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更新遅れてすみませんでした!
ゼフの仕事は、五つ存在する門の狭間にある二番目の塔からの敵の監視、通達である。
魔獣の群れがやんだのを見て、ゼフは一息ついた。すると、二人の男が息ぴったりにゼフに言った。
「「今日も、お仕事お疲れ様です! ゼフ隊長!!」」
デコラソンとグラシアスは、はにかんだ笑顔でゼフに言った。
「お茶出しましょうか? あ、お菓子もありますよっ!」
クリーム色の短髪をしたデコラソンがそう言い、彼にお菓子の沢山入ったバスケットを差し出した。
「肩揉みましょうか! ずっと座ってましたもんね、お疲れでしょう」
レモン色のストレート髪をしたグラシアスは、陽気そうにゼフの肩を揉む。
その後も、二人はゼフ隊長に対し気の利くものを次々と上げていき「「ゼフ隊長ゼフ隊長ゼフ隊長ゼフ隊長ゼフ隊長ゼフ隊長ゼフ隊長ゼフ隊長……!」」と部屋の中はその名で詰め詰めになろうとしていた。
そんな彼らに、ゼフがついに口を開ける。
「お前ら…」
「「はい、なんでしょう!!」」
「少し黙ってろ」
魔獣の進行が途切れたことが、彼らの今日の仕事の終了を指していた。長い螺旋階段を下り廊下へ出ると、その横に飾られたステンドグラスからの光が大理石の床に反射し、その美しい装飾をより鮮明に映し出していた。そこを歩いて行くと、ゼフの後ろにつくグラシアスとデコラソンが今日の仕事の感想を話していた。
「それにしても今日は少なかったなあ、百匹いなかったんじゃないか?」
「だな、もしかしたら悪魔たちもついに観念したのかもなっ」
賑やかそうに話す二人に、前を歩きながらゼフが重く呟いた。
「……だといいがな」
「……え?」
疑問に思う彼らに、足を止めることなくゼフは続ける。
「今日だけじゃないだろ、敵の戦意が感じられなかったことは。これまでだっていくらかはこんなことがあった。前線を顔を出さなかったこともあった。」
「ああ、その時は参りましたよね。もしかしたら、油断したところを一斉に突撃に来るんじゃないかって、結局その日はやってこなかったけど」
「何かが少なくとも、確かに起ころうとしている」
「また~、そうやって俺たちのこと脅かすんですか。やめてくださいよ、俺そういうの信じちゃうタイプなんですから」
とほほといった様子で、グラシアスはゼフのしゅっと引き締まった背中を見て言った。だが、ゼフの口調は真剣だった。
「信じていろ。少なくともそれがお前らの命を長くも短くもすることになる。」
その小柄な、それでいてどこか大きなその背中の後ろを追いながら二人は息を呑んだ。
「……俺たちが今まで塔の中で見てきたものはなんだ?」
突然の問いかけに戸惑うも、疑問符をつけながら二人は互いの顔を見合い言った。
「……魔族」
「そこに悪魔はいたか?」
「……いない、」
「そうだ、いたとしても魔獣が大半を占めていた。それはほかの塔の奴らからも同様の報告がきている。これが、どういう意味がわかるか?」
二人して首を傾ける様子に、ゼフは深い溜息をついた。
「本命が来てねえんだよ、全く。悪魔が魔獣に頼って前線へ出向かなくなって二年だ。もう二年は経ってるんだ。それもここ最近では低級魔獣ばかりだ。しかも、一晩中続いていた筈の攻防戦も今では正午を過ぎるかどうか。まず、魔獣が自らここへ喧嘩を売りに来る自体おかしな話だ」
「……それって、誰かが魔獣を操ってるってことですか?」
「魔獣って、すごい凶暴じゃなかったでしたっけ。それを操るって」
「不可能なことじゃない。現にそういう種族が俺たちの側にもいる。それと同様の能力を持つ種族がいるだけのことだ。こちらとは違って、タチの悪い種族がな」
眉間にしわを寄せ、どこまでも続く廊下をゼフは睨みつけた。
ちょうどその頃、帰還しようとするアル達のいる層から一つ上の階層では、先程シオンを狙おうとしていた二つの影がこちらを見下ろしていた。
突然、その一人が堪えきれなくなった笑い声を上げた。子供の特徴的な甲高い笑い声で、ナツェッタ=フィン・スターニズは自らの腹部を抑えた。
「逝った逝った、逝ってしまったわあ。いい気味でざまあ、あなたにとって最高最悪の死に方をご披露していただきありがとうございます! 初めてよあんたに笑わされるのはっ…くっ、くはははははは………ムカつくッ!!」
