4話 市内行くって他の県じゃ言わないんだね
土曜日の正午。
世間では一般的に休みの日で学校もない。しかし、そんな休みの日に俺はわざわざ唐島市内まで来ていた。
中学の時までは市内に住んでたけど今は市外に引っ越してるから、普段は電車とか使って市内の学校に通うしかない。そのためここまで来るのはちょっと時間がかかる。
そんなめんどくさい思いをしてまでなぜ休みの日にも関わらず市内に来ているのか?それは…
「遅かったわね。待ちくたびれたわ」
「別に普通だろ」
この女に呼び出されたから。
約束してた5分前に着いたのにこの言い草である。
「家近いんだもん。だからすぐ着くの」
「この市内民め…」
こっちは何十分かけてここまで来たと思ってるんだ...
昨日、金曜に学校が終わり帰宅して、今日の夜から土日にかけての自由な時間に胸を踊らせるという全人類にとって最もかけがえのない時間に突如として連絡を寄越してきた翼。
『明日、市内まで来てちょうだい』
めんどくさいから断ろうかと思ったけど、コンクールの作品のためのロケハンとのことで仕方なく出てくることにした。で、正午に唐島市民スタジアム前に集合することになった。
今日はプロ野球のカーピオズの試合があるため周辺はレプリカユニフォーム姿の人がちらほらと見え始めていた。
「もしかして結構待ったか?」
「ええ、1時か.....いや、別に待ってない、わよ?」
「何?1時間待った?」
「だから待ってないって言ってるでしょ!」
「いや、でもさっき」
「っ...ほら、今日カーピオズの先発ピッチャーってオトコギ・クロダでしょ?あたしファンだからちょっと早めに来て見とこうかと思ってただけよ!」
「お前野球とか見てたっけ?」
「そりゃ、見るわよ、少しは」
とは言っているものの、態度の端々からニワカ臭がする翼。
そもそもね、翼さん、選手の姿見ようにもまだスタジアムのゲート開いてませんよ??
「ああ、もう!そんな細かいことはどうでもいいからさっさと行くわよ!」
「おい、俺を置いてさっさと行くなって!」
まぁ、そこを突っ込んだら突っ込んだでめんどくさそうなため黙っておくことにした。
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目的地がスタジアムの道路の反対側にあるため、そこに出るために地下街を翼と移動する。地下街にはカフェや広場などがあり、既に多くの人で賑わっていた。アストロズラインという市内を走る何があっても止まらないことで有名なモノレールの駅も地下街に併設されており、今日も行き交う人々を休むことなく目的地まで送っているようであった。
「それで、今日は何の用?またパシリに使うつもり?」
「違う!てかそのこと怒ってんの?」
「いや、別に?」
「昨日も言ったでしょ。作品に出すの決めたからそれのロケハンって」
「それ来週学校終わった後とかじゃダメだったん?」
「さっさと行って制作に入りたいの。それで今日になったのよ、誰かさんが無視して帰るせいで」
「そりゃあんな雑な扱い方されたら帰りたくもなる」
「やっぱ怒ってるじゃない」
「だから怒ってないって」
怒ってるのはどちらかというとあなたの方に見えますが。
それにしてもめんどくさい...
こんなやり取りを見て名取先輩は何が楽しいんだ…?
