生徒会選挙に神現る(3)
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「そろそろ立候補を締め切ろうか。これ以上来る気配は無いだろうしな。」
現生徒会長「神崎 一樹」は、立候補を待つための見張り番をしていた、
現図書委員長の西条に声を掛けた。
西条はメガネをクイッと上げて後ろに引き下がる。
「さて、会長立候補二名、副会長立候補一名、事務局立候補四名か。荒れるとしたら事務局だな……」
神崎一樹は立候補者のリストを見つめる。
二日前から状況は変わっておらず、もはやこれで確定だと思われたその時、
背丈の低い、ある男がゆっくりと、生徒会室の受付に現れた。
「よろしくお願いします。」
「承った。」
西条が確実に書類を見て、その名前と推薦者一覧、立候補の役職を確かめた。
そしてハンコを押して、書類の受理が認められる。
後ろから神崎一樹がその立候補職を確かめる。
「……生徒会長、か。」
「はい。神崎一樹会長、あなたの作った伝説を繰り返すのは、私です。」
「…………!」
「一年生にして生徒会長に立候補し、執行部経験もあって当選確実と言われていた二年生を蹴落としたあなたの伝説を、ね。」
彼はくるりと背を向けて、立ち去りながらこう言った。
「一年五組、渡 透。この名前をよく目に焼き付けておいてください。」
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「ハッ!というわけで諸君には再び集まってもらった。いよいよ立候補が決まったが、綿華君から連絡は受けていたと思うが……」
放課後の一年四組の教室。
神はそこに揃った長瀬君、落合君、宇野君、花園君を見渡した。
彼らの役割分担を、昨日決定していたのだ。さすが神。抜け目ない。
「……こんなんで良いならやってきたが……」
垂れ幕担当の長瀬君が、丸めた幕を広げていった。
そこには見事な字で、こう書かれていた。
「華麗なる生徒会執行部へ 事務局一年四組上川大樹」。
「すげーじゃん。さすが書道部。達也ふつーに良い仕事してんじゃね?」
「そうか?……まあ昨日の部活にたまたま出てちょっと書いただけだが……」
「いや、すごいですよ。達也さんにこんな特技があったなんて……」
「おいおい恒太、まるで俺には特技無いみたいな言い方しやがって!」
ふむ。もし神が書けば、読んだだけで見た人間全員が感動する大作を、
見事に仕上げて見せたものだが、まあそれは仕方あるまい。
神が全て動いてしまっては、民が役割を失ってしまうからな。
『何言ってんの、神様アンタミミズみたいでうっすい字書くクセに!』
ちょっと黙ってもらえないかな綿華君。キミほんとに信仰心足りない。
ポスター担当の花園君もどうやら完成させてきたようで、
四枚ほど順々にポスターを広げていった。
……なんと。神様驚愕。グラデーションと色彩豊かに描き上げ、
それでいて中央の上川大樹の名前やスローガンはハッキリと目立ち、
神の似顔絵まであしらったものまであるではないか。
上手過ぎる。全員の奇異の目が花園君に向く。
「あー、兄貴に手伝ってもらってさ。こういうの得意な兄貴が居るんだよ。まあお前らも知ってる通り「翔ちゃん」の方なんだけどさー。」
ふむ。三つ子の兄、花園翔希か。
噂では二年の月山和佳子の推薦者らしいが、中々彼も信仰心が素晴らしいな。
しかし同じクラスだとはいえ、よく神の特徴をここまで捉えたものだ。
神様感心。後々学校で見かけた時に褒美を取らせてやろう。
残る二人、宇野君と落合君は挨拶担当だ。二人は顔を見合わせる。
「じゃあ俺たちも頑張んないとダメじゃん。」
「え、もともと頑張らないつもりだったんですか……?」
「俺は頑張るけど、恒太頑張んなくない?」
「え、何で人にネガティブイメージ押し付けるんですか?悲劇です。」
「いや、だって恒太知らない人に挨拶出来ないんじゃね?」
「……出来ますよ。すごい得意です。」
「嘘付くな。」
……ふむ。神様体操でも踊れば十分宣伝になるぞ。
今では下々の中で一番得意ではないか落合君。是非踊りたまえ。
「あの、人生に一度の拒否権を使っても良いですか?」
ハッ!よく聞こえんぞ。……というわけで、形だけは整った。
意外にも民が頑張ったおかげで、垂れ幕やポスターは完成し、
後は挨拶運動を徹底的に行うだけだな。
綿華君が神の意図を察して告げた。
「挨拶運動には、うのぽんやオチくんはもちろん、神様やあたしも参加するし、出来る限りたっちゃんとヒデも参加してね?」
「ういーす。」
「……何だと……俺の仕事終わりだと思っていたんだが……」
「達也ラクしすぎじゃん。」
「そうですよ、僕のためだと思ってお願いします……」
「かー……仕方ねェな。」
「とにかく、神は事務局立候補者四人の中で、当選者三人に入る事では無く、一位通過を目指す。民よ、ついて来い。神を信じれば間違いなど無い。なぜなら神は古来より」
「というわけで皆さん解散でーす。じゃあ月曜日からさっそく挨拶運動だからよろしくねー。」
……着座していた四人は、思い思いの感想を述べながら退出していった。
綿華君、君はどうして神の邪魔をするのか。
せっかく神が民を奮い立たせようと思った矢先にこれは非道いぞ。
「大丈夫、ちゃんとみんな頑張ってくれるわよ。むしろ頑張らなきゃならないのは、私達の方でしょ?」
「ハッ……言うまでもない事だ。しかし神には見える。神のスピーチを聞いた民が、次々と涙を流し票を投じていくのが……」
「はいはい妄想はおしまいね。」
「君には本当に一度天罰を下さなければならない様だな。」
「良いわよー。楽しみねー。」
「ハッ!神の手を煩わせようたってそうはいかんぞ!」
「はいはいじゃあ帰ろっか。」
「……うむ。」
全く食えん女よ、綿華小百合。
やはり神がここまで自信を持てているのは、
その自信というのは普段の事も、選挙の事もそうであるが、
綿華君なくしてはあり得ない事だったであろう。
彼女は神にこそ冷たいが、皆の先導役を見事に務め、
神を時として非常に熱心に支えてくれるものである。
現に彼女は常にスピーチの事を考えており、実に感心だ。
やはり彼女でなければ上川教の幹部は務まらんな。
日に日に太陽が沈むのが早くなり、もはや辺りは暗闇に包まれる。
街灯の頼りない明かりと、吹きすさぶ木枯らしの中、
どことなく上の空な綿華君と肩を並べて、神は寮への帰路をたどった。
……一位通過は彼女のためにも、果たしてみせようぞ。




