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気風の魔女─レディ・グレア─  作者: 智慧砂猫
第二部 レディ・グレアと小さな島の少女
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第13話「酒の肴に」

 四人はリリナの持ち寄った食事とマリオンの獲った魚で腹を満たしたら、すこし遊んで、日が暮れる前に船に乗って帰る準備を始める。あまり長居すると心配されてしまうので、程々にしておかなければならないのだ。


 せっかくのお気に入りの場所を他の人に見つかるのも嫌だった。


「ようし。じゃあ乗ってくれ、出発するぞ!」


 乗り込んで、いざ帰り道。透き通った海に泳ぐ魚を眺めながらの優雅なひと時。御世辞にも上手とは言えないマクフィンの鼻歌に、気付かれないように苦笑いを浮かべながら港へ帰ってくる。相も変わらず、島はいつでも観光客たちの姿があちこちにまばらに見えた。彼らは、今日も夜遅くまで飲んだり食べたりと宴のように過ごすのだ。


「オレたちもどっかで軽く酒でも飲んでいくか?」


「いいね。お腹もいっぱいになったし、何か飲みたいな」


 せっかくなのでとリリナたちも誘ったが、そもそもリリナはまだ酒の飲める年齢ではないのと、母親が心配するからと今日のところは諦めて、マクフィンも仕事が残っていると断った。結局、二人だけで飲みに行くことになった。


「じゃあオレたちだけで適当に飲むとすっかぁ」


「それなら気になるお店を見つけたから行ってみようよ」


 今朝に散策をしていたとき、いくつかの店に目星をつけておいたグレアは、その中でも小ぢんまりした落ち着きのあるお店に、マリオンを連れて行った。


 席の数が少なく、他に客もまばらにいる程度で、「空いてる席へどうぞ」と案内を受けたら、店の奥にある目立たない場所を選んだ。


「ビールにすっか、それともウィスキー?」


「私はビール。つまみに何か要るかい」


「ナッツでいいんじゃねえの、腹もいっぱいだし」


 注文を済ませたら酒が届くのを待ち、外から聞こえてくる雨の音に、帰りは濡れるだろうな、と二人とも少し気分が落ち込んだ。


「さて、ところで昼間は海に潜って何があったの?」


「おうおう、さっそく来たねえ。実はさ……」


 周囲の目がないかを確かめ、細い声で。


「見つけちまったんだよ、例の財宝。海賊の」


「……本気で言ってる?」


「信じてねえのかよ」


「信じないわけじゃないけど、信じられない」


「まあ、そりゃそうか。だけどこれがマジなんだよ」


 届いた大きなジョッキになみなみと注がれたビールを半分まで一気に飲んで、ナッツをひとつまみ。塩気が足りないな、と思いながらマリオンは話を続けた。


「魚が泳いでいくのを追いかけてたら、潜った先で小さい洞窟があってさ。いくつも木箱があって、中は金でいっぱいだ。潮の満ち引きの関係で入れるときもあるのかもしれねえが、だとしてもあんなの一人で運び込める量じゃない。それに金貨も、今は使われてないデザインだ。オレたちの時代のもんじゃねえ」


 明らかに旧い時代のもので、間違いなく海賊の財宝だと力説するマリオンの言葉に、グレアは静かに頷きながら考えを巡らせる。もし、それが誰の手も付かずに今まであったのなら、ペイテンも含めて欲しがる人間は多い。


 使いようがあるかもしれない。そんなふうに思った。


「わかった。いったん、そのことは胸に秘めておこう。使い道はあるだろうけど、少なくとも、今じゃない。まずは色々と準備(・・)をしておかないと……」


 グレアはちびちびとビールを飲む。今後に向けての良い話が聞けたと美味い酒を嗜んでいると、横から「グレア、ここに来てたのか」と声を掛けられて、一気に冷めた。うんざりした瞳で、声を掛けてきた男を睨む。


「なんだい、ナルヴィック伯爵令息」


 クートが他人行儀に呼ばれてムッとした表情を浮かべた。


「冷たく当たるなよ。反省はしてるつもりだ、これでも」


「だから話しかけてきた、と? 邪魔だよ、ハッキリ言って」


 あしらわれて、クートはたじろぐ。


「なにもそんな風に言わなくてもいいだろ……。俺だって純粋に謝りたい気持ちで声を掛けたんだ。今日はそれだけ、あとはごゆっくり」


 去っていく彼の背中を見て、マリオンがぽつりと言った。


「なんか寂しそうだったな。混ざりたかったんじゃねえの?」


「駄目だよ。君が許しても、私が彼を許せてないから」


「ふーん。ま、オレはどっちでもいいけどよ」


 ビールのおかわりを注文する。マリオンも確かにクートのことは嫌いだったし、混ざってほしいとも思わなかったが、少しだけ哀れな気がしなくもなかった。

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