第11話「秘密の場所」
最終的に、大陸へ渡ったことで違う病に冒されて亡くなったことにするか、あるいは悪評でもつけてリリナ自身を貶めるか。どちらにしても損はない。知られてはならない人間の誰にも知られさえしなければいいのだ。
「気に食わねえけど、仮にオレがアイツだったとしても、そういう手段を選ぶだろうな。ま、今は何言ってても仕方ねえから、もう少し話を聞いてみようぜ」
「そうだね。あくまで推察の域を出ないから」
しばらくの休憩は、二人の呼吸を整えた。そろそろリリナも仕事が終わるころだろうと、いったん宿へ戻ろうとすると、向かいを歩いてくる壮年の男がにこやかに手を振って「おお、こんにちは。リリナちゃんは?」と尋ねてきた。
「えっと……これから会いに行くところですけど」
「そうかい。じゃあ、あとで港に来るよう伝えといてよ」
「あれ、もしかして彼女、まだ仕事があるんですか?」
「ん。いやあ、そうじゃないんだけど、まあ頼んだよ」
なぜかはぐらかされてしまい、怪訝な顔をみせる二人に、慌てたように男は退散した。ただ、何か悪いことを企んでいるふうでもなかったので、グレアたちは気に留めることなく宿へ帰っていく。
入口の前でリリナが掃き掃除を終えてひと息ついているのを見つけて、グレアが「おーい」と声を掛けて優しく微笑みながら手を振った。
「あっ、おかえり! ごめんね、忙しくって!」
「気にしないでいいよ。それより、さっき……」
リリナが伝言を聞いて、ああ、と手を叩く。
「マクフィンおじさんだね! そうそう、実は港に行く用があって。良かったら、二人もついてきてくれないかな。もちろん時間があればだけど」
「オレたちは平気だよ。なあ、グレア?」
「うん。ちょうど散策も終えて暇だったしね」
ぴょんぴょんとうさぎのように飛び跳ねて「やったー!」と大喜びをするリリナは、箒を投げ出して、すぐに支度を済ませてくると引っ込んだ。それから数分して、彼女は大きな布の包みを担いでやってくる。
「じゃあ行こっか!」
「う、うん。ていうか、それは?」
「ふふーん、内緒です!」
いったい何を背負っているのか気になりつつも、リリナを先頭に三人で港に向かう。いくつも並ぶ船のうち、一隻の前で、さきほどの壮年の男、マクフィンがあくびをしながら待っている。きょろきょろと首を動かして、リリナを見つけたら顔を明るくして、軽く手をあげた。
「おお、来たね。さあさあ、乗って。ちょっと揺れるけど」
彼の船は他と比べて少しおんぼろな手漕ぎの船だが、やや大きく、全員が乗っても、なんとか平気だ。「俺はあまり儲けがなくてねえ」と少しだけ悲しそうに笑いつつ、船を漕ぎ、海へ出た。ゆっくり島の周りを進んだ船が連れて行ったのは、島の背中。崖ばかりしか見るものがなさそうな場所まで彼女たちを案内した。
「さあ、そろそろ着くぞ」
マクフィンが指をさす。島の背中に小さな砂浜があった。
「わあ……ここ、綺麗ですね。こんな場所があったんだ」
「おう、良い場所だろ。まあ、砂浜しかないけど」
マクフィンが鼻を高くして言った。
「ここは俺のお気に入りの場所でね。三年前に移住してきたときに、たまたま見つけたんだ。このへんはよく波も荒くなるからってんで、俺以外は滅多と寄りつかないし、目立たないから、人の目も気にならない」
そう言われて、二人は昨日の騒ぎを思い出して、恥ずかしそうに笑顔をみせた。島でうわさが広がるのは非常に早く、ひと晩も経てば尾ひれまでつく、とマクフィンが眉尻を下げた。リリナが気を遣って遊べる場所を探していたので、彼女の友達ならせっかくだからと連れてくることにしたのだ。
「じゃあ、リリナが持ってきたその包みはなんだい?」
「えへへ。とびきり良い場所だから、準備がいるでしょ!」
砂浜に降りたあと、リリナが広げた大きな布の包みには、宿から持ち寄ったマッチや油、果物に、紙で何重にも包んだ肉が入っていた。
「こういう自然の中で食べるってサイコーなんだよ。もちろん、マクフィンおじさんも食べていくよね、お昼まだ食べてないって言ってたし」
「え。いいのかい、俺みたいなのがいちゃって……」
せっかく女の子だけで遊べる良い機会なのに、とマクフィンが困った顔をする。しかし、グレアたちにも「せっかくなら一緒に食べましょう」と誘われると、気恥ずかしさに身を縮こまらせて「じゃあ、お邪魔するかな」と嬉しそうだった。
「なあ、おっちゃん。そういや船に銛が積んであったよな」
「おうとも。……え、もしかしてあんたが?」
マリオンが指をさされて、ニヤッとした。
「任せろ、でけえ魚の一匹くらい捕まえてきてやるよ!」