地下街を抜けて道路の反対側に出た俺達。
目的の場所は地上に出てすぐのところにあった。
「作品に出すやつって…これか?」
「そう、これ」
そう言って翼が指し示したモノは、半壊したドーム型の建造物だった。
唐島市内のほぼ中心に位置しているこのドーム。元々は物産陳列館として建てられたものだが、戦争の影響で半壊し、以降そのままの形で残されている。二度と同じような悲劇が起こらないようにとの願いで世界遺産にも登録されている。
そのため、今日も外国人観光客などで多くの人がドームに訪れていた。
「…あんまり目の前に立ちたくないんだよな」
「はぁ?いきなりなに?喧嘩売ってんの?」
「いや、お前の目の前じゃなくてこのドームの話!なんか負のオーラが漂ってるというか」
「あー、それは…あたしにもわかるわ…」
そう、なんか腹の底が冷えるような感覚に襲われるというか…
すぐにここから立ち去りたくなるような気持ちになる。
子供の頃これを見た時はすごく怖いと感じたっけなぁ。
今でも夜には近寄りたくない。そんな場所だ。
ちなみにドームの敷地内に入ったらブザーが鳴って通報されるみたいだからみんな入らないようにね。リアルでも。
「あ、猫がいるわよ」
「ほんとだ。ドームの敷地内に入ったらダメだぞー」
敷地内には猫の姿が。どうやら動物は立ち入り自由のようだ。
「それにしても、なかなかに重いテーマだな」
「仕方ないじゃない。コンクールのテーマに設定されてるんだから」
「テーマなら他にもあるだろ?」
「いや、これにしたいの」
謎のこだわりを見せる翼さん。こいつ戦争関連にそんな思い入れあったか?多分なかっただろうけど。
「ジュンに負けたくないからよ」
「はぁ?俺に?」
何故かいきなり俺の名前を出てきた。俺コンクール出ないのに。
「ちょっと何言ってるかわかんない」
「なんで何言ってるかわかんないのよ!」
いや、ほんとわかんないんだよこっちは。まるで某お笑いコンビのようなやり取りになってるし。
「…去年の文化祭、唐島での戦争をテーマに絵を展示するってのをやったでしょ?」
「ああ、やったな。なんか無駄に話題になったよなアレ」
〇の櫻〇君がキャスターの全国ニュースの取材まで来てたからな。何かと話題になってたっけ。
「それであんたの絵、キャスターの人にすごい褒められてたじゃない。正直悔しかったのよ」
あれ?みんなの絵を取材してたから別に褒められたのは俺だけじゃないはずだけど…翼は何も言われなかったのか?
「そんなに国民的アイドルに褒められたかったのか?」
「…..どうしていつもそう斜め上の方向に行くのかしらあんたは」
「女子なら櫻〇君に褒められたら嬉しいんじゃないのか?」
「もういい!とにかく!このドームを描くから!」
最終的に何故か翼が怒り出し、この話は終わった。やっぱりちょっと何言ってるかわかんない。
「それで、どんな感じにするかは決めてんの?」
「それを今から考えるからわざわざここまで来たのよ。でもそうね、ちょっと景色の中に人物を描きたいと思ってるのよ」
「あー、それで俺も呼んだわけ?」
「そう、あんたこれくらいしか役に立ちそうにないでしょ?」
「サラッと傷つくこと言うのやめてよ?」
仕方ない。あの日翼に絵を貶された後、何度か練習してみたが、描いてもは〇しの〇ンみたいに『だめじゃ〜!』と叫んでビリビリに破きたくなるのがオチであった。破ってはないけど。
あれ、みんなコラを楽しむのもいいけど真面目に読んでもみてね。
「というわけでさ、ちょっと練習したいから軽くモデルして。そこ立ってるだけでいいから」
「まぁいいけどさ」
それから翼はスケッチブックを広げて作業を始めた。
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「んー、なんか納得いかないわね…」
描き始めて数十分後。
なにやら一人でブツブツ呟きながら作業を続ける翼。怖いから呟くのはツイッターだけにしてほしいものだ。
「どうかしたか?」
「ちょっと!モデルが動かない!」
「疲れたから休憩させて」
