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バルガク。  作者: ホワイト大河
第二章 気づいてしまえば、戻れない
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生徒会選挙に神現る(8)


  ○   ○   ○   ○   ○   ○


桜塚紅は夕焼けを見つめていた。

勝村幸夫が彼に背を向けていて、机に腰掛け本を読んでいる。


「勝村はん!!わてら力を尽くしたんやけど、力になれまへんでして……」

「勝村サマも桜塚クンも良かったヨ。結果にハ異議アリだネ。」


彼の軍団の構成員の二人が飛び込んでくる。

勝村幸夫は動じることなく本を閉じ、立ち上がった。


「……皆さんはよく頑張ってくれました。頑張らねばならなかったのは私です。私のスピーチは……」

「みんな、ごめんね。」


勝村幸夫の言葉を、桜塚紅が遮った。

そして、彼は振り返り、どこか哀しげな笑顔を浮かべた。


「半端な気持ちで執行部に立候補したんだ。何というか、……最初立候補しようとしてた、優希と張り合う気持ちで。……翼、いや兄とはあまり仲が良くないから、入ったとしても迷惑を掛けてたと思うし。」

「……桜塚君はよく頑張っていましたよ。」

「ううん、自分がよく分かってる。それは執行部に入るためじゃなくて、認めてもらおうと思ってただけだから。……これからは背伸びせず頑張るよ。」


彼はその素直な性格で、敵を作る事が少ない。

巻き込まれた、という負の気持ちよりも、応援したいと、自然と思えた。

桜塚紅はこの時、ある人物に恋をしていたから、

それで何とか花園優希を超え、彼に認められようと思っていた。

結果的に花園優希を超える事は出来なかったものの、

その恋はあまりにも突然に、叶う事になるのだった――。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



「よっ大樹!当選おめっとさん!」


普段は立ち寄る事の少ない四階の隅、生徒会室に入って初めて、

早くも中に居た後藤俊平に声を掛けられた。この男が神の当面の敵である。


「ちょっと遅いんじゃないの?私をあんまり待たせないでくれる?」


月山和佳子。一年生がここへ来るのは神といえども勇気が居るのだぞ。

さらに桜塚翼、花園総希。放送で呼ばれたメンバーは既に集っていた。

神が仕方なく急いで席に着くと、桜塚翼が面倒そうに頭を掻きむしる。


「来週の頭に引き継ぎ会、木曜日には新執行部発足だそうだ。それまでには事務局の担当を決めて、各委員長を選抜しないとな!」

「既に候補は絞ってありますよ。」


花園総希がそう言うと、数名の名前が書かれたリストを机の上に並べた。

……既に当選後の事を見越して準備していたのか。


「この中の生徒でも構いませんし、もし他に推薦したい生徒が居れば挙げてもらって構いませんよ。」


そのコピーを受け取りつつ、傍の椅子に着座する。

ふむ……さすがに二年生は全然分からんが、中には一年生の名前もあった。

一番目立つ者としては生活委員長候補に「勝村幸夫」。

ハッ、これは神も納得せざるを得まい。

奴は生活委員会で一年とは思えぬ力を発揮していると聞く。


「……で、私達事務局の割り振りはどうするの?「書記」「会計」「庶務」に担当を割り振るんでしょ?」

「おれ「庶務」!選挙でも言ったけど「庶務」やりたいっぺ!」

「おっと忘れる所だったな!それじゃこれ、頼むぜ。」


桜塚翼は、ざっと百枚を超えるプリントをどさっと机の上に置く。


「俺と総希で考えた、簡単な適性能力検査だ。この書類はつい先月の執行部会で使った決算案の報告書!一枚一枚別の項目に分かれてて、そこに書かれている金額を足したものを下部に記入し、署名した上で、執行部のハンコを押さなければならない。」

「……それと検査とどう関係が?」

「良い質問だな上川。これから後藤、月山、上川の三人に三分時間をやるから、全員バラバラに行動して、出来るだけ多くの枚数を完成させてくれ。その結果によって、誰が何を担当するべきかが簡単に分かるはずだ。」


……そうは思えんが、まあ神は勝負事がそこまで嫌いではない。

まず後藤俊平に勝つためのチャンスが与えられたと思うべきだろう。

ハッ、とにかく受けて立とうではないか。


「それじゃよーい……(省略)……終了!枚数カウントするから待ってくれ。」


小説とは便利なものだ。神の苦労なんぞ一瞬で飛び越せる。

なかなか手が痛む作業だった事は否めないが、これは計算が絡む書類。

悪いが後藤俊平や月山和佳子はそこまで賢くは無かろう。

ハッ、神としたことが歴然とした差をつけてしまったではないか。



「えー上川12枚、月山9枚、後藤17枚だな。枚数は後藤の勝利だ!」

「おっ!やったっぺ!おれの勝ちってか!」


……なん……だと……。

馬鹿な。二年の平均を下回る後藤俊平が神よりも計算が早いなどとは……!

後藤俊平は手を叩いて喜んでいる。こんな猿男にまたもや敗れるというのか。


「始めの十秒で勝負はついていたように思えますよ。」


花園総希が神を見ながら口を開いた。

まるで神の考えている事は全て御見通しといった表情だ。

この男はやはり気に食わんな。神への信仰心が足りぬ。

体型が痩せていて優しい系の男だしね。まったく恋愛対象外でござる。


花園総希は少し目線を反らして続けた。


「事務作業をする際に必要なのは、どの順でやれば効率が良いか考える事。一枚一枚順番に完成させるよりも、まず一気に数枚ハンコを押し、書名をした上で計算結果を書いていく。一枚ずつやらず、そのようなやり方を取っていたのは後藤君だけだったようです。」


後藤俊平はキョトンとしている。

今の言葉が猿の頭に入らなかったのだろうか。それなら納得だ。

……いや待てよ。じゃあ特に考える事も無く、本能でその行動を取り、

最も早く終わる方法を考え出したと言うのか。

――やはり後藤俊平、ただの馬鹿ではない。

寮長に選ばれるだけの素質を持っているという事か。



「……だが実は、これは枚数だけが勝負じゃないんだな!」


桜塚翼は意表を突いたかのごとく愉快そうに笑っている。

まあそうだろうな。枚数と役職とそもそもほとんど関係も無かろう。


「枚数は総希の言った通り、そのまま効率性を示す。それは「庶務」に最も必要な側面だな。良かったな後藤、お前は庶務が一番向いてるぜ。」


後藤俊平は目立つ格好でバンザイをし始める。単純な猿め。


「それから、最後に向かうにつれて字が汚くなっていくものだが、その最後の書類を比べた所、最も字が綺麗だったのは月山だった。これが速筆を要求される「書記」に必要な側面だ。」

「あっ、そう。」


彼女だけは張り合う気すらなさそうだったが、確かに字が綺麗なのは認めよう。

ただ彼女はそっぽを向いている。あまり態度が良いとは言えないな。


「そして最後に、今の書類の金額計算、最もミスが少なかったのは上川だった。これは言わずもがな「会計」に必要な能力。上手く決まったな。」


……成程。まあ良いだろう、その評価甘んじて受け入れようか。


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