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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
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黄色と緑色(10)

しんとした空に太陽が、少し控えめに輝いている。

いよいよ冬本番。試験も終わって冬休みも始まる頃だ。


ぼんやりと空を眺めながら、前を歩く二人の肩を叩く。



「おはよ~。」

「よう。」

「おっすテル!昨日大丈夫だったか?」

「え……うん~。」


まっすぐに昨日の「夜」の事を訊いてくる洋次に、

僕はどんな顔をすればいいのか分からなかった。


「昨日が何だよ?」


好奇心旺盛に達也が首を突っ込んでくる。

それに対して洋次が照れもせず僕の顔を見つめながら答える。


「いやーテストでしばらくご無沙汰だったからさ!なあテル!」

「……うん~。」


洋次はニコニコしているけれど、僕にはとっても恥ずかしい事だ。

前回の時から日数自体はそんなに経っていないはずだった、

それでも色々な事があって距離がずっと離れていたように感じる。

その気持ちはきっと僕だけでなく、洋次にもあるのだろう。

横に並んだ時に、洋次の腕と僕の肩がぶつかって、熱が伝わってくる。



「へいへい、まったく……聞くんじゃ無かったぜ。」


達也は意味ありげに深いため息をついた。例の構ってほしいアピールだ。


「どうした達也?お前、なんか暗いぞ。」


昨日の朝は突っ込まなかったそのため息に、洋次がとうとう突っ込んだ。

構ってあげる分だけ、洋次はやっぱり優しい人だ。

……そういえば僕も、ため息の理由を達也に尋ねた気がする。

その時はただの話題合わせだったから、もうその理由は全く覚えてない。


「いや、まあ……俺はどうせぼっちでな……空から突然美少女が降って来ないもんかねえ、まったく。」


その言葉で、少し思い出した。

たしか落合恒太に好きな人が居る事を突き止めたらしく、

勝手にぼっちだと落ち込んでるのだ。

今さら僕たちの関係を見て、勝手に嫉妬のような感情を抱かれても困るけれど。



「おい、もっと周りを見てみろよ!お前の事好きな奴が居るかもしれんぞ?」

「……寝ぼけた事を。」

「いやー分からんぞ?なあ、テル?」


洋次が急にこちらに同意を求めて来たので、僕は困った。

勝手に沼に足を突っ込んだのに、それを僕にも求めてくるなんて。


「……そうかもね~。」


何と返すのが良いか分からず、とりあえず適当な返事をした。

しかしそれが達也には驚いたらしい。


「ん、……何か知ってるのか、テル。」


適当に返事をしただけなのに、グイッとこちらに身を寄せてくる達也。

本当は適当に流したいけれど、実際それに該当する人物が居るのが困る。

――落合恒太。そもそも達也はその好きな人を探ってるわけであり、

それが知れてしまうと少々面倒なことになるのは僕でも分かった。



「彼女出来たら教えろよ!」


と、ここで洋次が一言達也に投げかけた。

……僕は洋次に「落合」が達也を好いている、としか言っていない。

だから洋次は、それが勝手に女であると勘違いしているのだろう。


洋次が僕に目くばせするのを見て、不審げにこちらを見てくる達也。

……変に期待を抱かせても仕方ないので、僕は補足しようとした。


「……洋次、あれ実は~……」

「ん?……あ、もしかして女じゃなくて……」

「……そうだね~。」


付き合いの長い洋次ならば、僕の目線だけで分かる。

そしてそれを言葉にした事で、達也にも意図が伝わった。

達也は落胆にも似た表情で肩をすくめる。


「……ゲイかよ。ゲイにモテてもなあ……」


達也が送った目線の先には、バルガクの校舎が見えて来ていた。

ため息と共に白い息を吐きながら、達也は分かりやすくヘコんでいた。


「まあいいじゃん!考え方変わるかもしれんぞ!?」


洋次が僕の肩を抱き寄せる。

それを見て達也がまたため息。……余計なお世話だ。

達也はしばらく何も答えないまま、うつむきがちに歩いた。

もう朝の別れも近い。

落合恒太の恋愛がうまくいけばいいけれど、と、

大して思っても無い事を考えながら達也の方を見た。


その時達也は突然こちらを見上げて、言った。


「おいテル。まさかそれ、恒太じゃないだろうな?」


一瞬、ほんの一瞬だけ、僕はたじろいだ。

鈍いと思っていた達也が少し鋭さを身に着けていた事にも驚いた。

確かに今までの会話の流れだと、その好意を持つ人は、僕の知り合いであり、

そして必然的に達也のことも知っていなければならなくなる。

さらに、「男」である事。落合恒太が浮かぶのも必然だったのかもしれない。


僕は落合の事を嫌ってはいないし、

こんな些細なやり取りだけで落合の重大な秘密をバラしてはいけないと、

さすがの僕でも自覚はあったから、それは否定した。


前髪が絡む。前髪のうねりを直しながら、僕は笑顔で答える。


「そんなわけないじゃ~ん。」


達也の目線はまっすぐだ。そして、固まっている。

だが、僕の目を見ているのではなさそうだ。

もう少しだけ、上を見ている……前髪?


「え、何かついてる~?」

「……いや……。……そうだよな。まさか恒太がなんて、そんな事あったら、天変地異でも起こる方があり得るぜ。」

「そうだよ~。」


……やはり単純な達也だった。

今まで何度人をこの表情で裏切ったか分からないけれど、

僕はポーカーフェイスで生きてきて、間違いのない自信がある。

達也も納得したようで、ただ変にそわそわしながら、急に無口になった。

それは多分、じゃあ誰が俺のことを好きなんだろうと考えているんだろうと、

やはり浅はかで単純な達也だと、確信していた僕だったが、


……実際にはそうでなかったし、

そして僕にとっては何でもないこの出来事をきっかけに、

これからの二人の関係が少しずつ変わってゆくことを、この時の僕は知らない――。



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