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和風異世界物語~綴り歌~〈久遠編〉  作者: ここば


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丑三つ時の侵入者

深夜。

里の外縁にある関所は、白い靄に包まれていた。昼間こそ人の往来があったが、今は虫の声すら沈み、まるで世界が一度息を潜めたような静けさが支配している。

その静寂を、影のような気配が滑る。


丑三つ時。


結芽が眠る横を、複数の黒い影が音もなく通り抜けた。

足音も、布擦れもない。ただ、空気の温度だけがわずかに動く。


「……ねぇ、結芽様は大丈夫なの?」


囁くような少女の声。震えてはいないが、緊張が滲んでいる。


「大丈夫だ。眠っているだけだ。」


短く返す男の声。

まるで“眠らされていることを承知している者”の声音だった。


影たちは結芽を確認すると、迷いなく関所の門へ進む。

門の外に出ると、薄闇の波間に三艘の船が停泊しているのが浮かび上がる。


「予定通り……制圧する。」


影のひとりが囁いた次の瞬間、男たちは一斉に身を踊らせるように一艘の船へ飛び移った。


船にいた乗組員たちが驚く暇もない。


「なっ、誰だ――ぐっ!」


刃が閃く。

叫び声は抑えられ、船上で火花の音だけが乾いた夜気に散った。


〜~〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜~~


草木も眠る少し前。

遥花は布団の上で身を起こし、夜の深みに目を凝らしていた。


(……あの時見た鳥。影風の使い獣に似てた。)


昼間の違和感が喉の奥に刺さったまま眠りにつけず、何度も寝返りを打っていた。


やがて、胸のざわつきは耐えられないほど大きくなった。


(……関所に行こう。こんな状態で寝てても意味がない。)


陽路を起こすべきか迷いながら、身支度を整える。

扇を腰に下げ、羽織を肩にかけた瞬間


「……遥花?」


隣で眠っていると思っていた橙子が、半分目を開けてこちらを見つめていた。


「ご、ごめん。起こしちゃった?」


橙子はふっと笑った。


「ううん。緊張して、眠りが浅くなっちゃってね。

 遥花……1人で行くつもりだったんでしょ?」


図星を突かれ、遥花は言葉を詰まらせた。


すると橙子は、迷いのない目で続けた。

「陽路は、必ず連れて行くんだよ。」


「……橙子?」


「遥花が何をしようとしてるのか、大体わかる。

 でも明日の昼、私たちは里を守らなきゃいけない。

 だから私はここに残って体力を回復させる。

 だけどね、何かあったら、すぐに呼んで。」


遥花は、胸が少し熱くなるのを感じた。

橙子の気遣いが染みる。


「……ありがとう。」


遥花は陽路たちが寝ている部屋の戸を静かに開けた。


その瞬間


「——!」


布団が一斉に跳ね起き、

悠理、奏多、陽路が一瞬で臨戦態勢をとった。


遥花はビクリと肩を震わせる。


「ご、ごめん! 起こすつもりじゃなくて……陽路を呼ぼうと……」


陽路が真剣な眼差しで遥花を見つめ、

その後、彼女の装備を一瞥して言った。


「……今から外へ?」


悠理が腕を組み、低く尋ねる。


「今から関所に向かうつもりか?」


遥花は頷いた。


悠理は一瞬考え、そして言い切った。


「俺も行く。奏多、準備を。」


「了解です。」


奏多は素早く支度を整え、陽路も刀を手に立ち上がった。


こうして遥花、陽路、悠理、奏多は、深夜の関所へと向かう。


〜~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


波の音が規則的に響いている。

関所周辺は、静か過ぎるほどに静かだった。


「……何も起きてないみたいだな。」

奏多がほっと息をついた。


しかし次の瞬間、柱にもたれて眠っている結芽の姿が目に入る。


「結芽様……?」


奏多が駆け寄り、身をかがめる。


遥花と悠理も急いで横につく。


「結芽? 結芽!」


何度も呼びかけるが、深い眠りから戻らない。


悠理が結芽の呼吸や脈を確かめ、眉をひそめた。

「……眠りが深すぎる。薬を盛られている可能性が高い」


遥花の心臓が嫌な音を立てて跳ねた。


その時、関所の向こうから、陽路の声が飛ぶ。


「戦闘が起きています!

 船で戦闘が! こちらへ急いでください!」


四人は同時に走り出した。


海門を抜けた瞬間、耳をつんざく怒号が響く。


「ぐあああっ!!」


「来るなっ……ッ!」


一艘の船から、刀と刀が衝突する火花が夜を裂いている。


次の瞬間、船内からひとりの乗組員が吹っ飛ばされ、遥花たちの足元へ転がった。


「っ……!」


遥花は反射的に駆け寄り、船内を覗いた。


そこでは、複数の黒い影と乗組員たちが激しく斬り結んでいる。


その奥に茜の姿があった。

驚愕で胸が締めつけられ、遥花の口が勝手に叫ぶ。


「——茜!!」


茜もこちらを見た。

驚いたように目を見開き、口を開こうと——


その一瞬が、すべてを変えた。


黒い影、烏丸が素早く船外へでてきた。

彼と共に幽淵の兵士が飛び出し、遥花たちと対峙する。


烏丸は月明かりに照らされた顔をしかめ、舌打ちした。


「……ちっ。

 本当にしつこいな、お前たちは。」


その声音は、心底苛立っていた。


遥花は扇を持ち、一歩前に出る。

悠理も、陽路も、奏多も構え、戦いの気配が一気に膨れ上がる。


海はうねり、夜風が鋭い潮の匂いを運んだ。


そして——

丑三つ時の海辺で、戦闘が始まった。


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