第12話「隠された財宝」
意気揚々と銛を借りて、マリオンは海に飛び込んだ。心配されつつも、彼女は無理をしない約束をして、それなりに大きな獲物を探す。少し波は荒いものの、流されるほどではない。泳ぐのは得意で、しっかり目も開けられる。他の人よりも海の中で視界をはっきり得られるのが、少しだけ自慢だった。
(……あんまりいねえな。小さいのはつまんねえ)
わざわざ突くほどの獲物ではない、といくらか見逃して、しばらく遊泳がてらに魚を探していると、ようやく少し大きな獲物を見つけた。岩陰に逃げ込んでいくのを追いかけて銛をしっかり握りしめた。
(ちっ、岩陰に隠れられると探しにくいったらねえや)
ゆっくり追いかけるも、息が続かず、いったん浮上する。また息を大きく吸い込んで潜り、また魚のいた周辺を探す。今度こそは逃がすまい、といつでも仕留められる用意もある。ゆっくり、少しでも警戒されないように岩陰を覗く。
(……!? なんだ、ここ、洞窟になってんのか?)
差し込む光でわずかに見える場所は、それほど広くなく──とはいえ二人くらいなら通っても問題なさそうな空間──マリオンは僅かな視界を頼りに入ってみる。足下を魚が横切ったのをちらっと見て、あとで追いかけようと決めた。
浮いてみると、思っていたより遠くまでは繋がっておらず、すぐに水面から顔を出せる。真っ暗で何も見えないので、マリオンは自分のネックレスをしっかり握りしめてみる。グレアに教わったいくつかのうち、明かりを灯す程度であれば宝石の魔力もほとんど使わないため、遠慮なく試した。
ぼんやりと輝いたネックレスが周囲を優しく照らしてくれる。まだ奥に続いているらしく、興味を惹かれて、魚のことなどすっかり頭から抜け落ちていた。
「……んだ、こりゃあ。探検家だったら大喜びしそうだな」
ごつごつした岩肌の上を裸足で歩くのは気が進まず、引き返そうとしたとき、ふと洞窟の奥で何かが光を反射した。気になったマリオンは、出来るだけ平らそうな足場を歩いて進み、何があるのかという好奇心に確かめようとする。
唖然とした。瞳に映したのは、金貨や杯など、高価な代物で埋め尽くされた箱。ひとつならばともかく、いくつもあったのだ。驚きに言葉が出てこず、まるで置物のように少しのあいだ呆然として眺めていた。
「嘘だろ、もしかしてこれ……アレか?」
金貨を一枚手に取って、表裏をじっくり見る。今は使われていないのだろう、見たこともないようなデザインの硬貨に息を呑んだ。これこそが、島のうわさとして知られている〝海賊の財宝〟なのだ、と。
「隠されてるってことは、そういうことだよな。……えっ、どうしよう。黙ってるってわけにもいかねえよなあ、こんなの見つけちまったら」
独占するといった考えは毛頭ないし、そもそもマリオンは金銀財宝の類に興味がない。生きていくうえで必要な分が必要なときにあればいいので、誰かに話してしまっても構わなかった。だが、しかし、だ。彼女自身はともかく、他の誰かは、あえて黙って独占するかもしれないし、大勢が知れば奪い合いになる。海の中から入れる洞窟で争いなど起きれば、死人が出るかもしれない不安はあった。
「……うん、それならまずはグレアに相談するか」
マリオンはグレアをよく信頼していた。彼女ならば自分にはない考えや答えを導きだしてくれるし、賢くて頼りになる最高の相棒だと思っている。ここは一度引き返して、二人きりのタイミングで話をしてみるのが最善だ、と頷く。
なにより、ここに財宝があると知るのは自分たちだけ。ペイテンのこともまだ調べ切れていないのだから、利用価値はあるはずだ。そんなふうに考えて、また銛を握り締めて海に飛び込んだ。あとは魚を突いて帰るだけだ。
(ちぇっ、妙なもん見ちまったせいで落ち着かねえよ)
もう大きな獲物を探すどころではない。結局、やや小さめだが、焼いて食べるには十分だろうと適当なのを一匹だけ突いて帰り、グレアたちの待つ砂浜へ戻った。がっかりした様子で「わりぃ、大したもんいなかったわ」と苦笑いで誤魔化す。
漁師でもないのに、とマクフィンもリリナも褒めた。だが、グレアだけは彼女がいつもと雰囲気が違うのに気付き、食事の準備をしながら。
「ま、そんなときもあるよ。こっちに来てゆっくり話でもしよう」
「……おう。悪いなあ、察してもらっちまって」
「うまくいかないこともあるさ。疲れただろ、座りたまえ」
自分の隣にマリオンが腰を下ろすと、二人に聞こえないようにグレアは横目にちらと彼女を見る。
「何か面白いことでもあったのなら、帰ってから話そう」
「やっぱり、お前は最高だよ。そうしよう、まずはメシだな!」