数十分同じ格好をするのは地味に疲れる。しかも今夏だし。俺達がいるのは日陰だからまぁいいんだけど。
「あ、確かに意外と時間経ってる」
身につけている腕時計を見て時間を確認する翼。
「で、どうかしたのか?」
「なんか上手く描けてない気がする…」
「見してみろよ」
翼が描いている途中の絵を覗いてみる。といってもまだラフ画のような段階だけど。
「別にそんな風には感じないけど。ドームも人物もいい感じに描けてるんじゃない?」
「でも、上手く説明できないんだけど…なんか違うのよね…」
俺から見て特に変だと思うような箇所はない。
だけど翼はまるで無能なディレクターのようなことを言い、どこか出来に納得していない様子だった。
「そうだジュン、今度はあんたが描いてみてよ」
「俺が?これと同じように?」
「そう、人物のモデルはあたしがやるから。ドームの方はどうせ下手だから妥協してあげる」
「どうせ下手って…」
いや、まぁ上手くは描けないだろうから否定はできないけども。もっと言い方をだな…
「じゃあ描いてみるからさっき俺がいたとこに立ってて」
というわけで、スケッチブックは翼のを借りて、今度は翼をモデルにして俺が描くことに。
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「よし、できた。おーい翼、できたぞー」
数十分後。
とりあえずラフが出来上がったため、翼を呼び寄せる。
「いい加減待ちくたびれたわよ」
「はいはい、すみませんね」
毒を吐きながら戻ってくる翼。
「で、どんな感じ---はぁ…」
「なぜため息???」
俺の絵を見た瞬間呆れたような感心したようなよくわからないため息をつかれた。どちらにせよいきなりため息なんて失礼なやつだ。
「あんたの絵ってほんとよくわからないって思っただけよ」
「はぁ」
よくわからないのは俺の方なのだけど。
「ドームはやっぱり下手なのに、人物はあたしが思い描いてる通りに描けてるからよ。ちょっとあたしのと比べてみて」
「お、おう」
「どう思う?こうやって比較して、何かこうした方がいいとかある?」
「んー、そうだな」
ここから俺と翼の作品のディスカッションが始まった。
それよりこの小説、意地でも絵については詳しくは描かないんだな…
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それから意見交換をしつつ、もう1回描き直したり、修正したりしているうちに、気づけばもう少し日が傾きつつあった。
「だいたい固まったわ。こんな感じでやってみる」
「そうだな。にしても、結構真面目に長いこと作業しちゃったな」
「逆に真面目にしてくれないと困る---ってちょっと!」
「え?何だよ?」
いきなり大きな声を出したかと思うと突き飛ばされた。バイオレンス。
「近い!もっと間隔開けろ!」
「それ今頃言うのかよ!?」
いつの間にか二人密着して作業をしてしまっていた。俺は別に気にしてなかったけど、翼は今頃になってそれに気づいたらしい。
「いや、意見交換とかしてると自然とそうなっちゃうだろ?」
「少しは遠慮しなさいよこのバカ!」
顔を赤くして怒りはじめた。もう今まで何回見ただろうこの光景。やっぱりめんどくさい。
「じゃ、今日のところはこれで終了ってことでいいか?」
「そうね、後は自分でやってみるから」
「そっか、なら約束通り、出すもん出してもらおうか」
「っ…仕方ないわね」
翼は渋々ながら俺の要求に応じる。
そう、わざわざ休みの日を使ってまで付き合ったんだ。このままタダで帰すわけにはいかない…
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「うん、ここのケーキやっぱ美味いな〜」
ドームから少し場所を移動。
地元のプロサッカーチームのメインスポンサーにもなっている家電量販店のすぐ近くにあるカフェに俺たちは来ていた。
1階がパン屋で2階がカフェとなっているこの建物は、元々は銀行で、ドームと同様に戦争の時代から存在しており、ドームと同じく戦争で破壊された歴史のある建物だった。
