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入学式


 残念ながら、桜はほとんど散ってしまった並木を見つつ、おばあちゃん、おじいちゃんの後ろを付いて歩く、私と神宮さん。

 私たちは、新品の制服。おばあちゃんは着物を、おじいちゃんはスーツを着こなしている。私たちがこれから通う、緑峰りょくほう高校の制服は、女子男子、共に紺を基調としたブレザーだ。

 女子は、白いブラウスに、青いタイ。プリーツのスカートと上着、それから、ベストが紺色。

 男子は、女子と同じくズボンと上着が紺色で、白いワイシャツに、女子と同じく、青いタイだ。

 タイは、どちらの色にも、校章の入った同じ形の、銀色の金具をつけて止める。おととい、初めて着たときは、なかなか金具が止まらなくて、とても苦労した。


「なんだか、不思議な服だな、制服は」


「ん?」

 神宮さんの言葉に、首をかしげてしまう私。

「この世界にきて、着慣れない服をたくさん着てきたが、この服は、かたくて、重くて、動きづらい」

そこで、どうしても気になって、聞いてみる。学校までは、バスに乗っていくため、バス待ちなのだ。時間はある。

「神様の着ている服って、どんなの? 着物?」

「え~と、着物ではないな。うーん、こっちの服で例えるのは難しい。古墳時代の人と近いな。神々のことを書物に直したのは奈良時代の人々なのにな。古墳時代のような古代には、神に仕える者も多くいた。だからかもしれない」

 意外だ。着物か、奈良時代の服だと思っていた。

「じゃあ、古墳時代の人たちが、神様の服をまねしたの? 飛鳥時代や奈良時代になって、新しい服が考えられるまで……」

「よくは知らない。なにせ、俺は生まれていないのだからな。当時からいる神様に聞いたんだ」

 ――え!? 古墳時代だよ!? そう言おうとして、ついこの間、おばあちゃんに詰め込まれた知識を引っ張り出した。

「そっか、神様は、不死身なんだよね。死んでも、黄泉の国という所に行くんでしょ? あ、でも、そしたら、私と結婚しても、神宮さんは死なないんだね……」

「巫女として、勉強したのか? そうだ。確かにそうだが……」

頭をかく神宮さん。何か変なこと言っちゃったかな?


「俺はな、人間の様に、寿命がある。だから、この任務に就いたのだ」


「え? ……神様じゃないの?」

「そんなことは言っていない」

なぜそうなる、と、突っ込みを入れられてしまった。

「そうでなくて、俺の母上は、木花咲耶姫コノハナサクヤヒメ。父上は、瓊瓊杵尊ニニギノミコト。神話にもあるが、とある理由から、その2人から生まれた者達は、人間と同じく、短い命を授かるんだ。初代天皇は、2人の子供であると言われている」

「それじゃあ、神宮さんは、私たちと同じように、寿命があるの……?」

「まあ、そういうこと」

バスが来て、バス停のベンチから足り上がると、おばあちゃんに声をかけられた。

「ここからは、秘密がばれるような話はするんじゃないよ」

「「はーい」」



 中学と違い、校庭を突っ切る配置をしていない玄関へ向かう。「入学式」とかかれた立て看板のある正門から入り、目の前がすぐ玄関。おばあちゃん達と別れて、入学者一覧の紙をもらう。私は、優しそうな女の先生にもらった。神宮さんは、細身の男の先生。女の先生とは対照的に、ものすごくベテランに見える。

 普通に登校してくる先輩達は、上着を着ておらず、ブラウスやワイシャツにタイ姿の人も多い。上着は、基本自由のようだ。女子は、ベストを着ている人もいる。

「俺も、明日からは、ワイシャツだけで登校しよう。ワイシャツだけなら、それほど動きずらくもないし、重くもない」

「そうだね、私もそうしようかな」

 タイの色は、私たちの青を含めて、3種類あった。

 私と同じように、先生から紙を受け取り、キョロキョロと周りを見ている人たちは、青いタイ。紙を受け取っているものの、なれた様子で登校している、先輩と思われる人たちも、ロッカーごとに、だいたいまとまって同じ色のタイをつけている。赤色のタイと、緑のタイだ。きっと学年色なのだろう。上履きに入ったラインの色も、それと同じだった。

