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和風異世界物語~綴り歌~〈久遠編〉  作者: ここば


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退かぬ者たち

港の灯りが、関所の石畳を淡く照らしていた。

潮の匂いと、船材が軋む音がまだ背後に残っている。


一歩、また一歩。

烏丸たちは迷わず前へ出た。


「退け。退かないなら突破する。」


低く短い命令。

それが合図だった。


颯牙、伊吹、薫。

三人は一斉に構え、次の瞬間、それぞれが正面の相手と距離を詰めた。


――ぶつかる。


最初に刃を交えたのは、颯牙と恭弥だった。


乾いた金属音。

互いの得物がぶつかり、反動で二人の足元の石が鳴る。


「……なあ、恭弥。」


刃を押し合いながら、颯牙が低く言った。


「お前、いつからそっち側に立つようになった?」


一瞬、力が緩む。

だがそれは誘いだった。


恭弥はすぐに体を捻り、刃を滑らせて距離を取る。


「お前さ、こんな馬鹿な真似するやつだったか?」

颯牙は肩をすくめる。

「それとも純粋すぎて、外の国に出て、影響受けすぎたか?」


皮肉。

だが、そこに混じるのは、かつて同じ里で同じ志を持った者への困惑だった。


恭弥は、ふっと笑った。


「……何も知らずに、おめでたいな。」


笑みは薄い。

だが、その目は冷えている。


「お前たちは、“見えるもの”しか見てない。」

「久遠の暗部や外の国への非情さを知らず、平穏を守ってきたつもりでいるだけだ。」


言い終わる前に、恭弥は踏み込んだ。

横薙ぎ。

颯牙は反射的に受けるが、重い。


「っ……!」


颯牙の腕に、鈍い衝撃が走る。


恭弥は続けざまに斬り込む。

「私は世界を見ているんだ。どこに何が必要か。何を封じ、何を外に流すかをな。」


「……だから、詞鏡か。」


颯牙は歯を食いしばり、刃を押し返す。


「そんなやり方で、均衡が保てると思ってるのか!」

「思ってるさ。」


恭弥は間合いを詰め、低く言った。


「壊れるよりは、ずっとマシだ。」


二人の刃が、再び激しくぶつかる。

信念と信念が、真正面から噛み合っていた。



一方、少し離れた場所で伊吹と烏丸が対峙していた。


烏丸の構えは低く、重心が安定している。

対する伊吹は、足運びが軽い。石畳を滑るように動く。


「通してもらう。」

烏丸が言い、踏み込んだ。


直線的。

だが、速く、重い。


伊吹は一瞬で距離をずらし、刃を逸らす。


「通せないなー。」


短く、だが揺るぎない声。


「通ろうとするなら、相応の覚悟を持ってもらう必要がある。」


烏丸は舌打ちし、連撃に切り替える。

伊吹はそれを最小限の動きでかわし、時折、鋭い反撃を差し込む。


「ちっ……!」


烏丸の肩口を、浅く掠める。


「お前……只者じゃないな。」


「お褒めにあずかり、光栄だな。」


伊吹は淡々と答え、間合いを詰めた。


すると烏丸が力任せに振り下ろす。


「ここまで来て止められるかよ!」


「……いいや、ここで止める。」


伊吹の声が低くなる。


二人の刃が火花を散らし、石畳に鋭い音が響いた。


少し離れた場所。

薫と影風は、ほとんど言葉を交わさずにぶつかっていた。


影風の動きは静かで、無駄がない。

船上と同じく、周囲を常に意識し、致命に至らない打撃を積み重ねてくる。


薫はそれを、正面から受け止める。


「……守りが甘いな。」


影風が低く言い、薫の脇腹を狙う。


だが、薫は一歩踏み込み、体ごと受けた。


「承知の上だ。」


衝撃。

だが、薫は崩れない。


(俺の役目は、倒すことじゃない。止めることだ。)


影風の動きが、一瞬だけ鈍る。


「……ふん。」


その隙を逃さず、薫は影風の腕を絡め取り、体勢を崩しにかかる。


「ここで抜かせれば、港が混乱する。それだけは、させない。」


影風は低く息を吐き、力で振りほどく。

「全く。どいつもこいつも邪魔ばかりしやがって。」


薫は構え直す。

「いい加減、諦めたらどうだ!」


二人は再び距離を詰め、影のように動き続けた。


関所全体が、戦場になっていた。

金属音、荒い息、踏み鳴らされる石。


だが、颯牙、伊吹、薫。

三人の背中は、一歩も退いていない。


悠理たちは、戦闘に参加するタイミングを計る。

陽路は影風と薫が絡み合う間合いへ、迷いなく割り込んだ。


「二対一だ。」

陽路の剣が、影風の死角を突く。


「……っ!」

影風は舌打ちし、即座に距離を取ろうとしだが、逃げ場は狭い。


薫が一歩踏み込み、退路を塞ぐ。

「もう、抜けられない。」


同時に、悠理の矢が放たれた。

烏丸の足元。

逃走を意識した一瞬を、正確に射抜く。


「……ちっ!」


体勢を崩した烏丸に、伊吹の刃が迫る。

重ねるように、悠理の矢が追いこんだ。


「ここは、通さない。」

悠理の声は静かだが、揺るぎがない。


恭弥の動きも、明らかに鈍っていた。

颯牙の刃に押され、後退を余儀なくされる。


「……囲まれたな。」

恭弥が低く呟く。


「最初からだ。」

颯牙が答える。

「お前たちが港に立った時点でな。」


久遠側が、完全に前へ出る。

数でも、間合いでも、流れでも。


幽淵側は、押され始めていた。


港の灯りの下。

今度は、追い詰められているのは彼らの方だった。



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