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20話 嘆き。

今、時間は何時だろうか。


零花に馬乗りされて、身動きが取れない麦はふとそう思った。


なぜ、今、時間が気になったかはわからない。


ただ、1つ言えるのは今、時間を気にする必要はないということである。


「ねぇ、麦さん、聞いてる?」


頭の中を時間でいっぱいにさせようとしている麦に零花は甘く(ささや)いた。


麦はパニックになっているのだ。


今、何が起きているかわからないのにも関わらず、これから先に何が起こるのかが麦には理解できた。


だからこそ、違うことで頭をいっぱいにして紛らわす必要があった。


そうでなければ零花と交わることになるから。


「き…聞こえてるよ」


麦は体の上に乗る零花に声を濁しながら答えたが、その声はひどく震えていた。


麦にはわからないのだ。


零花の考えていることが。


出合ってから数分で必要以上のスキンシップを行い、今、スキンシップという名の壁を越えようとしている。


その様はまさに“痴女”である。


もしも、零花が痴女でなければ麦に零花の行動を理解することができない。


「じゃ、教えて下さい。私とヤりたいか」


「ヤりたいか……?」


零花は性に飢えているのだろうか。


その頬は赤く染まり、目は虚ろになっている。


これは女が男を求めているサインの1つなのだろう。


しかしながら、麦はそんな零花のサインを目にしても納得することができなかった。


シャツのボタンを全開にして白い肌をチラチラと見せる零花に性的興奮を覚えるかどうか、と聞かれれば麦は首を縦に振るだろう。


それでも、違和感や疑問を感じるのは確かなのだ。


「そうです。自分で言うのは恥ずかしいけど……私はなかなかの名器(めいき)なんですよ」


眉を尖らせて、険しい顔を作る麦に零花は優しく笑みを浮かべた。


その零花の優しい笑みも麦にとっては不気味にしか感じられなかった。


違和感や疑問、それらが強くなる一方である。


「なぁ、零花さん」


「はい?」


零花が痴女だとか、痴女でないだとか関係がない。


麦にとっては今、目の前にいるのが零花であり、それが真実なのだ。


その為、麦が今、やるべきことは向き合うことなのだ。


「なんで、オレにそんなことをするんだ?」


「それは私が…麦さんのことが好きだからです」


零花は頬を赤くしているが、麦にはそれが嘘であることを確信していた。


それは零花の行動や口調、態度で判断したのではない。


麦の勘である。


そして、その勘には根拠なんてものはない。


経験だとかそんなもので根拠は作られるが、麦には根拠を作ることができるだけの女性経験はない。


だからこそ、麦は自分の勘に身を任せた。


それが1番、正しい答えだと信じて。


「嘘はついたらいかんよ」


「嘘なんかじゃ、ありませんよ!私は…本気で麦さんのことが好きなんです。愛しているんです。だから、肉体関係を結びたいんです」


零花は早口で麦への想いを口にした。


それは真実の愛であり、照れているだけなのか。


それとも、全てが計算なのか。


そんなこと、麦には考える必要はない。


なぜなら、麦の中で結論が出ているから。


「順番が逆じゃない?」


「順番?」


「うん。普通は心をお互いに通わしてから肉体関係を結ぶんじゃないのか?……なにをそんなに焦ってるんだ?」


「私は別に…焦ってなんて……」


焦ってなんてない。


そう、零花は言いたかったのだろう。


だが、その言葉が喉まで来ているのにも関わらず吐き出されないのは零花が焦っているからなのだろう。


零花が言葉を無くしたことを察した麦はゆっくりと手を伸ばして零花の腕を掴んだ。


「な、なにを……?」


突然、腕を捕まれた零花は麦に馬乗りになっているのにも関わらず、追い込まれているような感覚に陥った。


別に麦に驚異的な圧力を感じている訳ではない。


麦の心を読む力に驚きを隠せなかったのだ。


「何があったんだ?」


麦は優しく零花にそう口にすると優しく微笑んだ。


その微笑みの意味は何なのだろうか。


同情なのか、見下しなのか、自己満足なのか。


様々な憶測が零花の頭の中を駆け巡ったが、最後に残ったのは底無しの優しさであった。


決して、底を見ることができないほどの優しさ。


それを零花は麦から感じた。


「……麦さん!!」


零花は大きな声で麦を呼ぶと麦の手を振り払い、麦を布団へと押さえ付けた。


零花に両手を抑えられた麦は簡単にその立場を覆すことができたが、あえてそれはしなかった。


いや、覆す必要はないと麦は思ったのだ。


だから、指の1本も動かすことなく真っ直ぐに零花を見つめた。


「零花さん、オレは修復屋だ。だから、オレで治せるものがあるなら何でも言ってくれ」


麦はその瞬間、零花の腕から力がなくなっていくのがわかった。


その腕は簡単に払うことができるだろう。


「麦さん、私…私………」


「うん?どうした?」


この時、麦の頬を濡らしたのは雨ではない。


零花の涙である。


そして、零花は大粒の涙を麦に落としながら嘆いた。


「私を治して下さい……」


それは零花の勇気ある嘆きであり、精一杯のSOSなのだ。


麦はそれに答えるように首を縦に振った…。

次回の更新は7月11日(水)!

【登場人物】

花形 麦→修復屋ウィートの修復士。

半 重春→修復屋のオーナー。

水野 蛍→蜜柑高校1年1組。父親を探している。

春下 舞火→蛍の友達。蜜柑高校の生徒。

月並 零花→修復屋に泊まることになったが…

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