黄色と緑色(8)
○ ○ ○ ○ ○ ○
はい。落合豚です。
達也さんと剛司に呼ばれて三組へやってきました。
今日は水曜日なので、綿華様&神様が居るかもと思ったのですが……。
「会議なんだって。大変らしいじゃん。」
「……あ、そうなんですか……」
別に僕は何も聞いてないのですが、
キョロキョロと辺りを見渡した行為だけで剛司君が答えてくれました。
「恒太テスト出来た?」
「……三教科は上がった気がするんですが、理科で死にました。」
「予想通りじゃん。」
「……クッ。」
あれ、なんか今、鳥類か何か居ました?
と思ったら達也さんでした。何でしょうその微妙な反応は。
「ってか社会の方が難しかったくね?ちょーつらい。」
「そうですか?……とか言って剛司普通に点数良いから信用できない。」
「ククッ。」
……えーっと?達也さんを動物園の方にお返しした方が良いかな?
達也さんどうしたんでしょう。見るからに様子が変ですね。
「……どうしたんですか、達也さん……?」
「ああ、理科は簡単だったろ……」
「……え?」
「…………」
あれ、今ので会話終わりですか?
思わず剛司さんとアイコンタクトを取りました。
<……どうしたんですか達也さん?何かいつも以上に様子が変ですよ。>
<それいつも変って事?失礼じゃね?>
<とにかく変ですよ……上の空と言うか……>
<なんかずっとこーなんだよね。悩み事でもあるんじゃね?>
<……それって触れた方が良いと思いますか?>
<……逆の立場だったら達也はガンガン訊いてくるんじゃん。>
<なるほど納得!>
これ全部アイコンタクトです。ほぼエスパーですよね。怖い怖い。
というわけで、達也さんに直接訊いてみる事にしました。
「……あの、達也さん何か悩んでるんですか?」
「……ん?まあな。まあ悩み事はつきものだよ……まったく。」
意味不明な濁し方でした。答える気はあんまりなさそうです。
人には訊いてくる割に意外と自分はオープンにしない方ですよね。
「ところで恒太よ、クリスマス予定あるか?」
「あはっ!あるわけないです★」
「だよな。俺と剛司でパーティーをやろうって話になってるんだが……」
「……面白そうですね、私で良ければ行きたいです……」
「綿華や上川も誘えば、それなりに賑やかになるだろうと思ってな。予定無いなら……」
正直パーティーの話は剛司さんから聞いてたんですけど、
まあ聞いてなかったことにしておきました。
ところで達也さん硬直しました。何故かこのタイミングで。
「……ああ……パーティー来るか?」
「え……はい、私で良ければ……」
「俺は全然良いが、……いや、お前が良ければだが……」
「はい……私で良ければ……」
「さっきから話進んでなくね?」
剛司さんのツッコミに助けられましたが、一体何なんでしょう。
達也さんと話が通じないというか……今も何かを考え込んでいます。
「あの……大丈夫ですか?何か私が行くことで不都合があるならば……」
「うーむ……ん?いや、何だ?不都合?無いに決まってるだろ、まったく。」
何かおかしい返事でした。
何なんでしょう。何か不都合があるんでしょうか。
ちょっと心配になってきました。
最近、自分から本当に豚の臭いがするような気がするんです。
その臭いのせいでとうとう達也さんに忌み嫌われてしまったんでしょうか。
念入りにお風呂で洗ってはいるのですが、
菊池先輩に「自分臭いですか?」って聞いたら「……いや。」って、
困ったような返事をされました。
むしろそこは「臭い。」とかって貶してくるかと思っていたのに、
なんか普通に考え込んで返事されると非常に不安です。
と、すみません私が臭い話でこんなにスペースを取ってしまいました。
<別に臭くねーじゃん。>
<今本当にその言葉が心強いですはい。>
<達也、なんかやっぱ他に問題を抱えてんじゃね?>
<……嫌われてなかったら良いんですが……>
<多分大丈夫じゃね?>
こういう時にアイコンタクトで剛司さんのフォローはすごく助かります。
会話が途切れたのを見計らって、剛司が口に出して言いました。
「せっかくだから他にも誰か呼ぶ?共通の知り合いとか居たら……」
「……そうですね、僕はそもそも豚しか知り合いが居ないので……」
「恒太病気じゃね?ってか達也、テル君とかどーなの?」
「……ああ、そうだな。お前らが良いなら呼んでみるか。」
前々から剛司さんはテル君の事を結構気に入ってるみたいで、
単純にテル君と仲良くなりたいだけだと思うんですけど、
まあ一応僕と達也さんの共通の知り合いですよね。
今度声を掛けておきましょうか……。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「クリスマスイブ何か予定あるか?」
洋次の質問は非常に唐突なもので、
僕は思わず箸を動かす手を止めてしまった。
「……いや、予定あるなら良いけど、せっかくだからどっか行こうかと思い立ったんだわ。」
「……別に予定無いよ~。」
「そっか!それじゃどっか行こうぜ。」
洋次は素直なまばゆい笑顔を僕に見せた。
自分の中でも、クリスマスイブとクリスマスくらい洋次とゆっくりしたい、
なんて勝手に思っていたものだから、予定は空けていた。
最近カナちゃんのごたごたで、問題は解決してないけれど、
クリスマスイブは一緒に過ごせそうだ。
……カナちゃんと付き合ってた頃のクリスマスはどうだったんだろう。
僕の中に黒い疑念の塊が渦巻く。
「洋次のために空けておいたよ」なんて素直に言えなくて、
本当に自分が嫌になる。
せっかく目の前で洋次が誘ってくれているのに、
カナちゃんの事を拭えないでいる。
その存在が、僕を一瞬たりとも放さず、束縛し、想起させ、不安を植え付ける。
「おい、テル?」
「……ううん、楽しみだね~。」
僕は笑ったけれど、恐怖はこびりついて僕の表情から離れない。
解放を求めても、どこへたどり着く事も無い。
……助けて、と伸ばした右手は、誰にも掴まれないまま。




