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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
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生徒会選挙に神現る(7)


おおむね愚民共にとっては演説などつまらないものだ。

民の気を引きつつそれっぽい事を話すかがカギになってくるであろう。

そういう意味でスピーチ描写は大幅にカットさせて頂こう。

ハッ!書き手が書き疲れるからとかそういう理由では断じてないぞ!


いくつかの部分を解説付きで抜粋しよう。



「先輩方から九年もの間引き継いできた伝統を活かしながらも、新たな要素を取り入れ、常に進化し続ける生徒会を目指します。」

「私はこの学校の事をよく知りませんが……それでも、兄だけは常に正しかった。総希お兄ちゃんを信じます。清き一票をお願いします。」


生徒会長立候補:花園総希と、推薦責任者:花園優希。

前執行部から確固たる信頼を得た、当選最有力候補の大ベテランである。


「経験があるわけでも無いけど、ただみんなの意見を常に尊重できる生徒会でありたい。みんなで作り上げる生徒会にしたいなら、俺に投票してくれ。」

「彼は今年の図書委員学年代表として実に目を見張る働きぶりをしてくれました。その行動力は、自ら生徒会を動かすエネルギーを生み出すでしょう。」


生徒会長立候補:渋谷隼人と、推薦責任者:西条小五郎。

前図書委員長をバックにつけながらも民衆と同じ目線に立てる男だ。


「全てを新たに始めるためには、次なる伝説が必要です。徹底的な改革で、生徒全員が誇りと自覚を持てる学校づくりを始めましょう。」

「トップに立つべき人間に最も必要な要素は、強い信念。彼はそれを持ち、一年五組を驚異の実力でまとめ上げました。彼が「秩序」です。」


生徒会長立候補:渡透と、推薦責任者:佐久馬氷紀。

一年生ながら確かな自信と劣らぬ実力。ただここでは傲慢さは逆効果か。


「城崎の血に間違いはありません。兄の経験を受け継ぎ、兄が出した素晴らしい結果に追いついて見せます。正当な副会長の席には俺が座ります。」

「余の成果を見たならば、仁を信じたまえ。圧倒的にして気高く美しい城崎の血を二番目に引き継いだ男にこそ、執行部の支柱なる副会長職は相応しい。」


副会長立候補:城崎仁と、推薦責任者:城崎勝。

多少上から目線ではあるが、城崎のエリート性は既に証明されている。


「一年間執行部を務めて、総希と比べて多くのものが足りなかった。俺に任せる事に不安はあると思いますが、失敗の数だけ成功に導きたいと思います。」

「……仁お兄様が副会長に相応しいのは理解できます。しかし私は、花園先輩に負ける事を恐れて会長立候補を避けたお兄様より、戦い続ける人を応援したいのです。」


副会長立候補:桜塚翼と、推薦責任者:城崎弓。

城崎弓の「勝負」を信じる気持ちが、圧倒的不利な状況を覆すかもしれない。


「新しい事が好きだっぺ!新設された事務局に入って、庶務をやりたいと思います!まずおれが手足になって、先陣切って突っ走るっぺ!ついてこい!」

「……ただの馬鹿なら寮長には選ばれなかっただろう。こいつにはかゆい所に手が届く変な力がある。是非執行部のみんなと協力し合って欲しい。」


事務局立候補:後藤俊平と、推薦責任者:菊池博明。

寮生全員が慕う男の演説は、溢れんばかりの勢いと目新しさに満ちていた。


「事務局は入ってみるまで仕事が何かは分かりません。私なら、どんな仕事が来ても天性の才能と人一倍の努力で、全て乗り越えてみせるでしょう。」

「目標を設定し、予定を管理し、その経過を並々ならぬペースでたどってきたのをこの選挙期間で目にしました。彼女は最も仕事のできる女性です。」


事務局立候補:月山和佳子と、推薦責任者:花園翔希。

彼女一人だったらただの過大評価だったが、花園が見事にそれをカバーした。


「新しい事を始める時にはパワーが必要です。それは一人の力では決して果たせない。一年の僕だからこそ、新しさに対応出来るし、挑戦し続けたい。」

「彼は言った事を必ず守る人間でした。彼ならばこれからの一年間、きっと退屈なんかさせないでしょう。皆さんの力が必要です!お願いします!」


事務局立候補:神と、推薦責任者:綿華小百合。

神はキャラを捨て本気でぶつかったぞ?綿華君も見事なスピーチだった。


「一人でも多くの人の役に立ちたい。未熟な自分が今出来ること、それが事務局への立候補でした。皆さんと力を合わせてやっていきたいと思います。」

「彼は普段大人しい性格ですが、物事が悪い方向に向かう時、真っ先に止める事の出来る人物です。彼が居る事で、組織は正しく進みます。」


事務局立候補:桜塚紅と、推薦責任者:勝村幸夫。

良いスピーチであったのは勿論だが、勝村が喋る度に宗教団体が……。



抜粋だけでも長くなってしまったものだが、

今回の選挙は例年よりもずっとレベルが高いそうだ。

バルガク十年目を迎える節目のシーズン、

誰が落ちて誰が残ってもおかしくない状況にはなった。


選挙管理委員によって、昼休憩に開票作業が行われ、

帰りのHRでその結果が放送により発表される。

当選者たちはその後すぐに招集される執行部会に出席するのだ。


この一日ばかりは神も神たる自信が少し薄れていたかもしれない、

そう思う程一日が過ぎるのは長く、神はどこか上の空らしかったが、

一方で後は結果を待つのみとなった綿華は気が楽なようで、

時間が迫る度に神の背中を強くたたいてくる。痛いんじゃけど。


事務局の発表は、投票率の高い方から順に名前が呼ばれるはずである。

空が赤い色に変わり始めた頃、全ての授業が終わり、HRが始まった。

そして、テレビ放送が流れる。

映し出されたのは三つ編みの現文化委員長、大垣だった。


「十代目生徒会執行部、本部役員メンバーが選挙の結果により決定しました。これより発表いたします。」


「生徒会長、二年一組、花園総希。」


同じ階の一組の方より歓声が上がる。一方で五組の方からは何の声もない。

これは恐らく、「渡透」初の敗北と言えるのだろう。


「副会長、二年三組、桜塚翼。」


城崎兄が敗れた。同じクラスの城崎弓の元に、何人かの生徒が駆け寄る。

当の本人は、どこか気の抜けた様な、複雑な表情をしていた。

実の兄への宣戦布告――そして、勝ってしまった事への混乱か――?

さて、そんな事より問題は次だ。すべてが、決まる!



「事務局、二年一組、後藤俊平。一年四組、上川大樹。二年三組、月山和佳子。以上五名です。」





「ほらね、神様良かったじゃない!良かったって!」


綿華君の言葉は素直な祝福では無く、励ましも含まれているように感じた。

そう、一位は取れなかったのだ。見事に後藤俊平に持って行かれた。


「良かったな。俺も頑張ったかいがあったぜ。」

「ハロハロー、おめでとさーん。」

「あ、この度は真におめでとうございました、お祝いの言葉とさせて頂き……」


長瀬君、宇野君、落合君。

神が味わった敗北を知らぬ三人からは、素直な祝福の言葉が届いた。


しかし本当の戦いはこれからだ。たった今から始まるのだ。

そう、同じ場所で働き、いずれは後藤俊平に勝たねばならない。

神が頂点に立つためには、何人たりとも神より上に立ってはならないのだ。

ハッ!面白い、必ずくつがえしてみせようぞ。


大きな未来への第一歩を、神は踏み出した。



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