少女の態度が一変。自分の足元の地を何度も何度も踏み潰した。伸びた金色の髪を両脇に束ね、どこか怪しく光る緑色の瞳。特徴的な赤い大きなリボンの付いた黒い軍服のようなものを着用し、その下には膝より上の赤いラインの入った黒のスカートという出で立ちだった。
その周りには、彼女達に敗れたのであろう五体の天使がナツェッタが鎮座していたものも含め絶命していた。
「なに笑わせてんのよッ?! ああアッ! 最後の最期で大嫌いな奴にウケた自分がムカつく! こんなにも嬉しいことにムカつく! 絶対笑うことはないと思ってたあいつに笑わさられたのが何よりムカつくっ!」
「………」
地団太を踏むナツェッタに、もう一人の協力者は静かに事の収まりを待った。するとすぐに、平常心を取り戻したナツェッタは髪を横に払った。
「まあいいわ、こうしてもただ私の足裏が痛くなるだけだし。そんなことより…!」
そう言い立ち上がると、もう一人の協力者に首を向けた。その瞳は、まるで子供が大好きなおもちゃを見つめる時のようにきらきらと輝いている。
「あのアークとあたし、どっちが強いかしら」
そう言い、再び天使の方へ顔を向ける。それは、獣が珍しいものに興味を示すそれのように思えた。そして、少女は今にも天使達の前に飛んでいってしまう勢いで、天使達をまじまじと凝視している。流石のもう一人もこれには肝を冷やしているようで、
「やめておいたほうがよろしいですよ、見たでしょう適合者です」
とすかさず口を開いた。女性の低い声は大人らしさを醸し出しており、より一層警告の言葉が強く感じられる。その姿は、少女とは全く異なったもので、そこには女性としてのシルエットがあるだけだ。全身は影の如く、背中まで伸びた髪、体を覆うローブさえ黒一色である。
逆に、それを聞いたナツェッタの表情から笑みが消える。
「だからなに? あたしが力で劣ってるって言いたいの? ヘタマイト」
その視線は、獣が獲物を狩るときの眼差しだった。瞬き一つすることなく協力者を睨みつけた。
ヘタマイトと呼ばれた女性は、そんな少女の威嚇に臆することなく殺気を放つ少女に礼儀正しく告げた。
「違います。私は貴女とあのアークでは相性が悪いと言っているのです。それは貴女御自身も分かっているはずだと思っていたのですが……」
数秒という短い間が二人の中で渦巻いた。それを解いたのはナツェッタの方だった。
「……はっ、わかってるわよそんなこと。ただ試してみたいって思っただけ」
「好奇心旺盛なのはいいことですが、程々にしておかないといつか殺されますよ、その性格に」
「あんたこそ一言余計なのよ。煙に変わるより先にあたしのベビーちゃんのおやつにしてあげましょうか?」
そんな言い合いの最中、彼女達に倒された天使の一人が息を吹き返した。一旦話が終わる。
「あら、珍しい。まだ息のある天使がいたなんて」
ナツェッタは何の警戒もなく、その天使に歩み寄った。体が動かないのか、血走った眼球だけを少女に天使は向けた。
「あなた以外の仲間はみんな死んだよ。一人じゃ、応援を呼ぶことも、逃げることも出来ないわね。私は見逃そうとも思わないし生かそうとも考えないし。羽の小ささからして今年から配属されたんじゃない? 運が悪かったわねえ、君」
「お”……」
「?」
「お”前らなんか、お前らなんか…———!」
掠れた声で必死に訴えようとする天使の発言が、突然止まった。なぜなら、天使の視界にあるものが映っていたからだ。それはナツェッタの異常に長く伸びた耳だった。
「な、な”んで……なんでエルフが———」
その耳は、少女がエルフということを意味していた。しかし、エルフとは妖精の一種で、性格は穏やかでなにより争いを好まない種族である。
そんなエルフがなぜ魔族に加担しているのか。
ますます混乱する天使に、瞬間只ならぬ殺気が背中を震わせた。そこには、人の背丈よりも遥かに巨大な一匹の魔獣がいた。青白いたてがみで狼のような姿。口元に大粒の涎を流し、地面に這いつくばる天使に襲い掛かった。
短い悲鳴の後、肉が食いちぎられるような音がした。魔獣の剥きだされた歯と歯の間に助けを求めるように小さな腕がぶら下がる。それが気になるようで、魔獣はもう一口でそれを喉の奥りへと流し込んだ。
それを見送ってか、少女は告白し始める。
「なんで? ……それは、あたしがダークエルフだからよ」




