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馴染み慣れた廊下を進んでいくうちに、ゼフ達は前方から二人の天使が歩いてくることに気が付いた。
「あれって……」
目を凝らしながら、デコラソンが窺おうとすると突然前を行くゼフが足を止めた。前の二人を見るので必死だったデコラソンは、そのままゼフの背中に突っ込んだ。それに気付かず、その後ろからグラシアスも彼の背中にぶつかった。
「うおっ」
思わずグラシアスが声を洩らし、一、二歩後ろへ下がると、右頬を擦りながらデコラソンは再びその二人組を見た。それに、ゼフは軽く一礼した。それにつられ、あとから二人もお辞儀をする。白装束で胸元には金色の装飾、顔には小じわのが生えた天使とその後方で身を収めていた女天使が、そのまま横を通り過ぎていった。それを見計らうかのように、デコラソンとグラシアスは顔を上げその背中を見送った。
「あの首から下げた装具、もしかして」
「ああ、初めてここに配属になったときに一度だけ見たけど……」
「「総司令官だ」」
五つの塔には、それぞれ一人ずつゼフのような監視官が付けられている。そして、それらをまとめる存在が、総司令官である。その五塔をまとめる総司令官が上にいる。
「まさか、こんなところでお目にかかれるなんてな」
「こりゃあ、明日は合戦かな。ね、ゼフ隊長」
デコラソンはそう言うと、ゼフの方を向いた。だが、ゼフは気付いていないのか、総司令官の方を見たまま動こうとしなかった。
「ゼフ隊長?」
疑問に思った彼は、ゼフが見る総司令官の方へ視線を向けるとその先に写っているのが総司令官ではなく、その後ろを優雅に歩く女性だった。
「……あ、もしかしてっ……」
すると、デコラソンは何を思ったのか、口に手を当てほくそ笑んだ。
「ゼフ隊長、ああいう女性がっ……そういうことですか~。よっ、お目が高い!」
「ちらっとみただけだったけど。美女だったし、案外いいスタイルしてたもな」
「胸もっ———こう、」
「おい、やめろよぉ…」
盛り上がる二人を措いておき、ゼフは何も言わずにその女天使を見続けていた。
「……あの、ゼフ隊長。流石に見過ぎじゃあ………」
二人が小声でゼフに言う。だが、ゼフのワインレッドの瞳は、その影が一つの扉の中へ入っていくまで見逃さなかった。
それは数十分前に遡る。
アル達を送り出した門の中では、先に戻ったアレク達が負傷した天使たちを医療班の元へと運んでいた。
「それでは、後は頼みます」
そう言い、アレクはまた次の負傷者を探しに部屋の中を捜索した。すると、その隣に一人の白いローブを着た女性がやって来た。
「ファームル」
門で出会って以来だったので、アレクは安堵の表情を見せた。
「あいつ達、どなった?」
「無事さ、さっき病室に行くのを見た。一人負傷してたが、命に別状はなさそうだった。なにはともあれ、無事でよかったよ」
真っ直ぐ一点を見つめるアレクを横で、ファームルは少し間を空けて話した。
「……そっ。……あいつら、見た目よらずタフ。心配する無駄」
素っ気なくそう告げる彼女は、「先行く」と言い残して先に行ってしまった。
「ありがとう」
聴こえてはいないだろうと思いながら、アレクは一人歩き続けた。
少し行くと、その先で二人並んで誰かと話している姿が目に入った。
何かあったのか、すぐさま二人の元へ急ぐ。
「どうした?」
そう問いかけると、二人組は困った顔でアレクを見た。
「それが……」
男が言う先には、一人の長い金髪を流した天使が顔を膝に埋めしゃがみ込んでいた。体は小刻みに震え、微かに女性のすすり泣く声が聴こえる。
「何があったんだって聞いても、ただこうして何かに怯えているだけで……」
隣に付き添う天使の一人が言う。
「奇跡的だった。外に他に負傷者がいないか探しているときに、魔獣の死体の前で今みたいにしゃがみ込んでいたところを見つけたんだ。きっとほかの仲間はその魔獣に……」
その先は、彼女に気を使ってか話そうとはしなかった。
「……」
その時、彼女がふと顔を上げた。その素顔に、思わず言葉を失った。その容姿はとても艶麗で、その飴色の瞳は見るものすべてを魅了した。
話しかけようとしたその時、背後から誰かが「総司令官だ」という言葉が聞こえた。アレクは振り向くと、三人の部下を連れ白装束に身を包んだ総司令官が現れた。
「おやおや、どうしたのですか?」
「えっと、それが……」
総司令官がそうアレク達に問うと、彼らの奥で一人震える女性が目に入った。
「こんなに震えて、さぞ恐ろしい目に会ったのですね。さ、私と一緒に来なさい」
総司令官はそう言うと、先程までのことが嘘のように女性はゆっくりと立ち上がり、総司令官の後をついて行ってしまった。
「綺麗な天使だったなあ…」
男の一人がそう呟くと、何人かの天使もそれぞれ首を縦に二、三回ほど振った。
「ここなら安全だ」
そう言い、総司令官は女性を一つの部屋に通した。そこはまず目に入ったのがベット、その次に、大きく区切られた窓からは太陽の光が射し、壁には美しい装飾が施されていた。
「それでは、私はこれで……」
男ははそう言って部屋を出ようとした途端、背中に柔らかいものが当たる感覚を覚えた。
突然のことに、背筋が伸びる。
「……一人は、イヤ」
背中に顔を埋め、女性は言った。
「だが、私は…っ」
振り払うように、男は女性と対面するが彼女の肉付きのいい腕が彼の背中に回された。
「何もしなくていいんです。ただ、少しの間側にいて下さい」
こちらを向く女の顔とその下の豊満な胸元が自然と目に入る。
本能に逆らうように、男も女を抱きしめた。
「わ、わかった。だが、少しだぞ? 落ち着いたら、すぐに私は戻るからな」
承諾してくれた彼にお礼を言うように、女はまた総司令官を強く抱きしめた。そして、
「嬉しいです。ありがとうございます、総司令官様……」
そう答える女性の口角は、見えないところでひどく上がっていた。




