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その足音は、大広間へと続く通路の壁に木霊していった。
身廊のような廊下は、神々しく故に、静かに一体歩みを続ける天使を見守っていた。
何かあったのか、その者の足取りは重い。
すらっと伸びた背筋。白の布を纏い、胸元の布の隙間には、包帯が何重にも巻かれてあった。それは、両腕をも取り巻くものに同じく。引き締まったその身体は、彼女を知らない者から見れば一瞬、男性と見間違えてしまうほど、端正で勇ましい。ブロンドのショート髪はセンターで前髪が分けられ、そのせいか、彼女の不機嫌そうに顔を歪めた素顔がはっきりと見えた。
どこか虚ろな焦げ茶色の瞳をしたその天使は、一体、指定された大広間を目指すアルだった。
どうしてこうなった……?
いや、理由はわかっている。こういう結果になるはずだったのも薄々気付いていたし。だが――――
「なぜだッ」
誰もいない通路に、一体の天使の叫びが響いていった。
その理由は、ルシファーとの会話が終わり、リサアが作った蜂蜜入り紅茶に舌鼓をしようとした矢先に起こった。
それはリサアの何気ない一言から始まった。
「それじゃあ、アルちゃん。隊長、頑張ってね♪」
「………は?」
紅茶に伸ばそうとしていた手が止まる。
その一言は、先程まで堪えていた涙の感情さえ、拉致されて行くようなものだった。
「何をとぼけた声を抜かしておる。新米天使と行動するのだ、どう考えたって階級が上のお主がリーダーではないか」
にたにたとマーモンの剥き出された歯がアルを見る。
「そ、それって……強制、的な奴じゃ…ない、ですか……?」
「当たり前だ」
今度は、ゼフに軽くあしらわれる。
最後にルシファーに助けを求めようと、うるうるとした瞳で彼を見たが、
「頑張っ」
と、とどめを刺された。
観念して紅茶の取っ手に手をかけ程よい温かさになった紅茶を口に運ぶ。
「有難く、御受けさせて頂きます……」
そう言い、紅茶を一口。
「もっと相手を信じなさい」と言っていた天使はどこの色男でしたっけ? と、蜂蜜のように現実、甘くはないと思い知るアルであった。
気を取り直し、長い通路を進んだ先に、白い扉がアルの前に現れた。
その大きさに圧倒されつつ、胸に手を当て深く深呼吸をする。
そして、左右の取っ手に両手で掴み、力のかぎりに押した。分厚い扉はゆっくりと開門していき、ようこそとも言わんばかりに中の光がアルに注がれた。
そこには、多彩に装飾の施された床と、前方には白い全裸の女神像が置かれてあった。その両端に、二階へと続く階段が備えられている。それ以外は特にこれといったものもなく、質素な趣だった。
「………」
辺りを見渡すが、ほかの天使の姿は見えない。
話では、エンジェルと会う前に今期アークに昇格した天使の顔合わせがあると、この大広間に呼ばれたのだが。
厚い扉が閉まり、恐る恐る中心へと足を進める。
ここまでくると部屋を間違えたか、早く来てしまったのかのどちらかだ。
だが、ふと前方に飾られた女神像をよく見てみると、体を隠すように大きな時計を持っていることに気付いた。時間は集合時間である九時を丁度回っている。
やはり、部屋を間違えたのかと思い、出て行こうとしたそのとき。
突如、彼女の左の視界の端から黄色い光線が一直線に飛来してきた。
「………ッ?!」
領土内という事もあり油断していたアルの反応は少し遅れ、そのまま、光線は彼女に直撃した。
室内だというのにも関わらず、辺りには煙が立ち上がる。
「まさか、この程度の攻撃で昇天したなんて言わないですわよね?」
光線の先には、一つの魔法陣を従えた少女が立っていた。
その背中には、四枚の翼が生えている。おそらく、彼女もまたアーク昇格者だろう。
空中に舞った煙が徐々に消え、防御の構えを取ったアルが現れた。
それを確認すると、そのアークは両肩から垂れた金髪の長髪を指でくるくる回しながらにやりと笑う。
「お久しぶりですこと、仲間殺しのゼレル」
………………
…………
……
…
「………え、誰?」
今回は短くてすみませんでした
気付いたら1000pvを超えいました!
皆さんありがとうございます(´;ω;`)
特に、これといった企画は考えおりませんが、これからもアフターカタストロフ、曰く、アフタカをよろしくお願いします