 紙には、クラスと出席番号が書かれているため、それを見て行動するように、と言う指示が出た。中学の時とさほど変わらない。とりあえず自分の下駄箱へローファーを入れ、教室へ向かう。


「クラスは同じだな、ちょっと安心した」


 後ろから神宮さんが駆け寄ってくる。下駄箱の位置や、紙の見方に戸惑ったのかもしれない。一緒に居てあげればよかったと反省しつつも、それでは、今後が大変だろうな、と言う心配も浮かび上がってきた。



 教室には、既に、席の半分くらいの生徒がいた。中学がこの辺に少なかったからと言って、同じ中学の人が多いというわけではないらしい。そこそこ学力の高い学校なので、他から入ってくる人も多いようだ。逆に、都会の高校を受験した人も多いのかもしれない。

 ぼんやり教室を見ていると、知っている人を発見した。

 たしか、某有名カフェに行ったときに、席を空けてくれた人だ。女の人も、男の人もいる。しかし、2人は、それぞれ別の人と話をしていた。

 私服姿では、あんなにも年上に見えたあの人達も、制服姿では、他とそうそう変わらない。その事に少し安心している自分がいた。



「席が遠いな、少し心配だ」

 自分の席に荷物を置いた神宮さんが、私の席まで来る。

「席替えって、すぐにするのかな?」

 私の疑問を聞いた神宮さんは、ため息をついた。

「神頼みなんて、したこともなかったけど……、今、それをする人たちのことが分かった気がする」

いつも通りの、どこかずれた言葉を聞いて、肩に入れていた力が抜けていくのを感じた。いつも通りって、すごく安心する。

「そりゃあ、そうだよね」

 ――自分が神様で、お願いされる側だったんだから。

その一言は飲み込み、神宮さんに、こくこくと頷いてみせる。神宮さんが、いつもの笑顔になった。

 緊張を感じていないような神宮さんは、とても頼もしく見えた。

 少し、緊張が解けたところで、先生が入ってきた。

 ――さっき、私に紙をくれた先生だ!

 ショートカットの優しそうな先生は、第一声は先生らしく、「はい、席ついて」だった。

「これから、1-2の担任になります。瀬戸優花せと ゆうかです。行事では、全力で優勝取りに行くような先生です。よく、見た目と性格が全然違うと言われます。え~と、他に何かあったっけ?」

 割とサバサバした先生のようだ。たしかに、見た目とは全然違う。某有名カフェで会った女の子が、「先生」と声を上げた。

「担当教科は何ですか?」

 瀬戸先生は、ああ、そうか、と言って自分で笑った。まわりも、つられて笑う。楽しそうなクラスだ。

「国語を教えます。古文が好きなので、日本神話とか好きな人が居たら、ぜひ教えてね!」

 神宮さんが目を輝かせるが、あの人は、今日のバスの中のように、「父上」とか、「母上」とか言いそうで怖い。後で釘を刺しておこう。

「時間が無いので、席替えは後にします。出席番号順に並んで~」

先生のノリにつられて、素早く行動するみんな。早速、クラスがまとまっているように感じる。

 ――すごい先生だな。

 さっさと並び終えた2組は、少し待ってから、1組の後について体育館へと向かった。



 体育館では、吹奏楽部の人が、入場のために音楽を弾いていてくれた。高校って、きっちりしたイメージがあったけど、そうでもないのかな?

 7組まで入場したところで、演奏がピタリとやみ、緊張が走る。

 校長先生方の長いお話が終わって、先生の発表があった。担当の教科や顧問をしている部活、担当のクラスなどが発表されていくが、部活に入ることをおばあちゃんに禁止されてしまった私は、顧問など関係ない。それに、1年の先生も、中学から比べると多くてさっぱり分からない。覚えられる気がしないよ~。

 ――まあ、毎日生活していれば、分かるよね!

 敵前逃亡。諦めました。勘弁してっ!

 先生の紹介が終わると、校歌の紹介。

 去年の合唱コンクールで優秀賞を取った3年生(当時2年)が、校歌を披露してくれた。

 その後、偉い先生方の、長くてありがた~いお話が始まった。


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