生徒会選挙に神現る(4)
○ ○ ○ ○ ○ ○
「優希、立候補しなかったんだね。」
廊下の踊り場に貼り出された、立候補者一覧の表を見ながら、
「春風」桜塚紅は穏やかにつぶやく。
彼の隣には、その推薦代表者である「勝村 幸夫」が、
非常に落ち着いた表情で立っていて、眼鏡を上げる。
「代表者探しに困っていたようですからね……彼とは一度戦ってみたかったものですが……。」
「……うん、……そうだね。」
それから二人は事務局に立候補した他の三人の名前と、
それぞれの推薦代表者の名前を確認する。
「後藤 俊平」……推薦代表者「菊池 博明」。
「月山 和佳子」……推薦代表者「花園 翔希」。
「上川 大樹」……推薦代表者「綿華 小百合」。
「最大の敵は、同じ一年生立候補者である上川君ですね。……一年生の票をどれだけ集められるかにかかっていますから。」
「……上川って、あの頭良い人だよね?自分、勝てる気しないな。」
「勝機はあります。彼と代表者は共に一年四組なのに対して、私は一年一組、桜塚君は一年二組。自分のクラスの票が入るのはほぼ間違いありませんから、そういう意味で一歩有利ではありますよ。」
「……それに「軍団」もあるからね、「教祖」様。」
「いえいえ……役に立てることならば何でも協力しましょう。前回の定期試験で、私が上川君に敗れた事は記憶に新しいですから、彼に負けるわけにはいきませんよ。」
不敵に笑う勝村幸夫と、どことなく不安げな表情を浮かべる桜塚紅。
「教祖」勝村幸夫。その二つ名の由来は、
彼を崇拝する支持者で構成された、「勝村軍団」なる集団を抱えるが為であり、
それは上川の言う「上川教」とは実質も規模も異なるものである。
ゆえに彼には組織票が期待されており、
生徒会選挙を戦う上で、この上ない有利でもあった……。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「ワカ様、今日も綺麗です……」
「知ってるわ。」
「ワカちゃん、明日暇だったら俺とデートに」
「死んでもイヤ。」
「ワカコ!俺、お前の事が好きで」
「整形してから言って。」
月山和佳子は、二年生しか居ない北校舎の、男たちの間を通り抜けて、
渡り廊下を通って一年生のクラスのある三階へと足を向ける。
その間に様々な男子生徒に声を掛けられるものの、全て軽くあしらう。
「翔ちゃん!ちょっと来て~ん?」
一年四組の前に立ち、中にいた花園翔希を呼び出す。
彼女はメイクをばっちり決めた顔でウインクまでして、
他の男子たちに「おおおお」という歓声さえもあげさせる。
しかしその本性を知っている花園翔希は、ため息混じりで返事をするのみだった。
渡り廊下に出ると、月山和佳子は花園翔希の胸ぐらを掴んだ。
「あなた上川なんちゃらのポスターを手伝ったんだって?」
「……いや、あれは弟に頼まれて……」
「黙って。それで、私のポスターは出来たの?今日の放課後から選挙活動よ、分かってるでしょ?」
「あ、それはもう完成して……」
「……なかなかの出来じゃない。私の美しさが良く出てるわ。いい?もう他の立候補者の手伝いなんてしないで。あなたの能力の高さを見込んで推薦代表者にしてあげたんだから、それを慈善事業の様に他人に振りまくのはやめなさい。」
「へーい。」
「ま、私が当選するのは分かってるけど。美しすぎるから。」
「へーい。」
「何よその態度は!」
○ ○ ○ ○ ○ ○
「はー、選挙活動は緊張すっぺ!」
昼休み、二年一組の教室で、座っている椅子を傾けながら、
不安げに、それでいてどこか楽しそうに後藤俊平は言った。
「……しても無い事を緊張しても仕方ねっか!」
浮かせていた椅子の重心を変え、床に足をつけて、後藤俊平は笑う。
向かい合わせに菊池博明が座っており、食事をしていて何も喋らない。
「それにしても今日はいい天気だっぺ、体動かすっぺ!」
「……黙って食え。」
「けど大樹がさ、立候補するから、おれ大樹応援してやりたいんだっぺ!」
「……自分の事を心配しろ。」
訛った言い方でよく喋る後藤俊平に対し、一言ずつしか反応しない菊池博明。
ただ落合恒太を相手するときのような威圧感は持っておらず、
どことなく落ち着きのない彼を微笑ましく見守っているようだった。
「どういうスピーチが良いかな!」
「……さあな。」
「こんな事やりたいっぺ!バンバン意見ぶつけて来い!おれの名前を覚えとけ!みたいにパワー全開って良くないけ?」
「…………」
困ったような顔をしたのは菊池博明だった。
基本的には後藤俊平は勝手に突っ走るタイプなので、
何を言っても無駄だという事を彼は重々承知していた。
「……好きなようにやれ。」
「だっぺ!」
○ ○ ○ ○ ○ ○
「投票お願いしまーす!」
「上川大樹ー!上川大樹ー!」
「おはようございます!上川大樹をよろしく!」
連日の選挙活動は放課後と登校時に行われた。
無論義務では無いが、当選一位のためには少しの怠惰も許されないだろう。
なんだかんだ言いながら、落合君も野球部の発声を利用して、
不自然極まりないが元気な顔を作って印象を良くしているし、
宇野君もどこで覚えて来たのか分からない営業スマイルで、
相手に良い印象を与えている。綿華君も優しげな笑顔で頑張っている。
大変結構。皆の者がこうして神に仕える日がやってくる……
「神様サボんないで。」
「ハッ!神の瞑想を邪魔しない方が良いぞ。」
「じゃあさっさと演説して。」
「ハッ!皆の者よく聞くが良い!生徒会に入り、確実に天下を手に納めるは、バルガクの誇る絶対神、上川大樹だ!まずはその支配下に加われることを、人民よ誇りに思うが良い!愚かであろうとなかろうと、神は全てを正s」
「宗教クサいからやっぱ良いわ。あ、よろしくお願いしまーす!」
綿華君は随分と失礼極まりない女だと言えよう。
神に演説を頼んでおきながら、神の言葉を阻害するとは。許すまじ。
「……投票お願いしm……あ、達也さんじゃないですか……」
落合君が呼び掛ける者達の中に長瀬君が混じり、
こっそり登校しようとしているのを見つけたようだ。よくやった。
「おい恒太黙ってろ!」
「ハッ!よくやったぞ落合君!さあ長瀬君も布教に加わるのだ!」
「うーん、布教してるつもりないんですけど……」
ハッ!今日も布教は順調だとも!




