あの頃の日常の断片
「なるほど。一ノ瀬は冥界に逃走した可能性が高いんですね」
「はい。流石に冥界まで追いかけるのはアキラでも難しいので」
「いえ。私達のミスで起こった災害を収めてくださった事、感謝しています」
あの戦いから一日が経ち、ヘルと一ノ瀬心の一件は一旦の収まりを見せた。
氷雨は何とかボロボロになった町を元通りにして証拠隠滅。
巨人となったヘルの姿や蘇る死体などを見たという目撃証言は集団パニックと言うことで片付けられている。
その間、俺達は牛草霊能事務所にて警察の取り調べを受けていた。
まぁ……俺はほとんど話していなくて、全部ファナエルがフォローを入れてくれている訳なんだけど。
未成年なのに家を飛び出して暮らしてるとか、両親が自分の記憶を無くしていて実質天涯孤独状態な事とか、堕天使の力を使って本来借りれない事務所を借りてるとか、警察にバレちゃいけない事をぽろっと言いかねないからな。
『アキラは疲れてるだろうし、ここは私に任せて』
ファナエルはチラリとこっちを向いて微笑んだ。
実際疲れてるのは事実だし、ここはファナエルに甘えて事が過ぎるのを待とう。
「取り調べは以上になります。今回はご協力ありがとうございました」
目の前の警官はそう言ってゆっくり立ち上がった。
近くに居たシンガンのメンツが親しそうに話始めた。
「俺と琴音はこの人を連れて警察本部に行ってくる」
「私達視点での検証も必要だろうしね。氷雨とるる君はその間どうするんだい」
「それなら、私達はこの町に滞在する事にするのです」
「巻き込まれた一般人もここに居る。誰かが監視しなければ」
もっぱら監視ってのは俺とファナエルの事なんだろう。
別に変な事起こす気は無いし、シンガンの奴らにはさっさと帰って欲しい所なんだがなぁ。
「それじゃ、行ってくる。何かあったら連絡してくれ」
雄二はそう言うと、警官と琴音を連れて瞬間移動した。
張りつめていた空気がパッと弾けた様な、やっとリラックス出来るみたいな、そんな感じがする。
「ねぇねぇ始っち!!あの二人さりげなく手繋いでるよ手!!あの秋にぃがだよ!!」
「うぅぅ……俺達が知らない間に、いつの間にそんなリア充に。くそ~~!!置いていかれた~~~!!!」
まぁ、その空気を作ってる一番の原因は後ろで騒いでるあいつらな訳だが。
「お前等……元気だな」
「当り前だろお前。信じて送り出した友人がまるで別人のリア充になってんだぞ!!」
「お前に送り出された覚えはねぇよ!!」
なんだろ、こいつ等と居ると調子狂うな。
肩の荷を強制的に降ろされる様な感じだ。
「ねぇねぇファナエルさん。秋にぃとどこまでヤッたの?襲ったの?それとも襲われたの?」
「さぁ、どうだろうね?」
あっちはあっちで堂々とセクハラかましやがって。
お前、ファナエルが義理の姉になるからってなんでも言っていい訳じゃないんだからな。
「てか、お前等帰りどうすんの?」
「一様帰りのチケットも一ノ瀬さんが用意してくれてたんだ。元の予定では今日の昼頃に帰るはずだったんだ」
「そうか。だったら近くの駅まで送ってやるよ」
そう言って俺が立ち上がると、後方から駄々をこねる声が聞える。
「え~もう帰るの??チケットぐらい後で買えばいいじゃん。僕はここでファナエルさんと女子会でもしてるからさ、秋にぃと始っちだけで行ってきなよ」
「お前な……我儘言ってる場合じゃ無いだろ。学校とか色々あるんだし」
そう言って斬琉を説得していた最中、始が「まぁまぁ」と声を掛けながら俺の肩をガシっと掴んだ。
「斬琉ちゃんだって寂しかったんだと思うぜ。もうちょっとぐらい居させてやれよ」
「でもよ」
「大丈夫だって。学校とか家族とかには俺が良い様に言っとくからさ」
「そ~だそ~だ」って声が事務所に響く。
遠目で見ていた氷雨も「何かあったら雄二の瞬間移動で帰れるのですよ」と気を使い始めてた。
なんかもう斬琉を数日家に泊めないとダメな雰囲気が蔓延し始めてる。
観念した俺は思わずため息を吐いてしまった。
「分かったよ。んじゃ、俺は始を駅まで連れて行くけどファナエルはどうする?」
「私はここに居るよ。斬琉ちゃんが私と話したがってるみたいだし」
ファナエルはそう言うと、そっと俺の傍に立ち寄って耳元でささやく。
「それに始君とは積もる話も一杯あるでしょ?今日は事務所も休みにしてるし、ゆっくり話してきて」
「悪いな、気を使わせて」
「気にしないで。あ、そうだ。レインにリストは送っておくから帰りに食材買って来て。帰ったら3人で晩御飯にしよう」
ファナエルはそう言って、俺のカバンを手渡してくれた。
俺は一言「了解」と言いながらそのカバンを受け取り、始に声をかけた。
「それじゃぁ行くとするか」
「……お前、良い彼女が出来たんだな。俺は、俺はぁぁ」
「泣くなよ。話なら道中聞いてやるから」
騒がしい奴だよ本当に。
まぁでも悪い感じはしないな。
むしろなんか、懐かしい感じがする。
そんな事を思いながら俺は事務所のドアを開けるのだった。




