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81話 隠したい過去。

麦の拳を握る犬川の手のひらは分厚い。


それは犬川、という人間を表しているようで優しく、人としての厚みを感じさせられる。


しかし、そんなことは今は重要ではない。


なぜ、犬川が間に割り込んできたのか。


それだけが麦と蛍の頭の中に残り、首を傾げるしかなかった。


疑問を浮かべた表情を目にした犬川は麦と蛍に笑みを溢すと麦の拳から手を離した。


「どうやら、お怪我はないみたいですね。良かった」


割り込んだ時の犬川の顔は出会った時のような取っ付きやすい顔をしていなかった。


針積めたような表情に加えて、今にも犬川の殺意がむき出しになっているようであった。


だからこそ、麦と蛍の中で疑問が大きく膨らんだ。


「あの…犬川さん、あなた一体……?」


蛍は真っ直ぐに犬川に向けて視線をぶつけた。


あの男から槍を奪うという行為は決して簡単なことではない。


そのことを蛍は肌で強く感じている。


自身の攻撃が何も通じなかったことが犬川の行為の難易度を理解させている。


その為、蛍は額から汗を流した。


しかし、この場において1番に焦りを隠せていなかったのは“男”であった。


槍を手から吹き飛ばされた男は額に汗を滲ませながら犬川からゆっくりと離れて距離をおいて見せた。


「あの男が距離を置くなんて……」


その男の行動は麦を驚かせた。


今まで不適な笑みを浮かべ、余裕を見せていた男だったが犬川が姿を見せた瞬間、態度は一変した。


距離を置いた。


それは犬川と距離を取るということであるが、その様子があまりにも怯えているように麦には見えた。


しかしながら、男の手から簡単に槍を吹き飛ばし様を見た麦はそんな男の行動に納得したが問題はそこではない。


男は犬川の力に恐怖を覚えた、というよりは犬川という存在に恐怖をしている様なのだ。


「僕はただの“パン屋さん”だよ」


男が距離を置いたのを見た犬川をそれに何のコメントを残すことなく、蛍の質問にサラッと答えた。


笑みを浮かべるその姿や雰囲気からはただの陽気な男にしか犬川は見えない。


しかし、一瞬、見せる真剣な表情や雰囲気は陽気な男という印象からは離れている。


どちらかと言えば目の前でうろたえる男と同じように感じられる。


「…そうですか」


蛍は犬川の答えに対してそれ以上、追求することはしなかった。


追求できなかった、と言っても良いかもしれない。


それだけ、犬川の笑みが拒絶を蛍に感じさせている。


一見、犬川は陽気に笑みを浮かべているようだがその影には深い傷や闇が染みているのだろう。


そして、それらは晴れることはない。


そんな暗い心を察した蛍は犬川と視線を合わせることができなかった。


「なぜ…あなたがここにいるのですか?」


男は地面に転がる槍に目もくれず犬川に声を掛けた。


余裕がない。


そういった表情を男はしていて、その男の焦りを麦も蛍も理解していた。


「僕の友人がここで入院していてね」


「なるほど。ではなぜ、そこの2人を助けたのですか?」


男は緊張している様子ではあるが犬川に対して敵意を向けているようであった。


そんな男の敵意に犬川は気づいているようではあったが、犬川は余裕の表情を浮かべている。


それはまるで、相手に敵意を向けられるのを知っているかのように。


「この2人は僕にとって大切な人なんだよ。それに大切な友人を救ってもらった」


「まさか…その男のこと知ってて力を利用したのですか?」


「そうだよ。僕はもう、そっち側じゃないからね」


「あなたも“歴史”を知っているはずだ!」


犬川と男の会話に付いていけない麦と蛍だったが、口を開けてただ立ち尽くしていることはできなかった。


辺りに広がる緊張に加えて、犬川に対して疑心を抱いていたからである。


男と何かしらの共通点を持つ犬川が命を救ってくれたことは確かである。


そして、犬川が麦と蛍に感謝しているのも確かである。


それでも、2人の心には疑いがあった。


ただ、“力”を利用しただけの人なのかも知れない、という思いが拭えないのだ。


「それは一般的に知られていない“歴史”だ」


犬川の華麗なかわしに男は眉間にシワを寄せた。


それは露骨な敵意であり、怒りであった。


なぜ、怒りを覚えているのかは麦にはわからなかったが一触即発の事態であることは確かである。


「あなたは“あの人”と同じ過ちを犯すのですか?」


「過ち?あれを過ちと呼ぶには残酷すぎる」


「その女と同じようになるからですか?」


男は怒りを隠しきれないようで眉間にシワを寄せながら犬川の後ろにいる蛍を指差した。


その瞬間、犬川の顔色は悪くなった。


「やはり…そうなんですね」


「だったら、なんだ?」


男に負けじと敵意をむき出しにする犬川。


お互いの視線がバチバチとぶつかり合う中、男は地面に転がる槍に手を伸ばした。


それは戦いの始まりを意味しているのかも知れない…。

次回の更新は3月3日(日)です!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→病気が完治。

嵐山 轟太→学校の問題児?

嵐山 雪子→轟太の6つ下の妹。

青野 温子→ゴミ屋敷の住人。

青野 槙子→ゴミ屋敷の幽霊。

剣持 境矢→聖人?

謎の女?→浄化。

鶴巻 大也→鶴巻グループの人間。

犬川→手紙の主。

水野 空→??

槍の男→麦の命を狙う者?

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