SS:こうして二人は本当の夫婦になる(カイオ視点)
「カイオ、大好き」
ルシアはそう言って俺に抱きついてきた。目は潤んで涙が溢れそうだ。
「俺も、ルシアが大好きだ」
その言葉を何度も口にするのは照れてしまう。俺はルシアの口を自身の唇で塞いだ。
ルシアの心は本当に真っ白だった。それだからこそ、思った以上に彼女の順応性は高い。様々な初めての経験を素直に受け入れて楽しそうにしている。そして、ちょっと得意そうにルシアは俺にそのことを報告するのだった。
誰も足を踏み入れたことがない高い雪山に俺が足跡をつけていく。そんな感覚が俺を夢中にさせる。不可侵の清らかなものを汚す背徳感と、俺だけのものにした達成感が俺を酔わせるのだ。
俺は言葉の代わりにルシアの長い髪の毛をやさしく撫でた。そして、その亜麻色の髪を一筋手にとってキスをする。
ルシアは歴代最高の聖女だ。国のために十六年間も聖なる力を捧げてきた偉大な女性なのだ。そんな彼女が俺の腕の中で幼子のように微笑んでいる。長年屋内で暮らしていたためか、真っ白な肌がほんのりと朱に染まっていた。
ルシアを幸せにできる。それは俺にとっても幸せなことで、これが夫婦になるということなのだと実感する。
「大丈夫。思っていたほど痛くなかったから」
それは嘘だろう。ルシアは神殿で殆ど痛みを経験していない。そのため痛みにはかなり弱いのだ。
俺の妻はどこまでも健気だった。
結婚休暇明け、俺はルシアと一緒に出勤した。ルシアの聖なる力がどうなっているか調べてもらうためだ。
本部棟の会議室に呼ばれた神官は、俺たちを見て意味深に微笑んでいる。かなり恥ずかしいが、ルシアはなぜか得意げだ。おそらく、神聖な儀式を済ませたとでも思っているのだろう。
「聖女ルシア様の聖なる力は、衰えるどころか、むしろ増えていますね。全くもって驚きです。とにかく、現状の業務である竜騎士の武器や装備、竜騎士団所有の対空投球機の銀球への祝福、それに、町や村へ配布する銀の柵や大弓の矢への祝福には支障がありませんので、ルシア様には引き続き竜騎士団専属の聖女様として勤務していただきましょう」
驚くべきことに、ルシアは聖なる力を失ってはいなかった。
微笑んで俺を見上げるルシアは、男を知ってもなお清らかなようだ。それが嬉しくもあり、最高の聖女を堕せなかったことが少し残念だった。




