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アフターカタストロフ  作者: 優
天魔境戦争編
11/33

3

 再び開かれた扉の開閉音に、アーク達の視線が一気に集まった。

 そこに現れたのは、白いローブに身を包んだ若い天使と少し年老いた天使の二体だった。


「どうやら、全員集まっているようだね」


 手前に立つ青髪の若い天使が言うと、アーク達に緊張が走った。

 彼とは階級に違いはない。が、アークの中でも最強と言われる四大天使の一体だ。その名の通り、実力もお墨付きである。


「カイト…」


 「さん、ね」私の呼びかけに、青髪の天使は予測していたかのように接尾語をつけた。

 彼と私は顔馴染みの仲だ。楽観的な性格だが、どんな時でも冷静に物事を運ぶことができる精神の持ち主だ。そして、私にルシファー達のことを紹介したのも彼だ。

 カイトは私を見るや安堵の表情を浮かべ、私の頭にぽんと手を置いた。


「君とはゆっくりと話をしたいけど、まずはこっちの仕事を片付けないとね」


 そう言い頭から手を離すと、私の横を通り過ぎて大広間の中心部へと向かった。

 そのただならぬ存在感に、アーク達は息を呑む。


「知っている者もいるかもしれないが、この場をを持って改めて自己紹介をさせてもらう。私は、アーク階級四大天使の一体、カイトと言う。君達はアークに昇格して今ここにいる。そのことを称え、私と彼から祝いの言葉を設けさせてもらう。まずは皆んな、階級試験合格おめでとう。どうか今回のことを君たちの勇士として、これからも稽古に励んでほしい。君達はこれから、今年エンジェルに昇格した天使達と五体一組の小隊を作ってもらう。各小隊の隊長となり、第一防衛ラインのアザレス支援組と普及組、負傷者の治療組に分かれてもらう。治癒能力に特化したアークは彼についていくこと」


 そう言うと、カイトの後ろにいた年配の男が前に出た。

 その姿に、またしてもアークの中が騒がしくなる。


「わしは(ヴァー)天使(チュズ)階級のタルシュ。彼が言ったように、まずは皆、階級試験合格おめでとう。今回はこんなにも優秀な天使が生まれてわしは嬉しいぞ。これからはアークの名を誇りに思い、この戦に励んでほしい……ちなみに、今なら今年からエンジェルの仲間入りを果たしたわしの孫のフィアンセになってくれる女天使(にょてんし)を募集中だ。詳しくは直接わしに聞いてくれ。以上」


「では別れてくれ、支援組と普及組は私のところに集まるように」


 にんまりと微笑むタルシュの発言を考えさせる暇もなく、カイトが先陣を切ってアーク達に呼びかけた。その言葉に、私を含め一階と二階にいたアーク達がどきどきしながら一斉に行動を開始した。



 カイトの所へ集まったアークは私を含め七体。そして、タルシェの所には残りの五体のアークが集合した。

 カイトのところへはルルーサとシエルと名乗った気に障る奴の姿もある。

 私はこちらに背を向けカイトの説明を聞いているルルーサに、どうして先程あんな真似をしたのか問おうと足を向けることにした。


「ルっ…」


「アル、さんですか?」


 私の問いかけよりも早く、背後からその声は聞こえて来た。声のトーンからして女性だろう。くるりと後ろを振り返ると、自分と同じ背丈くらいのアークがそこにはいた。


「……はあぁ…」


 警戒しながらも返答する。

 クリーム色の髪をしたその少女がそれを聞くと、蕾が開くような笑顔を見せた。

 中性的な顔立ちで、肩まで伸びた水色の髪は彼女自身の青い瞳の左目を隠している。


「私、メアって言うの。貴女と会えて光栄だわ」


「私に?」


 こくりと頷く彼女に、アルは頭の上で疑問符が増えていく。

 確かにこいつは『私に会えて光栄』だと言った。私のことを知っているのであるならばあの噂も知っているはずだ。というかさっき、ルルーサが大声で言っていたから分かっているはずだ。


「貴女のことは知っているわ。『死を呼ぶゼレル』。みんな貴女のことをそう呼んでいる。」


 そう言いながら、メアはアルだけに聞こえるように言った。


「良ければ、私にあの時何があったのか教えてくれない?」


 その表情は真剣にアルのことを見つめていた。

 さっきのこともあり、アルは完全に思い出していた。自らの手の中で息絶えた天使のことを。暗い森の中、二体の天使の乱れた白い羽が赤く染まり、どれが彼女の血でどれがその天使の血のものだったかもわからない。ただ唯一分かっていること、それは彼女のせいでその天使が死んでしまったことだけ。もしあの出来事がなければ、その天使もまたこの場にいたかもしれない———。それが、私が『仲間殺し』と呼ばれると同時に、私が『死を呼ぶゼレル』と呼ばれるようになった所以である。


 もう昔のことだ。


 アルは記憶を振り切るように瞼を閉じると、ばっと見開きメアに返答した。


「貴女に言ってどうなる。慰めでもしてくれるのか? それなら気持ちだけいい、ありがと」


 横目で冷たくあしらった。

 どこの誰ともわからない奴に、今更あの事を語る義理はない。それに、私が起こしたことに変わりはないのだ。

 少し落ち込むメアだったが直ぐさま気持ちを切り替えたらしく、またアルに話しかけてきた。


「ごめんなさい。初対面で馴れ馴れしかったわよね……でも、諦めてないから。あと———」


「—————ちょっと!」


 突然の呼びかけに、メアの発言は遮られた。

 振り向くと、怪訝そうな顔をしてこちらを睨むルルーサがいた。


「先程までの話、聞いていましたこと?」


 偉そうに髪の毛を弄りながら続ける。


「これからエンジェルのいる大聖堂に移動とのことですわ。そこで、今度は支援組と普及組に分かれてほしいとの」


 その言葉に、メアは残り惜しそうにアルを見る。


「そう言えば、あなたは支援組なの?」


「そうだけど」


「私は普及組なの、部署は別れちゃうけど何かあったら相談してほしい」


「……覚えとく」


 そう言うと、メアは他の移動する普及組についていこうと背中越しに、


「どうか、気を付けて」


 と呟くように言った。


「…貴女もね」


 そのまま、普及組と支援組と別れると、タルシェを先頭に普及組と治癒組が大広間を後にした。

 支援組として残ったのは、私とルルーサ、シエルと残り二体のアーク。一体はとても小さく、くりくりした灰色のお目々に水色の髪の毛が前に二本垂れ下がっているのが印象的だ。見た目からは今年のアーク昇格者の中で最年少なのではないだろうか。

 もう一体は、長身で茶色い短髪に瞳をしている。猫背でかったるそうにどこかを見ている瞳の下には少しくまができている。


「なに見てんだ」


 不意にそのアークが重く口を開いた。

 男特有の野太い、殺気だった声に「いや、別に」とおずおずとアルは身を縮こませてしまう。そして、彼の胸元に視線を落とした。


「……?」


 すると、そこには白い毛むくじゃらの物体があった。ぼんぼんか何かのアクセサリーかと最初は思ったが、よく見ているとそれは何か小動物の頭部だということに気付いた。


 ……猫?


 確かに白い毛で覆われた手のひらサイズの子猫が大きくあくびをして、気持ち良さそうに眠りについたのがわかった。


 なんなんだそのギャップは?!


 それは、今年に入って初めての驚きだった。

最後まで読んで下さり有難うございます。

またしても中途半端なところで終わってしまいました。

次回もよかったら読んで下さい。


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