル。この宿の看板娘さ。あんた、こんな夜更けに……もしかして教会の白い服の連中に追われてるのかい?」

 ノエルは鋭く周囲を警戒し、エルの手を引いて奥へと招き入れた。


「教会の奴らは大嫌いなんだ。あいつら、祈る暇があったら腹一杯食わせろってんだよ。……ほら、こっち。屋根裏の隠し部屋なら、あいつらも気づかないさ」

 ノエルの親切心に甘え、エルたちは狭い屋根裏部屋へと身を寄せた。


 夜更け。ルミナたちが疲れ果てて眠りについた頃。

 エルは一人、右腕を抑えて蹲っていた。

「……う、あ……っ」

 腕の先が、もはや肉の感触ではない。どす黒い結晶が皮膚を突き破り、鈍く光っている。


「……やっぱり、酷い怪我じゃないか」

 ノエルが夜食のスープを持って現れた。彼女はエルの腕を一目見て、息を呑む。

「……これ。あいつらが、あんたにやらせたのかい?」

「……いえ、これは僕が選んだ道です。……でも、少しだけ、痛いですね」


 エルが力なく微笑むと、ノエルはその小さな手を強く握り締めた。

「……あんた、バカだよ。こんなになるまで頑張るなんて。……いいよ、あたしが協力してやる。あいつらにあんたを渡したりしない。……ノエル様を信じな!」


 ノエルの温かな言葉に、エルの心は僅かに救われた。

 だが、その頃――大聖堂の地下深く。

 テレーザは、巨大な水晶の棺の前に立っていた。その中には、感情を失った瞳で宙を見つめる少女、アリアが静かに横たわっている。


「……目覚めの時は近いわ、アリア。あの聖刻騎士の魂を注ぎ込めば、あなたは完璧な『神の兵器』となる」

 テレーザの冷酷な独白が、暗い地下室に響き渡った。


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