旅人(ルナリア作)
葉っぱ天国という掲示板のとあるスレで始まった合同小説です。まだ私の作品しか完結してませんが、他の方の小説が完結しだい次々とUPしていきます。
ここ、魔導院には不思議な部活がある。
部室はどこの部よりも広いのだが、位置的に隅に追いやられているせいでひとけが無い。
実際、この部活はもともと人気が無かった。
というのも、この魔導院には『住民課』という課があり、そこではマナ・ロートにすむ住民の依頼を受けている。
住民課自体は魔導院を卒業した魔法使いなどで構成されている職なのだが…どういうわけだか近年になって依頼が殺到し、住民課だけでは処理できなくなった。
そこで設けられたのが、『住民課補助』という部活。
補助というだけあってたいそれた事業はせず、大抵は雑用。
「魔法万時部」という名前もつけられたが、数千人以上いるこの魔導院で万時部に入ったのは、たった五人だった。
そんな雑用係りの魔法万時部では、いくつか依頼が来ていた。
依頼書をさばく役は、副部長のトキ・マウルブロン。
彼は普段無口なので、託された役に愚痴をこぼしたことは無い。でも心の底では面倒だなとか思っているかもしれない。
依頼書そのものは意外と簡略に書いてあるが、依頼が来ない日もあれば一日に十件以上来ることがある。今日は依頼が多い日だった。そんな依頼書に目を通すことに、面倒を感じないとは言いきれない。
二十分くらいして、トキは一通り依頼書に目を通した。
疲れたと言う感じに革張りのソファに体を預ける。高級な革張りだったということに気づいてあわてて身を起こす。
このソファは部長のイチホが持ってきたもので、初めてこれをもってきた(正確には持ってこさせた)とき部室は騒然。だが部長は
「遠慮せず座ってね。どうせぬす…もらったものなのよ!」
異端な存在でもある天狗のイチホは、ちまたでは泥棒やら撲殺やらの悪い噂が立っている。しかし、部員はそれを責めたこともないし、もはや何を持ってきても慣れてしまっている。
だが、やはり革張りの高級なソファというのは、どうも心が落ち着かない。
しかたなく、さっきまで依頼書を読んでいた席に戻る。依頼書のうち四枚は、同じ内容だったことを思い出す。
「リオンが適任だな」
こうして、魔法万時部の部活動が始まっていく。
◇
依頼内容は『村の不作をどうにかしてくれ』
場所は魔堂院の南東に位置するアズライルだった。
「はぁー、遠い」
部員として派遣されたリオン・セベリアはため息を吐きつつ、トキに渡されたアズライルの情報に目を通す。
『アズライルは農作物の村として有名な町だ。町の中心部にいくつか川が流れているのだが、源流は北で、魔導院からは東にあるルナの森からだ。
森の中心であるルナの樹には、毎日のようにルナの森育ちの者が波動を注ぐ。その波動がまれに水に溶け出し、下流に当たるアズライルの農作物の肥料となっていた。
そのため、土はいつも肥え、水はきれいで農作物を作るにあたって困ることなど何一つ無かった。
だが、この三週間ほど作物の実りが悪いらしい。土は肥えず水も心なしかにごり始めている。この調査と解決が、今回の部活動だ』
「知ってるんだけどなぁ。僕」
トキの作る情報書は読みやすいしわかりやすい。しかし、知識人のリオンにとってはあまり意味が無かった。
それどころか、リオンは人脈により既に先週からアズライルの作物の育ちの悪さについて知っていた。もちろん依頼でもないので動く気も無かったが。
「まぁ今回は依頼だしねえ」
ひとり呟くリオン。アズライルまでの道のりは、まだまだある。
◇
「よく来てくれたね、草魔法使いさん!」
「あら、魔堂院の人?期待しているわよ」
アズライルの町に着くたび、歓喜の声が寄せられた。歓喜の声は珍しくないのだが、たいして顔も知られてないのに即座に声をかけられるのは、やはり草魔法使いの特徴でもあるポケットのたくさんついた服が目立つのかもしれない。
草魔法使いは基本的に『種』を使って魔法を使う。だから種を蓄えるポケットは必須なのだ。
「やあ、久しぶり。情報屋さん」
リオンはアズライルにいる知り合いの情報屋を訪ねた。
何か依頼があるたび、リオンは町の情報屋を訪ねる。ただ、情報屋といっても組織だったり個人だったりと町によってさまざま。
アズライルには周囲の家になじむ小さな小屋が一つ。そこに住むリオンと同世代の少年が、アズライルにいる情報屋だった。
情報屋の住む小屋の扉を開け、あいさつをする。