ただあちらと違いこちらは「唐島の再生復興」の意味を込めて、修復してこのように店舗として再利用される形となり現在に至っている。
そして今、俺は目の前にあるフォンダンショコラを一口食したところであった。
「ホントにいいの?こんな美味しいの奢ってもらっちゃって?」
「その言い方ムカつく。あんたが言い始めたんじゃない」
昨日翼から連絡があった時、急な連絡で普通に引き受けるのも癪だっため、ケーキで手を打とうと送ったところ、渋々ながら引き受けてくれたため今に至っている。
いや、女の子に奢らせるなんてどうなんだと思うかもしれないが、そこは突っ込まないでおいて欲しい…
「ありがとう。ここの店結構気に入ってるからな〜」
「まぁ、別にそこまで高くないからいいけど」
「…..うまいか?チーズケーキ?」
「あげないわよ?」
「いや、別に要求はしてないが」
そこはどうぞ独り占めしてください翼さん。
「…..その、こっちこそ、ありが、とう」
「ん?」
「っ…..今日の作業のおかげでだいぶ構想とか決められたからお礼言ってんの!」
「お、おう、そうか」
そんな勢いよく言うことか?いや…まさか…
「………….」
「な、何よ」
「もしかしてついにデレ期みたいなのが翼にも---」
「◯ね」
そう言ってテーブルの下で足を踏まれた。いってぇ。
「バカ言ってないでさっさと食べなさい!」
「っ….はいはい」
痛みに耐えつつケーキの続きに戻ろうとすると…
「……はいっ」
「え?」
チーズケーキを俺の皿に一切れ乗せてきた。
「………やっぱりデレ期」
「違う!……踏んだからお詫びよ」
「そんなことするくらいなら最初から踏むなよ」
「うっさい」
「まぁいいや、いいなら貰うぞ。ありがとう」
翼が乗せてきたチーズケーキ一切れをを一口で食す。うん、チーズが濃厚で美味い。
「じゃあ俺のも食えよ」
こういうときはちゃんと返礼せねばなるまい。今度は俺のフォンダンショコラが乗った皿を差し出す。が、しかし。
「いらないわよ。ただのお詫びなんだし」
即断りやがった。つれない。
「人の返礼は素直に受け取るべきだと思うけどナ〜」
「……………」
翼はこちらを上目遣いで睨みつつ少し間を開けると、
「…貰っておくわ」
ケーキを切り分けて口に運んだ。
「美味いか?」
「うん」
そう言う翼は何か少し顔が赤い。
「どうかしたか?」
「いえ、…..わかってないならいい」
「どういうこ…..あっ」
そういえば俺も翼も『自分が食べた』ケーキをお互い口にしてしまった。
それって所謂……
え、てかそっちからケーキ分てきたよね??
自然にやっちゃって後から気づいちゃったパターン???
「いや、そこまで気にする、か?」
「別に」
翼さんがしおらしくなった上に、エ◯◯様のような返答しかできなくなってる…
そんなこんなでこのカフェでのケーキタイムは、
なんだかぎこちない雰囲気になって終わってしまったのであった。
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「もうこんな時間かー」
携帯で時間を確認すると時刻はもう18時前頃となっていた。
「じゃ、用件も済んだしそろそろ解散にするか」
「そうね、今日帰ってからもまた作業してみるわ」
今日のロケハンを元に翼はコンクールの絵の制作作業を続けるようだ。
「俺の方こそ今日はありがとな」
「え?」
「なんていうかな、やっぱり絵について色々話したり、作業したりするのは楽しいなって」
「作業するのはあたしだし、あんたはサポート役でしょ」
「そうだけど、なんだかんだ今日は楽しめた」
今までも、中学の時から翼とは意見交換したりして作業することも何度かあった。
そういった時間もそれほど悪いものではなかったような気もする。
まぁ、その強気でめんどくさいとこをもう少しどうにかしてくれれば、こちらももう少し付き合いやすいのだが。
「よし、じゃあ俺はこの辺で」
店を出てから二人で歩いて路面電車の駅の近くまで来た。俺はこれに乗って唐島駅まで戻ればいい。
翼は市内に住んでいるからここから歩いて帰れる。だからこの辺でお別れだろうと思っていたところ…..
