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和風異世界物語~綴り歌~〈久遠編〉  作者: ここば


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再会の館、潜入の関所

日が沈み始め、建物の影が濃く沈む。

昼間の喧騒がゆっくりと引いていく一方で、綴る者たちの緊張は少しも緩まない。

敵は動いていないように見えて、その実どこに潜んでいるか分からない、そんな緊張の夜だった。


長老の館、今は綴る者たちの臨時本部となっている大広間。

そこへ先に合流していた遥花、陽路、橙子、蓮、恭弥が待機していた。


障子の向こうで足音が止まり、次いで扉が開く。


「ただいま戻りました!」


透真の声が響き、結芽、翔綺がそれに続く。

三人とも疲労はあったが、外傷はなく無事だった。


一歩部屋に踏み込んだ結芽の視線が、そこに立つ青年へ吸い寄せられる。

銀白の髪に包帯、どこか申し訳なさそうな目に細縁の眼鏡。

恭弥だ。


「……き、恭弥……?」


かすれた声が漏れたかと思うと、次の瞬間、結芽は駆け出していた。


「恭弥っ!」


涙が一気に頬を伝う。

結芽の腕が恭弥の胸元に飛び込み、彼は驚きつつも受け止める。


「ゆ、結芽……?」


「生きてて……生きててよかった……! 心配で、ずっと……ずっと……!」

泣き声が震え、肩が揺れる。


恭弥は不器用に手を伸ばし、結芽の背に触れた。

「……悪かった。心配、させた。」


その短い言葉には、深い悔恨と安堵が滲んでいた。


橙子はすでに鼻をすすり、遥花は小さく笑みをこぼす。

「ほんと……よかった……」

「この二人が再会できないままなんて、考えられなかったわ……」


透真と翔綺も胸を撫で下ろす。


「いやあ、ほんと、無事でよかったですよ恭弥。」

「無事で安心したよ。」


結芽はしばらく泣き止まず、恭弥は苦笑しつつもその頭を静かに撫で続けた。


ようやく落ち着いたところで、煌志が口を開く。


「恭弥が無事で何より。だがまだ油断できん。

今夜は情報整理と警戒に徹する。休める者から休め。見張りは予定通り交代制で。」


その声に皆が頷き、再び気持ちを引き締めた。


同じ頃、海側の関所は昼間以上に静まり返っていた。

波の音だけが規則的に響き、その外に広がる闇は底知れない。


入国受付は夕方で締め切っている。

しかし、敵が深夜に紛れてくる可能性は排除できない。


ゆえに、弓を持った悠理、刀を帯びた奏多、そして緊張した面持ちの兵士たちが、灯りを最小限にして見張りに立っていた。


「……静かですね。」

奏多が呟く。


「静かなほど怖い。闇に紛れられたら、船が接岸したことさえ分からん。」

悠理は海を見つめたまま、声を潜める。

「でも、やれることはやってる。絶対に見逃さない。」


潮風が冷たく吹きつけ、灯りが揺れた。


そこへ巡回から戻った兵士が息を吐きながら報告する。

「異常ありません。海上も問題なし。」


悠理は小さく頷いた。


「引き続き。今日は絶対に気を抜くな。」


緊張は、夜が深まるほど濃くなっていった。


その頃、影風と、同行してきた身重の女性妊婦、柚葉ゆずはは、国内関所の待機所で順番を待っていた。


旅人が多い篝火では、非常事態でも待機所は人で詰まっている。

だが柚葉は、長旅の疲れと冷え込みのせいか、明らかにぐったりしていた。


影風は、何度も不安そうに隣の彼女をのぞき込んだ。


「……柚葉、大丈夫か」


「だい、じょうぶ……です。すみませ……」


そう言った矢先、柚葉は急に大きく息を呑み、身体を折り曲げるようにして腹を押さえた。


「っ……!」


「柚葉! 誰か、兵を――!」


影風が立ち上がり声を上げた時、ちょうど通路を煌志が兵士に案内されながら通りかかった。

恭弥の件で急いで関所に呼ばれた帰りだった。


その直後、柚葉の苦しむ声が耳に届いた。


煌志は即座に振り向き、鋭い視線で状況を把握する。

「妊婦が急変したのか。……おい、担架を用意しろ!」


兵士が駆けていく。その間に煌志は柚葉の脈と呼吸を手早く確認した。


「……危ない。すぐに医療所へ運ぶぞ。」

指示を出したあと、煌志は影風に視線を向けた。


「あなたは、この人の夫か?」


影風は一瞬だけ迷った。

本当は違う。だが、旅人の男が妊婦を連れている理由を説明するより、答えは一つのほうが早い。


否定しかけた影風の袖を、柚葉が弱い力で掴んだ。


「……はい。夫……です……」


その声は震えていたが、必死だった。

影風の表情がわずかに揺れる。


煌志は二人を見比べ、頷く。


「ならあなたも一緒に。容体説明のためにも必要だ。」


その言葉で、影風に同行の許可が下りた。


影風は柚葉の手を握り、担架に乗せられた彼女の隣を歩くようにして、医療所へ向かった。


煌志は全く疑っていない。ただの“旅の夫婦”に見えたのだ。


こうして影風は、誰にも怪しまれることなく、封鎖された篝火の里の内部へ入ることに成功したのだった。

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