「やぁ、情報屋」
「屋とかいうなよ、リオン。別に経営してるわけじゃないんだ」
「でも君ほど情報をくれる人はいないよ。ありがとう」
「相変わらずリオンは礼儀正しいな。まぁいい、今日は依頼ついでに魔堂院の情報をくれるんだろ?」
「まぁね」
こうしてリオンは情報の対価に情報を交わす。
リオンは知識人でもある一方、情報に敏感だ。それゆえ、万時部に入ったとも言われてる。
「―――情報をありがとうなリオン。次は依頼遂行か?」
「うん。まぁそれが部活動だしね」
そう言ってリオンは情報屋がいる小屋を出ようと扉に手をかける。しかし何かをふと思い出し、情報屋のほうに振り向いて聞く。
「今日はトナッシュいるかい?」
「トナ…ああ、鍛冶屋やってる気の強い女か。いつも通り鍛冶屋にいるはずだ」
「ありがとう」
「ん、寄るのか?」
「いや、今日はいいよ。じゃあね」
改めてリオンは扉に手をかけ、外にでた。向かう先は、依頼者のところ。
◇
リオンは依頼者に出会って、依頼者の畑でだいたいの作物を活気づけた。
トキの情報書どおり不作の異変はアズライル全域ではなく、一部の畑のみだったのが幸いした。リオン一人でアズライルのすべての畑を回れるほどアズライルは小さな村でもない。
そして一通りの畑の作物を活気付けたあと、原因となる場所へと向かう。
原因自体はリオンでなくてもわかることだった。
水が悪ければ、土も痩せ作物の成長が悪くなる。そして水はルナの森の波動が溶け出して畑の養分となっているはずだから、その養分が失われているということになる。
となると、ルナの森かその途中の川に何かあるということになる。
もしルナの森に異変があるとするならば、養分そのものが失われているハズ。でも一部の畑にしか異変が無かったので、養分は部分的に失われているだけ。
結論として、ルナの森とアズライルの中間にある川に『何か』があるということになる。
「魔力を吸うような何かか…僕一人で大丈夫かな」
アズライルに流れる川沿いを上りながら、そうつぶやくリオン。
魔力が失われるということは、何かが魔力を吸っているという可能性が高かった。吸うモノは人間とかモンスターとか何かの亜種とかなんでもいるのだが、それを魔堂院のいち生徒であるリオン一人が処理するというのは、ちょっとした難題だ。
とはいえ、基本的にそんな難題を生徒にやらせるほど住民課はずさんでもない。あくまで依頼書に目を通した上で補助である万時部に依頼を回すため、だいたいは今回の『何か』の存在まで把握し、考慮したうえで依頼を回す。
ただ、まれに住民課でも想像できなかった厄介な依頼が来ることはあった。しかしそれも三ヶ月前の依頼「私の犬を探してください」の犬が異常に強かったという一軒だけである。
「大丈夫」
リオンがそのことを再認識していると、リオンの考えどおりの『何か』の影が見えた。
遠目でよくわからないが、かすかに動いている。
というか、食事している。
「人、か」
川を上ってきたときと変わらない速度で『何か』にリオンは近づく。ただ、警戒はしておき腰のポケットから一つだけ種を取り出しておく。
リオンが持つ草魔法は、主に魔法による儀式を行った『種』を使う。リオンがポケットから取り出した種は、強力なツタを出して相手の動きを封じるものだ。
そして、『何か』である人影に近づいていくと、それはリオンに気づいたようで、食事をする手を止めた。
「なんだい?」
リオンが『何か』との距離が二メートルほどになったとき、あぐらをかいていたそれは発言した。
改めてその『何か』を確認すると、髪はボサボサ服はボロボロ、先ほどまで食していたと思われるものは食用の草。
明らかに浮浪者のたぐいだとリオンは思った。
「いきなりで失礼します。質問してもいいでしょうか」
「言わなくてもわかるさ。『魔力を吸い取っているものを知らないか』だろう」
「ご明察の通りです」
浮浪者は少しだけ黙って、逆に質問した。
「その前に一つ聞こう。捕らえるのか?その魔力吸いを」
「いいえ、解決が僕の仕事です。仮に原因があなただったとしても、退いてくれれば捕らえもしません」
「へぇ…」
リオンにはこの浮浪者が原因だと気づいていた。
おおよそここで生活しており、魔力供給に川を使ったのだろう。
「まぁ、大体は君の考えている通りだ。俺はここで数日間生活をしていた。その際魔力も吸った」
「そうですか、では…」