「ジュン!」
突然呼び止められた。
「何?」
見ると翼がとても何か言いたげな様子でこちらを見ていた。
「あたしも今日は、楽しかった、から」
「お、おう。そうか」
楽しめたなら良い作品が期待できそうで何よりだ。てか、なんか上からだな俺…
「実は、ね」
「あん?」
「あたし---」
「やばいやばい試合始まっちゃうぅぅぅぅぅ!!!!!」
また翼が何か言いかけた途端。
前から大きな声を出しながら女の子が走ってきた。
そして俺とぶつかりそうになった。おい、ちゃんと前見て走ろうよ。
「あぁ、すみませ---って」
「あれ?福住さんじゃん」
その俺とぶつかりそうになった女の子は、俺たちと同じ本川高校美術部の後輩、福住千夏さんだった。
「多治見先輩?…と翼先輩?」
「こんばんは。千夏ちゃん」
そう言って福住さんに挨拶をする翼。
いや、ちょっと待て。お前俺に対する対応と違いすぎない??なんか少し柔らかい顔してるね??
「こんばんは。お二人はどうしてここに?もしかしてデートですか?」
「いや、コンクールの作品作りの手伝いしてただけだよ」
変な誤解をされそうだったためすぐに訂正しておく。
隣の翼を横目で見ると、さっきとは打って変わって物凄く怖い顔をしてこっちを見ていたのは気のせいということにしておこう…
いや、今日ちゃんと手伝ってあげたじゃん?そんな嫌な顔しないでよぅ。
「福住さんの方は…もしかして今から野球?もうすぐ試合だよね?」
「はい、今から行くとこなんですけどちょっと行くのが遅れちゃいまして…」
今日の福住さんの格好は唐島のプロ野球チーム、カーピオズのレプリカユニフォームにキャップ、カンフーバットを首から下げているといういかにも応援に行きますといった格好だ。
ちなみにユニフォームには15と書かれている。カーピオズのエース、オトコギ・クロダの番号だ。
「そうだ、よかったらお二人もご一緒しませんか?」
「え?」
「あたし達も?」
「先輩には前にも言ったじゃないですか。市民スタジアムでアイデアを一緒に考えて欲しいって。せっかくなんで今からそれやっちゃいましょうよ!翼先輩も一緒に!」
要は3人でアイデア出しをしようといったところである。
「どうする?俺は別に良いけど」
「あたしも特に予定ないけど…あ、でもチケット大丈夫なの?」
「それは大丈夫です!って嬉しいような悲しいような話なんですけど…」
そう、肝心のカーピオズがあまり強くないせいであの球場はチケットが売り切れることはほぼないため、こんな急な話でも問題なく入れる。サラリーマンが仕事終わりにでもふらっと立ち寄れるような場所だ。
果たしてカーピオズがチケットが取れなくなるくらい強くなって人気が出る日は来るのだろうか…?
「いいよ、俺たちも一緒に行くよ」
「ありがとうございます!そうと決まれば早く行きましょう!」
さっきよりもテンション高めで福住さんは歩き始めた。
あ、そういえば。
「福住さん、今日の先発ってオトコギ・クロダだっけ?」
「いえ、今日はオオバヤシ・カンですよ?」
「そ、そっか」
俺は今朝、翼が言っていたことを思い出していた。
『今日カーピオズの先発ピッチャーってオトコギ・クロダでしょ?あたしファンだから---』
今日の先発ピッチャー全然違うじゃん。
隣の翼を見る。また怖い顔をしてる…
「…残念だったな、オトコギ・クロダが見れなくて。せっかく早くからスタジアム前に---痛え!」
脛に蹴りを入れられた。
いや、お前がニワカでオトコギ・クロダしか知らないのが悪いんじゃん…




