表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和風異世界物語~綴り歌~〈久遠編〉  作者: ここば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/132

止まらぬ船、止めたい想い

荒れ残る波の上、二隻の船は並走に近い距離まで詰めていた。


言霊の暴走は封じられたとはいえ、海はまだ完全には静まっていない。

うねりが船底を叩くたび、甲板が軋み、互いの船はわずかに距離を変える。


「追いつかれたか。」


烏丸が、舌打ち混じりに言った。

甲板の縁から、並走するもう一隻を見据える。


「早いな。さすが久遠ってところか。」


「油断するなよ。」


恭弥は短く返した。

視線はすでに、向こうの甲板にある。


遥花、悠理、陽路。

夜と波の中でも、見間違えるはずがない顔ぶれ。


(……来たか。)


胸の奥が、かすかに軋む。

だが、それを表に出す余裕はない。


影風が甲板を見回し、低く指示を出す。

「全員、戦闘配置だ。だが深入りするな。港が近い。」


「了解!」


烏丸、恭弥、幽淵の兵士は散開し、索や手すりを掴みながら体勢を整える。


同時に、向こうの船でも動きがあった。

「もう少し!」

遥花の声が、風を裂いて届く。


二隻の船の距離が、みるみるうちに詰まっていく。

荒れた海の上、互いの甲板が視界に入り、怒号と風切り音が混じり合った。


「止まれッ!」


悠理の声が、嵐を裂くように響いた。

同時に、弓弦が鳴る。


矢は一本ではなかった。

二本、三本、四本――間を置かず、船首へ、舵周りへ、甲板中央へと放たれる。


「チッ!」


烏丸が身を翻し、矢を避ける。

影風も即座に人質と船員を庇う位置へ動いた。


だが、悠理は叫ぶ。


「船を止めないなら、次は船員を狙う!」


その声は脅しではなかった。

冷静で、迷いがない。


「命が惜しければ、船を止めろ!」


船員たちが、息を呑む。


矢は、足元すれすれを掠め、帆柱の根元に突き立つ。

致命傷ではない。

だが、確実に「次」があると分かる精度だった。


「くそ……!」


操舵手の手が震え、舵がわずかにぶれる。


「止めるな!」

影風が怒鳴る。

「港はもう目の前だ!」


「船員さんたち、横付けできる!?」

遥花が叫ぶと、船員たちは必死に操舵する。


「やる気だな。」

烏丸が歯を見せて笑う。


次の瞬間。

ギギ、と木が擦れる音とともに、二隻の船が一瞬、強く近づいた。

船体が、横から強く打たれた。


「来た!」

遥花たちの船が、ぴたりと並ぶ。

「今だ!」


悠理の声。


三人は、ためらいなく跳んだ。


荒れる海の上、甲板と甲板の間を越え、

遥花、陽路、悠理が、同時に敵船へ着地する。


「――ちっ!」


幽淵の兵士たちが構える。

だが、その動きは一瞬、遅れた。

船員を守るため、影風たちが即座に間に入らざるを得なかったからだ。


(数で負けてる)


兵士、烏丸、影風、恭弥。

こちらは三人。

しかも全員が手練れ。


(狙いは勝利じゃない、時間を稼ぐ。)


それだけを胸に刻み、遥花は前へ出た。


烏丸が笑った。


「久遠のお嬢さんか。派手な登場じゃねぇか!」


「茜と詞鏡を返して!」


刃と扇が交わる。


重い。

一撃一撃が、殺しに来ているわけではない。

だが、容赦もない。


遥花は真正面から受けず、流し、いなす。

深追いしない。

勝とうとしない。


ただ、引き留める。


その背後で

「くらえ!」


陽路が踏み込んだ。


影風は舌打ちした。

「面倒なのが来たな……!」


陽路の動きは速く、鋭い。

だが、影風はそれを真正面から受け止める。


互いに、船員の位置を気にしている。


(殺せない)


(殺させない)


その制約が、戦いを歪にしていた。


船首側。

悠理は高所を取ったまま、矢を放ち続けている。


狙うのは、舵、帆綱、船員の足元。

人を動かそうとする者がいれば、その前に矢が突き立つ。


「動くな!船を止めろ!」


矢は、あくまで「警告」だ。

だが、確実に恐怖を植え付けていく。


「くそ……!」


幽淵の兵士が悠理に向かって駆ける。


次の瞬間、その足元に矢が刺さった。


「ッ……!」


倒れ込む兵士。


「次は外さない。心臓をやる。」


悠理の声は低く、冷たい。


だが、その視線の端で


(恭弥……)


甲板中央。


恭弥は、詞鏡を封じ終えた後も、動きを止めていた。

視線の先に、遥花がいる。

刃を交え、必死に時間を稼いでいる姿。


(……追いつかれるとは)


胸の奥が、軋む。

だが、今は迷っている場合ではない。


「烏丸!」


恭弥が叫ぶ。

「港まで持たせろ!それでいい!」

そう言うと、船を動かせるため、操舵手の守りに入る。


烏丸は歯を見せて笑った。

「言われなくてもだ!」


その瞬間。

船が、大きく揺れた。

恭弥が悠理からの矢を守るので、船が動き出した。


風は弱まっている。


港は近い。


近すぎる。


(このままじゃ――)


遥花は歯を食いしばる。


時間が足りない。


「陽路!」


叫ぶ。


陽路が一瞬だけ視線を寄こす。


「一緒に船を止めれる?」


遥花は、甲板中央へ踏み込む。

烏丸の一撃を受け流し、その懐へ入る。


「ッ――!」


衝撃。

互いに体勢を崩す。


その隙に、陽路が走った。

舵へ。


「やめろ!!」


影風が叫ぶが、遅い。

悠理が矢で援護し、恭弥の隙を作る。

その一瞬、操舵手をどかし、舵輪を別の方向へ回す。


「舵が……!」


操舵手が悲鳴を上げる。

船が、わずかに進路を乱した。


港が、横へずれる。


その一瞬。

悠理の矢が、帆綱を射抜いた。

帆が、半分落ちる。


「くそぉぉ!」


速度が、落ちる。


完全には止まらない。

だが、致命的な減速。


遥花は、烏丸と距離を取らず、その場に踏みとどまる。


「ここから先は、行かせない!」


烏丸は、目を細めた。

ただ、剣を構える。


その背後で、恭弥が、茜のいる船室の方角を見た。


(……まだだ)


(まだ、終わらせない。)


波は残り、風は唸り、

決着はまだ、先だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