リオンが言い切らないうちに、浮浪者は着ていた服の袖をまくった。すると、魔法を使う者が持つ紋章ともいえるアザが見えた。
だがそのアザはリオンの知っているアザとはいろいろと形状が違った。
火魔法なら火魔法用のアザ、草魔法なら草魔法のアザがある。だが、浮浪者の見せたアザはそれのどれにも似ていなかった。
「この特殊なアザはある魔法を使うためのものだが、異常に魔力を食うのさ。それで、たまたま見つけたこの川を利用させてもらった」
「あなた…何者なんですか?」
そのアザを見た途端、リオンのなかにある一つの欲がかきたてられた。知らないものが存在する、それだけでリオンには十分だった。
無論、知らない物を持つ者という存在は、一言で済ませられる。
「旅人、だな」
リオンはその存在に心惹かれた。
旅人の存在を知らなかったわけではない。だが、知らないアザを所有し、自分が知らないことをたくさん知っていると思われるその存在が目の前にいる。
知識欲に関して人一倍なリオンにとって、もはや依頼などどうでも良くなってきていた。
「教えて下さい!そのアザは、なんていう魔法なんですか?」
リオンの知識欲による豹変ぶりに、旅人は一瞬不審な顔をする。だが、アザについて聞かれるのも慣れっこなのか、すぐに答えた。
「教えない」
「なぜ?なぜなんですか?」
「なぜって…」
ここまで食いつくのも珍しいと旅人は思った。
奇妙な話だが、リオン本人にはこれくらい知識を追い求める事が普通だと思っている。だから食い下がる事は一切しない。
だが旅人にもアザについて話せない事情があり、リオンの関心をそらすように、アズライルの方を向いて右――つまり西方の――グランツ砂漠のほうを指差し、こう言った。
「俺は向こうの広大な砂漠を超えてやってきた。砂漠を越えると海があり、それすらも渡ってきた。魔法使いの少年、お前が俺に興味を持つなら、俺が来た道をたどってみろ」
リオンは旅人が指差した方向をじっと見ていた。
そのまなざしは、きらきらと輝いていた。
◇
「ただいま。今さっき終わりました」
リオンが万時部の部室に戻ったときには、既に日が暮れ始めていた。
依頼を遂行したらトキに報告するのがいつものことなので、リオンはアズライルまで遠い道のりを来たにもかかわらず、また引き返し、魔堂院にある万時部まで戻らなければならなかった。
無論、そんな長い距離を馬車が通らないはずもない。だから馬車で行けば一時間とかからないのだが、馬車はお金がかかるため、今回はオミットしていた。
「お帰り」
「トキ先輩、今回のは遠出すぎますよ」
もともと無口なトキ。必要なことは必ず言うが、あまり依頼遂行についての詮索はしない。
そのおかげか、口さえつぐんでおけば依頼中に何の寄り道をしたとこでとがめられる事はない。要するに自由奔放だった。
「だがお前が適任だったさ。アズライルに行く手間が省けたろう」
「…皮肉ですね」
「そうか?」
だが事実だった。近日中にアズライルの情報屋に会わなければいけなかったので、物はついでと言う感じだった。
それに、引き受けたのはリオン自身なので、あまり責めることも出来ない。
「だいたいリオン。お前、今回大きな『収穫』をしてきただろう」
「…相変わらず、トキ先輩の勘は鋭いですね」
「妙な気は起こすなよ?」
「わかっていますよ。僕だって一応は草魔法使いの代表として魔堂院に通っています。卒業するまで、何も出来ませんよ」
逆に言えば卒業したら何をするのか解らないのだが、そこまでトキは聞かなかった。
「そうか」
トキは自分が座っている革張りのソファから席を立ち、事務処理用の机においてあった書類をリオンに渡す。
「報告書はお前が書いとけ。俺はもう帰る」
報告書とは、依頼を遂行した際に『遂行しました』ということを伝達・証明するための紙。
普段はトキが書くのだが、なぜか今回はリオンに渡された。
「…わかりました」
面倒だが、別に書くのは嫌いじゃない。そう思いつつ、トキが部室を出たあと、リオンは報告書に今日のことを簡潔に書いた。
"作物の不作は川の魔力切れによるもので、原因はアズライルとルナの森の中間に住み着いた旅人によるもの。
話し合いの結果、退去させることに成功…
そこまで書いて、リオンは再び旅人の言った事を思い出した。
砂漠を越えると海があり、その海の向こうには自分の知らない大陸がある…卒業したら、必ず旅にでよう。
そう考え、リオンは報告書に最後の一言を足した。
…そして、旅人の存在は、世界の広さを証明する"




